ステークホルダーとともに、共創のコミュニティを育む

B CorpのBはBenefit for All(すべての人・地球のためのベネフィット)を表す。

「We envision a global economy that uses business as a force for good(わたしたちは、ビジネスをより良い社会をつくるための力として用いるグローバルエコノミーを目指しています)」

これは B Corp認証企業による『B Corp™️相互依存宣言』の最初の一文だ。この宣言には、B Corp認証企業や、その認証機関であり、B Corpムーブメントを推し進めるB Labが、 B Corpのコミュニティとして目指すところが書かれている。そこには「プロダクトや実践、利益を通じて、ビジネスが誰も傷つけることなく、すべての人やものにとってベネフィットになること」といった一文も含まれている。

実際にB Corp認証を取得した企業では、どのように従業員や顧客、コミュニティ、地域、社会と向き合い、事業活動によるベネフィットをもたらそうとしているのか。

石原氏「Burtonが設立された1970年代、スノーボードは“裏山での遊び道具”と捉えられ、満足に練習できる場所もありませんでした。創業者のジェイク・バートン・カーペンターは、アスリートの声を聞きながら優れたプロダクトを開発するのはもちろん、地元バーモント州でアスリートのコミュニティをつくり、地域住民と交渉しながら、滑ることができる場所を増やしていきました」

バートンジャパン合同会社 石原公司氏

創業者の地元バーモント州のガレージから始まった事業は、今や米国以外にも、オーストリア、日本、オーストラリア、カナダ、中国に拠点を展開。Burtonでは、それによって得た大いなる力を、地域コミュニティや地球環境へ還元しようと、複数の慈善活動やチャリティに参画してきた。

Burtonによる地域や地球への貢献活動の一例として石原氏が紹介したのは、創業者のジェイク・バートン・カーペンターが1995年に設立した非営利団体「Chill」、そしてBurtonがパートナーとして参画する環境関連の非営利団体「POW」の活動だ。

石原氏「『Chill』は、ボードスポーツを通して、若者たちの成長と発展を支援する非営利団体です。被災地域の子どもたちや、児童養護施設やフリースクールに通う子どもたちを招待して、スノーボードやスケートボードなど、様々なスポーツを楽しむ機会を提供。さまざまな困難を前に、前向きに生きること、成長することをサポートしています。

ボードスポーツは一足跳びに上達するものではないですが、1日やっていれば、上達を感じる瞬間がどこかで訪れるんです。前より上手くなった、という経験をしてもらうことで、子どもたちには少しでも自信を持ち、日常に戻ったときの糧にしてもらえたらと思い、活動しています。

また、仲間やコーチと一緒に滑りを楽しみ、『うまく滑れた/滑れなかった』や『あの滑りはかっこよかった』と語り合う。その中で、人との繋がりや絆を感じてもらいたいと願っています。実際に、かつてプログラムに参加した子どもが、成人して就職をした際、コーチに挨拶をしにきてくれたこともあるくらい、密なつながりが生まれています。

『POW』は、『Protect Our Winters(私たちの冬を守る)』という名が示す通り、スノーボードやアウトドアを楽しむライフスタイルを気候変動から守る取り組みです。Burtonの築いてきたボードスポーツを愛する人のコミュニティが力を合わせることで、自然環境にポジティブな影響を与えたいと考え、ロビイングや啓発活動、教育活動などに協力してきました」

続いて、酒井氏がファーメンステーションの事業や、生産者を中心としたステークホルダーとの関わり方について紹介する。

ファーメンステーションは、未利用資源(規格外の農産物や食品・飲料製造時に出るフードロスやフードウェイストなど)を再生・循環させる研究開発型スタートアップ。パートナー企業や農家とコラボレーションし、未利用資源を使った原料・素材開発、化粧品や日用品などの商品企画・開発を行う。現在は東京と岩手に拠点を構えている。

ファーメンステーションが実現している、未利⽤資源の循環システム

ファーメンステーションでは、地域や環境に配慮した製法でものをつくることを大切にしており、工場を構える岩手では、地元農家とともに循環の仕組みをつくってきたという。

酒井氏「ファーメンステーションは、お米やりんごの搾りかすなどから、エタノールを作り、残った粕も付加価値のある化粧品原料として販売しています。それでも余ってしまうカスは地元農家が育てている鶏や牛の飼料として利用しています。栄養価の高い飼料で育った動物の糞は質が高いですから、その糞をさらに野菜や米農家の方に肥料として使っています。

飼料や肥料としての利用は当初から考えていたわけではなく、地元農家の方々と日常的に関わる中で『余っているなら活用したい』という声が上がり、始まったものでした。なので、今でも日常的に地域の方々と関わり、話をすることを大事にしています。その中で地域に価値を還元する方法が見えてくるのではと思っているんです」

