2018年もNetflixの躍進が凄まじかった。

『オルタード・カーボン』や『マニアック』のように良質なダークSFドラマを次々に配信し、『13の理由』や『ナルコス』といった人気シリーズの続編の制作、発表も行われた。また、中国とカナダが共同で製作した3DCGアニメ映画『ネクスト ロボ』の独占配信など、新たなジャンルでもその存在感を発揮している。

こうしたヒット作の背景には、惜しみないコンテンツ投資がある。

2017年度の売り上げとして過去最高の110億ドルを超える数値を叩き出したこともあり、2018年は、最大で80億ドルをコンテンツに投資することを早々に宣言。オリジナル作品に至っては700本を配信する計画を発表した。

しかし、その勢いは留まることを知らない。7月にはコンテンツ予算を最大130億ドルまで増大することが明らかにされたのだ。

そして、その宣言通り、Netflixからこの1年間でたくさんの魅力的なコンテンツが発表されたというわけだ。

そこで、この1年間でNetflixが配信したオリジナル作品をピックアップ。「週7」でNetflixを視聴する筆者が選りすぐった「今年らしい」オススメのノンフィクション作品をご紹介する。

20分でサクッと、世界を取り巻く情勢とトレンドを捉える。新感覚のドキュメンタリー

 

今、社会で何が起きているのか知りたい。けれど、なかなか時間がない。そんな問題を抱えている人は多いのではなかろうか?
日本で、世界で、日々新たな試みが実行されたり、はたまた、社会に根付いた様々な問題が露呈したりしている。
そんな中で、一つひとつのニュースの背景にある構造や文脈を追っていく、というのは中々に骨の折れる作業だ。

そこでNetflixが今年、力を入れて製作したのが、15〜20分でトレンドを追える新感覚のニュースドキュメンタリーだ。

世界の今をダイジェスト』は「仮想通貨」や「男女間の賃金格差」、「音楽」など様々なテーマについて20分で解説してくれる。一つの事象を簡潔に、しかし、多角的にとらえたこの作品は、ニュースにはない新たな視点を視聴者に与える。例えば、「仮想通貨」がテーマの回では、単なる仮想通貨の概念の説明にとどまらず、仮想通貨が起こした革命、そしてなぜ仮想通貨が求められるのか、まで映像資料を用いながら深掘りしてくれるのだ。

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また『世界の”バズる”情報局』は、BuzzFeed Newsに所属するジャーナリスト一人ひとりが「デジタル中毒」や「体外受精の法整備」など特定の社会問題を深掘りしていく。例えば、10代のインフルエンサーを取り上げた際に、レポーターは、インフルエンサーの親たちが互いに協力しあうために頻繁に集まり、互いに助け合っている姿に行き着いた。自分の子供たちに降りかかる無数の賞賛と批判を前に苦悩する親たちの姿は、インフルエンサーたちのSNSの画面に映し出されないものだ。短い時間ながらもニュースの裏側にいる人々のリアルな姿が描かれた今作は、前述の『世界の今をダイジェスト』のトレンドを俯瞰する視点とはまた違った角度から社会を捉えることができるだろう。

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マイノリティに目を向けて。孤独な誰かを共感で救う

数あるNetflixドキュメンタリーの中でも、とりわけ頻繁に配信されていたのが、セクシャリティや人種など、様々なマイノリティに目を向けた番組だ。

そんな中、特に日本でも人気を博したのが、ハイセンスなゲイの5人組、“ファブ5”が、さえないストレート男性を大変身させるリアリティ番組の『クィア・アイ』だ。

今作は、2月にファーストシーズンの配信が開始したばかりだが、すでにシーズン2も配信されている。

エミー賞を受賞するなど、批評家たちも唸らせた『クィア・アイ』。最大の魅力は、“ファブ5”とストレートの男性たちの間に芽生える絆だ。

変身する男性たちの中には、“ファブ5”に疑念を持つ者もいる。しかし、彼らの持ち前の技術と明るさを前に、男性たちが徐々に打ち解けていく姿は、誰もが分かり合える、そんな希望を視聴者に与えてくれるだろう。

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ラテン系のコメディアン、ジョン・レグイザモが送る『ジョン・レグイザモのサルでもわかる中南米の歴史』は、中南米の歴史を軸に、社会に根付いた差別を“笑い”で紐解いていく。

