「ライフスタンス」を社会に拡げ、共に考えるための場
2023年は、社会に「ライフスタンス」に関する対話が増加した年だった。ライフスタンスは、2021年9月、「志あるブランドを世の中に届ける」をビジョンに立ち上がったPARADEが、設立前から核としている概念だ。
大切でありながらも、捉えどころの難しいライフスタンス。それを中心に生まれる経済の新しいかたち「ライフスタンス・エコノミー」を拡げ、生活者と共に考える機会を生み出そうと開催されたのが昨年の「Lifestance EXPO(以下、ライフスタンスエキスポ)」だ。
初回のテーマは、「つくる。買う。選ぶ。の未来」。生活者だけでなく、ブランドを運営する企業側も、どのようなライフスタンスを持ってモノをつくり、選択し、購入するかについて考える場となった。
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手探りで始めた実験的な取り組みも、開催後には一定の手応えが得られていたようだ。エキスポを振り返る対談では、ブランドも生活者も普段とは違うモードが引き出され、会場の各所で対話が生まれていたことに成果を感じていた。
とはいえ、ライフスタンスエコノミーを拡げるための旅路はまだまだ途中。今年のライフスタンスについての問いを投げかける場は、一体どのような空間になるのだろう。
「はたらく」とライフスタンスの関係を問う
2024年のライフスタンスエキスポのテーマは、「はたらく。生きる。選ぶ。の未来」だ。ライフスタンスという新しい概念であっても、つくる、選ぶ、買うといった行為との関係は人々にとっても馴染みやすかったように思う。「はたらく」というテーマは、ライフスタンスとの関係性を捉えるのに難易度も上がりそうだ。なぜ、このテーマになったのだろうか。
中川淳氏(以下、中川氏)「実は、昨年のライフスタンスエキスポが終わってすぐ、来年は『はたらく』をテーマにしようと決めていたんです。モノを買う際にも、選ぶことは大事なのですが、長い時間軸で捉えた際に影響する時間は長くありません。
『はたらく』は、一度選択したら、長い時間関わりが生まれます。その関わりには、いっそうライフスタンスが求められ、もし不一致があれば、尾を引いてしまうことになります。モノを選ぶ以上にライフスタンスが問われる意思決定が『はたらく』にはあるのではないかと。
一方で、実際に仕事を選ぶ際には求人票などの情報に掲載されるものを見て選択しようとしている。ここはライフスタンスが表出しにくい部分。ここに書かれないようなことが本当は大切なはずなんです。そこを考える場にしたい」
人生で仕事に費やす時間は、10万時間以上ある。しかも、「はたらく」はほとんどの人にとって関係するテーマだ。多くの人に関わり、これだけの時間をかける選択であれば、納得のいく意思決定ができたほうが良いに違いない。
『はたらく』に関するライフスタンスは、企業と個人がそれぞれライフスタンスをどう捉えるのか。互いの間でどのような関係が育まれるのか。ライフスタンス全体の中で、『はたらく』におけるライフスタンスをどのように捉えるのがいいのか。
「はたらく」に関するライフスタンスを考える上での観点はいくつかありそうだ。ライフスタンスエキスポより前に、もう少し解像度を上げていこう。
自分が「はたらく」に何を求めているのかを知る
まず、見つめやすいのは一人ひとりの「はたらく」に関するライフスタンスだろう。どのようなタイミングで、ライフスタンスと向き合う機会が生じると考えているのだろうか。
佐々木康裕氏(以下、佐々木氏)「自身のライフスタンスに向き合いやすいのは、転職のときだと思います。ライフステージの変化もあるでしょうし、大きな変化を迎えるタイミングは、自分の選択の軸は何なのかということに向き合いやすい。
どんな仕事をしたいのか、会社のなかでどうパフォーマンスを発揮したいのか、どんな部署で活躍したいのかを考える機会です。ただ、『はたらく』と会社に勤めるというのはイコールではありません。
それ以外にも、ボランティアなども自らのライフスタンスを充実させるような『はたらく』になりうる。今回のエキスポは、『はたらく」の枠を拡げて考えられるようになればいいなと思っています」
中川氏「人は転職するときには検討を重ねますよね。ただ、その際に先ほどのような求人票に載っていないようなコトが、選択する上で重要だということに自覚的ではないことがほとんど。自覚的に選択できるようになるきっかけをつくりたい。
ライフスタンスは、プロダクトやライフスタイルよりも奥にある変わりにくいものだという考えです。『はたらく』に当てはめて考えると、給料などの条件は変わりやすいもの、プロダクトではないかと考えているんです。
