2018年もNetflixの躍進が凄まじかった。

そこで、2018年に公開されたNetflixオリジナルのドキュメンタリー作品に続き、今回は「フィクション」作品をご紹介する。週7でNetflixを視聴する筆者が選りすぐった「2018年らしい」オススメのフィクション作品とは?

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日本アニメに賭ける、Netflixの新たな挑戦が描き出した「今見るべき」アニメ作品

Netflixが放つ日本作品の中でも印象的だったのが、アニメだ。2018年1月には、日本漫画界の巨匠、永井豪氏の代表作『デビルマン』を完全アニメ化した『DEVILMAN crybaby』を独占配信した。

悪魔に憑依された少年、不動明がデビルマンとなり、世界をそして、愛する人を救うために戦う。
原作を再現しながらも、ストーリーにラップが組み込まれていたり、同性愛などセクシュアリティについても踏み込んだ表現を取り入れたり、と遊び心豊かに現代社会におけるデビルマンを描き出した。

今作で特徴的なのが、SNSによって可視化される格差と悪意だろう。
作中で、真っ先に悪魔に身を委ねるのは、“何者”にもなれない自分に思い悩む人々だ。さまざまな“功績”や“才能”を持つものがインフルエンサーとして、スマホ画面を埋める中、大衆の一人として彼らの姿を眺める自分に煩悶とし、悪魔の持つ能力に魅入られるキャラクターたちの姿は、胸が痛くなるほどにリアルだ。

一方で、インフルエンサーであり、未来を嘱望される陸上界のスターである今作のヒロイン、美樹はSNSを介し、人々の羨望や嫉妬、悪意と真っ向対峙する。そして、目に見えない大衆の辛辣な反応を前にしても、自分の信念を曲げず発信を続ける彼女の姿勢は物語の鍵となっていくのだ。

ヒップホップに傾倒する若者たち、同性の恋人たち、現代ならではのSNSの在り様…。それらを忌憚なく描いた『DEVILMAN crybaby』は、まさに、「今見るべき」作品だろう。

今年も、日本アニメの金字塔である『新世紀エヴァンゲリオン』の配信や『聖闘士星矢』、そして『ウルトラマン』の3DCGアニメの配信が発表されており、日本の名作をNetflixがどのように進化させるのか、今から楽しみでならない。

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定番のSFドラマシリーズ、2018年の新たな傾向は「一気見」しなくてもいい」?

Netflixといえば、『ストレーンジャー・シングス』、『センス8』のようなダークSFドラマが代表作と考える人もいるだろう。

今年も、見応えのあるSF作品が複数配信された。世界で愛される人気SF小説をドラマ化した『オルタード・カーボン』や1960年代の人気テレビドラマをリメイクした『ロスト・イン・スペース』は、作品が持つ世界観はそのままに、スリリングな展開で「次のエピソードを再生」を押す手が止まらなくなる、Netflixらしい「一気見」したくなるシリーズだ。

その一方で、これまでのSF作品とはまた違う魅力を見せたSFドラマがある。

例えば、『マニアック』だ。『ラ・ラ・ランド』主演のエマ・ストーンを起用したこのドラマシリーズに翻弄された視聴者も多いのではなかろうか。
本作品は、わたしたちが生きるこの世界にそっくりなパラレルワールドにおいて、真っ当な人生を求めて新薬開発の実験台になった男女を描いたSF作品。

奇妙な脳内世界が織りなすストーリーは、話を追うほどに独自の展開を見せ、一見つかみどころがないように思える。そのため、一話一話をゆっくり咀嚼しながら見るのに適した作品だ。

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また、タイのSF学園ドラマ『転校生ナノ』もこれまでにない新しい形式を見せてくれた。主人公の女子高生、ナノが転校を繰り返す中で、様々な学校にはびこる闇を暴いていく今作。ストーリーとしては一話完結でありながらも、各話が独立した『ブラック・ミラー』とは異なり、ナノという魅力的な主人公を中心にしたストーリー軸は一貫している。