「なぜ西洋人で作られた作品はアートで中南米で作られた作品は民芸品なんだ?」

軽快で辛辣な彼のジョークの中に詰め込まれた無意識の差別に、ハッとさせられること間違いなしだ。

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未来の時間割には「Netflix」があるかもしれない。今年の日本のニュースともリンクする良質なドキュメンタリー

今年、Netflixの新たな挑戦において、印象的だったものが、「教育のためのドキュメンタリー上映許可」だろう。

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Netflixが提供するドキュメンタリー番組の一部を教育を目的とした場において、1回限り上映できる、というこの仕組み。自然科学から宗教、政治まで、様々なジャンルを独自の視点で網羅するNetflixだからこそ提供できる新しい「授業の形」だ。

実際に株式会社KADOKAWAが運営する東京都の通信制高校、N高等学校では、いじめや自殺をテーマにしたドラマ『13の理由』を教材に「ネットいじめ」をテーマとする特別授業が行われたそう

そして、現時点でほとんどの教育ドキュメンタリーが、アメリカ社会の問題を取り上げる中、リストには並ばないものの、日本社会が抱える問題とリンクしたドキュメンタリー作品も多く見受けられた。

例えば、『マーキュリー13: 宇宙開発を支えた女性たち』は冷戦下のアメリカで掲げられた初の有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」に宇宙飛行士候補として、民間から選ばれた13人の女性達の奮闘を描いたドキュメンタリーだ。

「マーキュリー13」と呼ばれた彼女たちは、宇宙を目指し、厳しい極秘訓練を乗り越えていく。しかし、残念ながらその思いは、男性優位の社会の中で散っていくのだ。
彼女たちはどんな気持ちで差別に直面し、それを乗り越えたのか?
彼女たち自身の言葉と当時の映像や資料から真実を紐解いていく。

この半年間で、複数の大学の医学部入試における女性受験生や浪人生の差別問題が明らかにされる中、彼女たちを阻む男性優位の社会構造は、決して“昔のこと”として笑い飛ばせるものではない。
しかし、不当な差別に立ち向かった女性達の苦難と再生は、私たちがより、平等な社会を目指すための道しるべの一つになるだろう。

また、今年最大のニュースの一つに数えられるのが、オウム真理教関連事の実行犯であるオウム真理教の元幹部13人の死刑が執行されたというニュースだろう。日本の戦後史に刻まれたこの事件は様々な疑問を残したまま、後味が悪い形で終結した。

そんな中で、胸の中に渦巻く違和感と向き合わせてくれるのが、アメリカ、オレゴンの片田舎に作られた巨大新興宗教団体のコミューンの栄枯盛衰を描いた『ワイルドワイルドカントリー』だ。

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各話約1時間、全6話で構成された今作は、一度見始めると、ミステリードラマのような展開に目が離せなくなり、見終えた後には強烈な余韻を残す。なぜなら、社会の中で悩み、宗教に救いを求めた人々の葛藤は、決して共感できないものではないからだ。
今作は、社会と個人、そのつながりについてじっくり考えたい人に、是非ともオススメしたい。

最新の社会問題に直結したドキュメンタリー作品を教育の場でうまく活用することで、学生たちがより気軽に、問題を考えるきっかけを得られるのではないだろうか?

それぞれのコンテンツの個性が映し出した2018年

こうして振り返ると、作品一つひとつがそれぞれ個性を持ちながらも、映し出す社会、人々の姿は不思議と重なり合う。

多様性を求め、共感を望みながらも個人間のちょっとした認識の違いで歪んでしまう社会構造や、様々な問題を捉え、解決したいと考えながらも、持ち前の飽きっぽさと山積みになった課題の多さに惑わされ、なかなか前に進めない人々…。

潤沢な資金をベースにした、ニッチな需要にも対応するNetflixのコンテンツは、世相を映す鏡として私たちの前に現れる。

今、社会の中で何が起こっているのか?そしてそれを解決するためには何が必要なのか?
その問いに答えてくれるのは、息抜きのつもりで見たドキュメンタリーかもしれない。
だからこそ、今年の自分や社会ときちんと向き合う、という名目で年末年始にドキュメンタリーを見てみる、というのはどうだろう?