これはまだ仮説に過ぎません。だからこそ、いろんな角度で、いろんな人に問いかけて、考えてみてもらいたい。深く考えて選択すれば継続しやすいですし、納得感も生まれますから」
こちらはライフスタンス自体の捉え方を紹介した図だ。プロダクトで選ばれた時代から、ライフスタイルを表現する時代を経て、ライフスタンスをも求められるようになっている。「はたらく」においても、なにがプロダクトで、なにがライフスタイルなのかを考えることも、ライフスタンスの輪郭を捉える上では大切になりそうだ。
佐々木氏「最近、『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』という本を読みました。そこでは人には、強い欲望と深い欲望があると紹介されていたんです。そして、欲望の強さではなく、深さに向き合うことが大事だと。ここにもライフスタンスと通じる部分があると感じました。
世の中にはノイズも多いため、深い欲望に向き合うのは難しい。人によっては、強い欲望のほうを自らのライフスタンスと勘違いしやすいのではないかとも危惧しています。自分の深い欲望がなにかに向き合うと、結果として選択肢も広がるはず」
深く欲望していること、変わらずに自身が求めることとはどのようなものだろう。そう疑問を口にすると、中川氏は最近サバティカル期間中の気づきを共有してくれた。
中川氏「ライフスタンスを考えるというのは、変わらないものはなにかを考えることだと思います。例えば、年齢を重ねていくことでファッションの趣味は変わりますが、根っこの部分はそんなに変わらない。
自分は根源的に何が好きで、何が楽しいのかを見つめ直すことで見えてくることがある。私は休暇中に根源的にはなにが好きなんだろうと振り返ってみたんです。それで自分なりに気付いたのが『学んで、上手くなることが楽しい』ということ。
自分は経営者として20年過ごしてきて、経営者としてのOSのようなものが染み付いています。これは後から身につけたもので、それより根っこにあるのは『学んで上手くなるのが楽しい』という価値観なんだなと。
ここ数年はカードゲームで遊んでいるのですが、それも学んで上手くなっていく過程が楽しくて。ただ、最近は学習曲線が踊り場に来ていて、成長の苦しみのようなものに直面しています(笑)」
中川氏は、仕事を始める前の大学時代に何が好きだったのかに立ち返って、自分の根っこに気づいたという。周囲から求められた結果、自分に課すようになった役割や技術などではなく、自身の内側から生まれる衝動のようなものがライフスタンスに近いのかもしれない。
佐々木氏は、一人ひとりが自身のライフスタンスに向き合うことは、パーパスやビジョンを強く掲げる企業が増えている中で、重要な意味合いを持つと考えているという。
佐々木氏「近年、企業がパーパスやビジョンなどを掲げることが増えています。これ自体は大切なことなのですが、見方を変えれば経営層が従業員の人たちの精神性にまで強い影響を与える状態になりかねません。
経営側からの一方的な押し付けにならないようにするためには、一人ひとりが自身のライフスタンスに自覚的になり、選択していけるようになることも大切なはず。今回のエキスポは、それに向き合うきっかけにしたいですね」
企業の「はたらく」におけるライフスタンスはどう表出するか
パーパスやビジョンなどを強く打ち出すだけでは、企業のライフスタンスになりえないとしたら、どのように捉えるのがいいのだろう。今年のライフスタンスエキスポへの参画企業は昨年よりも増加した。これらの参画企業は、いかにして自社の「はたらく」におけるライフスタンスを表明できるのだろうか。
中川氏「昨年のエキスポで、参画企業のパラドックスさんによるワークショップにヒントがありました。そこでは『はたらくにおけるライフスタンスは志と、企業文化だ』と表現されていたんです。志と企業文化を感じ取って、仕事を選ぶ。
ですが、これが難しい。特に企業文化ですね。例えば、『中川政七商店の企業文化はなんですか?』と尋ねられても、回答は難しいんです。なぜなら、全員で作り出すものだから、誰か一人が語るものでもないし、言葉で説明できることも一部に過ぎない。
会社の中の人たちは、普通だと思っているから気づきにくいというのも共有することの難しさですね。だから、今回のエキスポでは、ユニークな事実を伝えて、解釈は受け取った人に委ねるというスタイルをとってみようと考えています。出展する各社とやりながら、パネルで表現できるように準備中です」
佐々木氏「『実はこんなことも企業文化につながっているのかも』となるユニークな事実を挙げていくのは面白いんです。例えば、Takramだったら、『長男長女が少ない』という特徴があります。これも実は企業文化につながっているかもしれない。