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『マニアック』や『転校生ナノ』は、連作短編集のように素朴ながらも異なる魅力を持ったストーリーが集まることで、共通の世界観が作り出されている。ストーリーとストーリーの間に一呼吸置ける余白があるからこそ、「一気見」せずとも、ドラマの世界を堪能できるのかもしれない。

ドラマの「一気見」はスカッとするものの、「うつ」や「肥満」と関連があるとされており、警鐘を鳴らす研究もある。また、GoogleやAppleといったIT大手がスマホの使いすぎを抑制する「デジタル・ウェルビーイング」を推進する中で、「一気見しなくてもいい」、そう思える作品はドラマシリーズに新たな潮流を生むかもしれない。

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現実世界との接続点を考えこまされるがゆえに“怖い”、ホラー、スリラー

2018年もハイペースで配信されていたのが、ホラー、スリラー作品だ。毎週のように新たな作品が発表されたこのジャンルで印象的だったのは、現実との接続を持つがゆえの“怖さ”だ。

例えば、アダルトサイトで配信を行う少女たちの姿を生々しく描いた『カムガール』がある。本作品では、アダルトサイトの人気ランキングで上位を狙うローラが、ある日、ローラにそっくりな誰かにサイトを乗っ取られてしまい、その真相を解き明かそうとする姿が描かれる。テクノロジーの進化によって真贋の判断が不能になるほど作り込まれたフェイク動画“ディープフェイク”の問題を指摘するかのように、主人公のローラにそっくりな人物が登場する。

多くの人にとってオンラインの世界が日常の一部になる今、そこに攻撃的な自分の偽物が登場し、その偽物のツケを自分が払わなくてはならなくなるかもしれない。しかも、ディープフェイク技術の発展により、その本物と偽物の見分けがつかなったら……? そんな恐怖をリアリティを伴って伝えてくれる作品だ。

さらに、年の瀬に配信された『バード・ボックス』には驚かされた。舞台は、見たが最後、自殺衝動に駆られて止まらなくなってしまうという正体不明の存在によって人類が滅亡する間近の世界。見たら死ぬ「それ」から子どもを守るため、目隠しをして決死の逃避行生活を送る母親、マロリーの姿を描く。

作品をスリリングにするのは「それ」を見ても死なない人々の存在だ。彼らは「それ」は「救済」であり、人類の大量自殺を「浄化」であると呼び、他の人間達に「それ」を見ることを強要する。

人類を滅ぼす存在に加担し、人間を裏切る“人間たる”彼らの姿は、同質のもの同士で足を引っ張りあうことで自滅の道を辿ってしまうその状況は、大小はありながらも現実社会の差別構造の中で散見できる。

また、冒頭で紹介した『DEVILMAN crybaby』でも取りあげられた“見えない他者への恐怖”は、SNSを通じ、顔の見えない人々の言葉を一身に受ける私たちだからこそ、より切迫感を持って感じられるかもしれない。

現代ならではの問題意識が根底にある作品だからこそ、明日への一歩を助けてくれる

この一年間にNetflixから配信されたフィクション作品を見る中で、多くの作品において、製作者たちの現実に対する問題意識がストーリーやキャラクター、さらには、ドラマの構成にまで反映されているのを感じた。

ジェンダー、セクシャリティによる差別、人種主義、さまざまな問題が山積みになる社会の中で、私たちを悩ませるのは、目の前のほんの小さな出来事だったりする。だからこそ同じ時代を生き、同一の問題意識を持った作り手による作品への共感と、作品が残すちょっとした後味が私たちに明日を考える余地を与えてくれるのかもしれない。

時の試練に耐えた名作を観る、というのも素晴らしい体験ではあるが、年末年始の休暇も後半戦に入ったこの時期は、明日への小さな一歩を助けてくれる、現代ならではの作品を見てみてはいかがだろうか。