ものの“手放し方”と“活かし方”から循環を考える

セッションの冒頭、バリューブックスの中村氏、おてらおやつクラブの松島氏は、それぞれの活動紹介と共に、事業を通してどのように「ものの循環」と向き合っているかについて語った。

初めに紹介したのは、バリューブックスの中村氏だ。バリューブックスは、古本の買取と販売を行うオンライン書店を運営している。バリューブックスに買い取って欲しいと送られてくる本の数は、1日に約2万冊。その半分ほどは本を必要としている方のもとに届けられる。しかし残り半分は、再販が難しいものもあるという。背景には、需給バランスが崩れて売れ残ってしまったり、再利用が難しくなってしまったりすることがある。

バリューブックス取締役副社長 中村和義氏

中村氏「例えば、ベストセラーとして多くの方に読まれた本は、大量生産・大量消費のように、最終的には古本市場に溢れかえってしまい、売れないことがあります。多くの人に読まれる本が、必ずしも再び多くの方に読まれるとは限らない。

でも、そういった本を古紙回収に回すのは心苦しい。できる限り『本』という形のまま次につなげられないかという思いから、本を寄付したり他の店舗に置いてもらったりする『捨てたくない本』プロジェクトをおこなっています」

その一環として、小学校や保育園、被災地など、本を必要としている場所に無償で届ける、古本のリユース活動『book gift project』。紙回収に行く予定だった本を集めて低価格で販売するアウトレット本屋『バリューブックス・ラボ』をオープンするなど、様々な形で古本を次の人の元へとつないでいる。

さらに、古紙回収に回さざるを得ない本をもっと手触りのある形で生まれ変わらせられないかと誕生したのが『本だったノート』だ。

中村氏「古紙回収に回すはずだった文庫本を集め、ノートとして作り直しました。ページを開くと活字が混ざっていることもあります。手放した本がリサイクルされて生まれ変わり、『ノート』という形あるものとして残ったことで、ものの循環を考えられる良い機会になるのではないかと感じています」

「受け取り手」がいるからこそ、手放せる

続いて、松島氏よりお寺にあるおそなえものを活かした「おてらおやつクラブ」について共有された。

「おてらおやつクラブ」は、お寺に届く「おそなえ」を、仏さまからのおさがりとして頂戴し、様々な事情によって経済的な困難を抱える家庭に「おすそわけ」する活動だ。2023年3月時点で、全国にある1,860の寺院と、NPO団体や子ども食堂、行政位窓口など688の団体と連携し、月間26,000人の子供たちに様々なお供えものを届けている。

コロナ禍では、全国に暮らすひとり親家庭や生活貧困者から『おやつを届けてほしい』という問い合わせが殺到。当初は松島氏が住職を務める安養寺の事務局から配送活動を行っていたが、届けられる世帯数の限界に達し、配送拠点を分散化。現在は、LINEで24時間365日相談できる窓口を開設し、個人情報の扱いの関係で匿名配送を活用して各所から届けているそうだ。

認定NPO法人おてらおやつクラブ代表理事・安養寺住職 松島靖朗氏

松島氏は、この活動について元々お寺の持つ文化的な土台があったからこその活動であると語る。

松島氏「お寺が全国にたくさんあり、おそなえ・おさがり・おすそわけの習慣がしっかり残っていたからこそ、全国に広めることができました。お寺におそなえものが集まる理由は、仏様のためになにかしたいという信仰心が脈々と受け継がれ、形として残っているから。自分自身もおすそわけやおさがりを受け取り、育ってきたからこそ取りかかることのできた行為だと思います」

おてらおやつクラブで理想的な循環に取り組む松島氏。ただ、同氏は住職として活動する中では、「手放す」ことの難しさを感じる機会もあるという。

松島氏「三輪空寂という言葉がありますが、ここでいう『三輪』とは、 施す人・施される人・施される物のことです。『おすそわけ』で言えば、おすそわけする物、施す者、施しを受ける者のこと。この3つがとらわれない状態であり、手放して、つながっていく状態が理想という意味ですが、現実的にはそう簡単ではありません。

