パーパス経営とは

「パーパス(purpose)」とは、直訳すると「目的」「意図」。ビジネス用語では「存在意義」「存在理由」といった意味で用いられ、組織や企業が提供する社会的な価値を表している。そのうえでパーパス経営とは、自社の社会的な存在意義を明文化し、それに従って経営を行うことを意味する。

パーパス経営が注目されている背景

かつての企業経営は利益を上げ、事業規模を拡大していくことが目的であった。しかし、2011年ごろにアメリカの経営学者マイケル・ポーターが「CSV(Creating Shared Value、共通価値の創造)」を提唱し、社会課題に取り組むことが経済的な価値創造にもつながると説いたことから変化し始める。

その後、2015年に国連サミットで持続的な開発目標(SDGs)が採択されたことを機に、自然社会や人間社会の課題を解決する姿勢は、企業存続のための前提であるという認識が一般的になってきている。

さらに現代は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)が高いVUCA時代とされる。企業もさまざまな変革が求められるなかで、意思決定の軸としてもパーパスを定める例が増えている。

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)との違い

パーパスと並んで耳にすることが増えたのが、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)である。一般的に、ミッションは「使命・存在意義」、ビジョンは「目指す理想の未来」、バリューは「行動指針・価値観」とされるが、パーパスとの区別の曖昧さは否めない。

実際、パーパスとMVVは意味合いが似ており、考え方によってはミッションとパーパスが同一に扱われることもある。違いを挙げるとすれば、ミッションは企業自身から発せられるのに対し、パーパスは社会的な意義や価値に重きが置かれることが多い。

大企業におけるパーパス経営の成功事例

ここからは、国内におけるパーパス経営の成功事例を紹介していく。まずは日本でいち早くパーパス経営に取り組み始めた有名企業から。

クリエイティブの力でパーパスを浸透させる(ソニー)

ソニーグループは、日本におけるパーパス経営の先駆けとして知られている。2019年に発表されたパーパスは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」。これをグループ全体に広げるのには、クリエイティブが大きな役割を果たしている。

同社のクリエイティブセンターは、パーパス策定のサポートに加えて理解促進のためのビジュアライズを担当。さらに、人材理念や子会社のスローガンなども、同センターが一つ一つアウトプットを行った。

クリエイティブセンターは各部門の社員、マネジメント層との対話を重ね、時間をかけてパーパスのブレイクダウンを行ってきた。この取り組みが奏功し、ソニーのパーパスは2022年時点で8割以上の従業員からポジティブな評価が得られている。

企業と個人のパーパスをつなげる(ユニリーバ)

ユニリーバのパーパスは「サステナブルな暮らしを”あたりまえ”にする」。環境負荷を減らし、社会へ貢献しながら、企業としても成長を続けている。

揺るがない指針としてこのパーパスを打ち出したうえで、各ブランド、さらに社員一人ひとりがパーパスを掲げているのがユニリーバの特徴だ。個人のパーパスは、人生の目的や生きる意味で、企業内で叶えたいことである必要はない。

自分の人生の目的を明文化し、それを仕事のなかで実現するためのサポートを行う。企業と個人のパーパスを重ねるのではなく、つなげることで、パフォーマンスの最大化を実現。革新的な取り組みにより売上拡大を支えている。

失敗を恐れないことで成功へと導く(SOMPO)

SOMPOホールディングスのパーパスは「“安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」 。パーパス実現のために、SOMPOホールディングスも社員一人ひとりの「MYパーパス」を追求している。

この取り組みは2021年に始まり、2022年には実現を支援するフェーズに移っているが、そこで重きを置いているのが、挑戦した人を褒める文化だ。失敗したとしても一歩踏み出すことを奨励し、保守的な風土を変えようとしているのである。

失敗も含め、パーパスの実現に挑戦したチームを表彰する社内制度「SOMPOアワード」は、グループ各社から1000件近くの応募が集まった。意識変革の取り組みが、行動へと実を結び始めている。

中小企業におけるパーパス経営の成功事例

続いては、スタートアップ企業をはじめとした中小企業の事例を紹介する。同じパーパス経営でも、大企業との取り組み方の違いが見て取れる。

心から全員が理解できるパーパスを(ファーメンステーション)

株式会社ファーメンステーションは、独自の発酵技術で未利用資源を再生・循環させる研究開発型スタートアップである。掲げるパーパスは「Fermenting a Renewable Society」だ。

代表取締役の酒井氏が大切にしたのは、心から全員が理解できること。覚えやすさを重視しミッションやビジョンはあえて設定していない。これまで3、4人だったメンバーが一気に10人に増えたことを機に、全員が同じ方向を向くために考えられたパーパスだ。

パーパスを設定してからは「Renewableではないものはやらない」など、行動の基準が明確化した。また、社内だけではなく対外的にも考え方が伝わり、企業の注目度アップや、同じ志を持つ人たちが集まりやすくなるという効果にもつながった。

社員一人ひとりが、自ら社会のために働く意識を(大川印刷)

大川印刷は、中小企業のSDGsロールモデルとして広く知られる企業である。2004年からパーパスに掲げるのは「社会的課題を解決するソーシャルプリンティングカンパニー®」だ。

大川社長が舵を切った環境経営だが、社員の理解を得るため常に身近な課題について情報共有を行い、事業をSDGsに基づき再定義し続けている。さらに、毎年パートタイマーを含めた全社員がワークショップを行い、次年度の取り組みを自ら考えることでモチベーションアップを図っている。

大川印刷の取り組みは世の中に注目され、新規開拓営業はほとんど行わずに3年間で175件の新規顧客を獲得。売上高ならびに売上高経常利益率の増加も実現している。

パーパスに基づきメインビジネスを大幅転換(ペットボックス)

ペットボックスグループを運営するオム・ファム株式会社のパーパスは「人もペットもハッピーに!」。パーパスと銘打つことはせずとも、約30年前の創業時から合言葉として存在意義を明確にしていた。

ペットボックスはもともとペットショップを運営していた。しかし、2019年に自社が目指す「人もペットもハッピーに!」を改めて捉え直し、メインビジネスであった犬猫生体販売の中止へと舵を切った。

現在は動物愛護団体と連携した譲渡活動や、ペット関連商品販売、ペットホテル、トリミングサービスなどを実施。人も動物も幸せに暮らせる社会を目指しながら収益性を保っている。パーパス経営を明確に打ち出した、手本のような事例である。

きれいごとではない、持続可能なパーパス経営を

成功事例として挙げた企業は規模の大小を問わず、社員の浸透率や理解度が高く、一人ひとりの行動にパーパスが落とし込まれている。美辞麗句を並べて満足するのではなく、試行錯誤を繰り返し、企業と社員がいかに共鳴するかを追求しているのだ。

パーパス経営に取り組もうとしたとき、「成功させたい」「失敗したくない」という気持ちは少なからずあるだろう。しかし、短絡的な成果を求めるのではなく関わる全員が課題に向き合い、対話を重ねることが、真に存在意義のある企業への成長につながっていくはずだ。

本記事における参照情報の一覧