企業文化と言えそうなユニークな事実や、社内の口癖を挙げていくことで輪郭が見えてくるのだと思います。ただ、すべてがライフスタンスと言えるかというとそうでもない。企業の成長フェーズによって変わる口癖もある。
最初はライフスタンスを示していたようなユニークな事象が、徐々に業界内で一般化していくと共にライフスタイル的なものに変化していくこともあるでしょう。例えば、『モダンな良いレストランのスタッフにはタトゥーが入っている』という事実があったとします。
これはパイオニア的に始めたレストランにとってはライフスタンスを示す事実だと思います。ただ、徐々に『タトゥーを入れていると、イケてるレストランに見える』と考えた人がスタイル的に取り入れたとしたら、これはライフスタンスを示しているとは言えない。
企業のライフスタンスはなかなかシンプルに表現するのが難しいですが、こうしたこともみなさんと一緒に考えていきたいと思います。各企業で働く人との対話の場である『茶話会』を開催するので、この場がそうした機会になれば」
あくまで対等な関係。互いによりよい選択をするために
昨年の「モノをどう選ぶか」から、今年の「はたらく」へ。どちらもライフスタンスという大きなテーマのもと、ライフスタンスエキスポのテーマとして設定された。変わらないのは、どちらも対等な関係であるという点だ。
中川氏「私は、富士通に勤務していた頃は従業員という立場で、その後は経営者という立場です。ただ、従業員時代からずっと違和感がありました。現代において、従業員と経営者はあくまで対等の立場。もちろん、条件面や法制度の中では異なる点はありますが、対等な関係だと捉えています。たしかに、以前は法整備も追いついておらず、情報の非対称性も大きかったため、対等ではなかった。それも変わってきていると考えています。
モノもそうです。かつては、モノをつくる側は持っている情報が多く、買う側との情報の非対称性が強かった。情報へのアクセスがしやすくなったことで、モノをつくる側と買う側の関係も対等になってきている。同様に、はたらくにおいても、関係がより対等になっていく。そのなかで、互いに選ぶために、ライフスタンスが大切になるはず」
「はたらく」というテーマの射程は長い。会社と従業員の関係から思考を始めることになるだろうが、「はたらく」におけるライフスタンスは様々な関係にも適用可能だ。
佐々木氏「生活者としての売り買いもあれば、仕事人としての売り買いもある。『はたらく』における買う人と売る人と捉えると、発注と受注も対象と考えられるかもしれません。今回のエキスポではそこまでテーマには仕切れないかもしれませんが、『はたらく』に関して全方位的に対等な関係を考えてみることは、ライフスタンスを考える上でも大切なことなのだと思います」
「はたらく」におけるライフスタンスは、様々な角度から考えられる。「Lifestance EXPO 2024」では、思考するためのヒントが色々と用意されるはずだ。「はたらく」について考えたい人は、ぜひ会場に足を運んでみてほしい。
「Lifestance EXPO 2024」概要
【開催日時】※雨天決行
2024年6月14日(金) 13:00~19:00
2024年6月15日(土) 10:00~18:00
2024年6月16日(日) 10:00~17:00
【会場】
コクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」
〒108-0075 東京都港区港南1丁目8番35号(JR品川駅港南口より徒歩3分)
【出店企業数】
19社
【来場対象】
生きかたから、はたらきかたを見直したい方、仕事と生活のバランスが気になっている方、はたらきやすい、いい企業文化をつくりたい方など、どなたでもご来場いただけます。
【入場料】
500円
※ Lifestance EXPO特製ノート付
※ トークセッション、茶話会チケットは別料金となります
【主催】
PARaDE(運営:PARADE株式会社)
【共催】
コクヨ株式会社
【協賛】
日本仕事百貨(株式会社シゴトヒト)、Peatix Japan株式会社
【メディアパートナー】
株式会社インクワイア、visions(株式会社パラドックス)
【イベント公式サイト】
Website:https://join-parade.jp/lifestanceexpo2024
Instagram:https://www.instagram.com/join_parade
【イベントに関するお問合せ】
イベント運営事務局 contact@join-parade.jp