例えば、お寺には、食品以外にも亡くなった方が所有していた本や行き場をなくした仏像など様々なものが寄贈されたりして集まってきます。お寺という存在は、その地域に暮らしていた人の想いや生きていた証などを背負う場所でもあるんです。結局、手放すという行為は、誰かが受け取らなければならない中で、お寺は、その受け取りの役割も担っているのです」

手放す者・受け取る者の「循環」を考える

両者の「手放されたものとの向き合い方」の話を受け、幅氏は「大切なものほど、どうやって手放したらよいか迷われる方も多いと思います。ただ、ものを手放した結果、誰かの元につながっていくことがわかれば、『手放す』ことに対する恐怖心が少し減ってくるのかもしれません」と語り、どうやったらものを手放してもらいやすくなるのか、中村氏に尋ねた。

中村氏「できるだけ『こういう形で活用している』と私たちがわかりやすく伝えることで、気持ちよく手放すことにつながるのではないでしょうか。やはり本を手放した後に関して透明性がなければ、自分のものがぞんざいに扱われるのではないか、なんとなく気持ち悪く感じる、などといった思いが先行してしまいます。だからこそ、バリューブックスでは、古本をどのように活用しているのか、できる限り伝えていくようにしています」

ものを手放しやすくする工夫として、バリューブックスの取り組みの一つに、売った本や読んだ本などをまとめて管理できるツール「ライブラリ機能」がある。幅氏もその機能を使ったことがあり、手放したあとも以前所有していたものを見返すことができることは、すごく重要ではないかと感じたという。

幅氏「以前だったら、手放したものを思い出す機会がなかったかもしれませんが、今はテクノロジーによって、いつでも確認することができます。手放したものが、ライブラリ機能を通じてつながり続けている状態は面白いなと感じています」

中村氏は、まさに、手放したくない気持ちがある一方で、忘れたくない思いから生まれた機能だと説明する。

中村氏「いつ手に取るかわからないけど、忘れてしまうのが怖いから置いておきたいという方もいらっしゃいます。そういった方に、いかに本を手放してもらうかを考えた時に、アーカイブが必要だと考えました。一度手放した本でも、再びほしいと思ったら、手に入れていただければいいと思います」

使い手のことを考え、早めに手放す

ものを「手放す」ことは、「捨てる」行為とは違い、誰かが受け取ってくれるからこそ成り立つ。だが、次の使い手へとつなげるためには、手放すタイミングの見極めも必要だ。中村氏もバリューブックスを運営している中で、そのことを強く感じているという。

中村氏「ものを再活用してもらうためには、できるだけ『早く手放す』ことがベストです。やはり、価値の高い状態で手放してもらえたほうが、次につなげやすくなり、結果的にものを活かすことができます」

さらに、中村氏はものを次につなげるために「早く手放す」だけでなく、手放す時のことを考えてものを買うことも大切だと指摘する。

中村氏「私自身、常にものを手放す時のことを想定しながら買い物をしています。手放した後の使い手がいるか、手放した時のことを考えて商品を生み出している企業かなどを見極めることも大事だと思います」

次につなげるための、ものとの向き合い方について語る中村氏の話を受け、松島氏は改めて三輪空寂を挙げて言葉を続けた。

松島氏「先ほど三輪空寂という言葉をお伝えした通り、施物、施者、施受がとらわれをなくす状態が良いと思います。その状態を作ることが、お互いに助け合う社会の実現に向かうエンジンになると思うので、そういった未来を夢見ています」

ものを手放すことは、簡単ではないかもしれない。しかし、誰の元に手放すか、手放したあとにどのように活用してもらえるのか、などが可視化されることで、「手放す」行為が個人だけでなく、社会にとってもより意義のあるものになりうるのではないだろうか。

ものを「手放す」ことに対する意見を通じて、社会を循環させるものとの向き合い方を考える機会となった。