株式会社ファーメンステーション 代表取締役 酒井里奈氏

B Corp認証を経て、広がるコミュニティ、強固になるパーパス

2社はB Corpを取得する以前から、それぞれのやり方でステークホルダーと向き合い、活動してきたとも言える。鳥居氏は二人に対して「B Corpを取得してから、事業や組織のあり方について、どのような変化があったか」をたずねる。

酒井氏が真っ先に挙げたのはB Beauty Coalitionと呼ばれる活動だ。これは、美容業界のB Corp企業の集まりで、ザ・ボディショップやヴェレダなど、世界各国の美容・化粧品企業が参加している。

活動の目的はビューティーの力でB Corpを実現すること。そのために、化粧品の原料や物流から、パッケージなど、トピックごとのワーキンググループで業界への提言書を作成したり、ウェビナーで学びを共有したりすると言う。

酒井氏「とても能動的な参加が求められるので、誘われた際にも『想像以上に活動が盛んだけれど、ちゃんと時間を確保できる?』と確認をされたほどでした。

参加してからはウェビナーはもちろん、社会的活動について発信するためのデジタルリソースも豊富に共有されました。InstagramやLinkedinの投稿フォーマットがあって、『この日に、こう言う内容を啓蒙する発信をしましょう』と参加企業で一斉に投稿するんです。同じ業界のコミュニティに参加し、知見を得られるようになったのは、B Corpを取得してからの大きな変化ですね」

一方のBurtonは2009年にB Corp認証を取得している。90年代からBurtonで働いてきた石原氏は、取得によってどのような変化を感じたのだろうか。

石原氏「会社の目指すべき姿やパーパスが、より明確になったように感じます。

とりわけBurtonは米国が本社で、日本に支社があるという形。どうしても本社から発せられたメッセージに対して、日本支社のメンバーが心理的に遠さを感じることもあったんです。けれど、そのメッセージに常に共通する一本筋が通った。

会社として利益を出すことはもちろん大事ですし、私たちも特にスノーボードシーズンは毎月、毎週数値を気にしています。ですが、B Corp認証があることで、日々の仕事の先にある、より大きなパーパスを実感できる。会社の共通言語であり、ブランドを支える土台になっていると思います」

事業性と社会性の両立に“ポジティブ”に取り組む

B Corpの取得によって、新たなコミュニティと出会ったり、会社として大切にする価値観を共有できたりと、両者の実践に影響していることが伺えた。その先に、どのような会社を目指しているのか。

鳥居氏がセッションの締めとして「『いい会社』とは何か」をたずねると、二人は共通して「社会性と事業性の両立」を上げた。BCorp認証を取得している企業にとっても、その両立は容易ではなく、これからも向き合い続けるチャレンジなのだ。

酒井氏「私は長らく銀行に在籍していたので、エクセル上の経営数値と睨めっこし、頭をフル回転させる面白さ、苦しさを味わってきました。利益を上げることは、企業にとって大変意義あるチャレンジです。企業がしっかりと成長して大きくなれば、社会や世の中を変える強力な動力源になり得ますから。

一方、私の中には事業性と社会性の両立にチャレンジしたい、そのほうがより面白そうという気持ちもありました。仮に事業活動をすればするほど環境に良い、地域の人が『やった!』と喜ぶ仕組みが構築できたら、今以上の達成感を抱くことができるし、『いい会社』に近づける気がしているんです」

石原氏も酒井氏と同様、そのチャレンジの達成自体を楽しもうとしている。

石原氏「Burtonっぽく『いい会社』を表現するなら『人・地球・スポーツにとって楽しくてポジティブな会社がいい会社』ではないかと思います。

私たちは仕事も、遊びも、とにかく楽しむことを大切にしている会社です。それは自分たちが楽しむだけではなく、周囲の人のマインドにも、地球環境にも、ポジティブな影響を与えるという意味も含まれています。

『いい会社』を目指す道のりすらも、前向きにBurtonらしく歩んでいきたいですね」

両社は「すべての人やものにとってベネフィットになること」というゴールを目指していても、その山の登り方は異なる。

Burtonには、スノーボードの楽しさでつながる強固なコミュニティ、ファーメンステーションには、循環を可能にする技術や生産者とのつながり。事業を通して積み上げてきたステークホルダーとの関係が、その険しい山を登る上での支えになっているように感じた。

自分たちの会社が事業活動においてどのようなステークホルダーと、いかに関わり、関係を築いてきたのか。改めて省みることが、「すべての人やもの」へのベネフィットを最大化するための意義ある一歩なのかもしれない。