2018年11月にシンガポールで開催された「See What’s Next: Asia」にて、Netflixが『オルタード・カーボン』、『パシフィック・リム』など、5作品のアニメ制作に取りかかることを発表した。いずれも制作は日本などアジア圏を中心に行われるそうだ。

このイベントに参加したNetflixのCCO、Ted Sarandos(テッド・サランドス)氏は、
「アジアには世界でも有数の制作会社が多数あり、魅力的なコンテンツを発信しています。
実際、Netflixで配信されたアジア圏の作品においても、視聴時間の半分以上がアジア圏外の国で費やされています。今後、アジアで制作される作品の多くが、制作国以外でも愛される作品になるだろうと期待しています。」

発言した

Netflixがアジアへ注ぐ視線の熱さは、2018年9月に配信された『ネクスト・ロボ』からも伺える。カナダと中国が共同で制作したという今作。中国以外での配信権を獲得するため、Netflixは3000万ドル(約33億円)を支払ったと報じられている

新たに制作がスタートするアニメ作品の制作費などは明かされていないが、Netflixは今後、コンテンツ制作費として、186億ドル(約2兆1000億円)を投じると報道されていることを鑑みると、多額を投じ、クオリティの高い作品を提供してくれるのではないか、と期待が高まるばかりだ。

また、巨額の資金が投入され、全世界への配信が約束されたNetflixオリジナルズの存在は、日本のアニメ産業にも大きな影響を与えるだろう。現に、海外売上が高まったことで、2017年には日本アニメの市場規模は2兆円を超えた。そんな中、すでに世界規模でファン層を持つ作品のアニメ化は、日本アニメに新しい可能性を提示してくれるだろう。

そこで、今回は、アニメ化が決定した5作品の中から、日本に関わりがありそうな『オルタード・カーボン』と『パシフィック・リム』をおさらいする。

サイバーパンクSF×ハードボイルドなミステリー×ジャポニズム

リチャード・モーガンによるサイバーパンクSF小説を初映像化したドラマシリーズ『オルタード・カーボン』。

27世紀の未来の世界を描いたサイバーパンクSFとしての映像美とハードボイルドなミステリーとしての目が離せないストーリー展開が見事に絡み合いクセになる。また主人公は日本人と東欧人が植民した惑星「ハーランズ・ワールド」出身という設定で、映像中にも日本語が登場するなどジャポニズムを感じる描写も多い。

様々な切り口で楽しむことができる今作をアニメ化するのは『ポケットモンスター サン・ムーン』などを手がける日本の制作会社の「アニマ」。脚本は、『カウボーイ・ビバップ』や『交響詩篇エウレカセブン』の脚本で知られる佐藤大とNYを中心に脚本家、役者として活躍する近藤司が執筆する。アニメでは、ドラマ版『オルタード・カーボン』と同じ舞台で異なるストーリーが描かれるそうなので、ドラマ版とはまた違う楽しみ方ができそうだ。

次元の裂け目から現れた「KAIJU」を人類は打ち砕くことができるのか?

『ゴジラ』など、日本の怪獣作品にインスパイアされ制作された人気SFアクション映画『パシフィック・リム』。今年3月には続編となる『パシフィック・リム: アップライジング』も公開され、公開一週間で全世界で1億2,250万ドルという興行成績を獲得。その人気を確固たるものにした。

舞台は現代、太平洋グアム沖に突如現れた次元の裂け目から現れた未確認巨大生物「KAIJU」と人類の戦いの物語だ。主要キャラの一人として日本人の研究者、モリ・マコがおり、菊地凛子が演じたことでも話題となった。

日本との繋がりを随所に感じる今作、アニメ化にあたり、映画の制作を担当したレジェンダリー・エンタテイメントが制作に関わるということだが、詳細はまだ明らかにされていない。日本のアニメーション技術が関わる可能性も決して低くないだろう。映像化にあたりどのような工夫が凝らされるのか、今から楽しみでならない。

Netflixによるアニメ産業への資金投入は日本にとって吉と出るか、凶と出るか?

Netflixは、2018年11月26日に、2019年前半の日本アニメ作品ラインナップを発表。田村由美が描くサバイバルSF作品『7SEEDS』や人気キャラクターリラックマのストップモーションアニメ『リラックマとカオルさん』の公開が決定した。また、日本アニメの金字塔『新世紀エヴァンゲリオン』の初配信や以前発表された『聖闘士星矢』や『ウルトラマン』の3DCGアニメのティーザーについても情報が解禁され、Netflixと日本アニメの蜜月時代はまだまだ続いていくことが伺える。

その一方で、Netflixはアニメ産業において日本だけでなく、アジア全体を視野に入れている、ということは、アニメ制作におけるアジアの勢力図は今後、塗り変わっていくことが予想され、日本の存在感が危ぶまれる可能性も決して低くはない。

こうした機会を前に、日本アニメがNetflixを介し飛躍していくのか、はたまた、Netflixの需要拡大の踏み台となっていくのか。どちらにしても、国内において、アニメの価値についてきちんと再考する必要性は禁じ得ないだろう。