待ち時間は一度短くなると、長かったころにはもう戻れない。
お湯を沸かす時間もそうだ。
1分14秒。
朝起きて紅茶を飲もうと思った私が、電気ケトルのスイッチを入れ、150mlのお湯を沸かすのにかかった時間。
国内において業界最速の沸騰スピードを誇る電気ケトルは、カップ一杯分のお湯(140ml)を約45秒で沸かす。電気ケトルや電気ポットなどの湯沸かし器が主流である今、1分あれば温かい紅茶を入れるだけの、5分あればカップ麺を入れるだけのお湯を用意することができる。
この便利さを知ってしまった以上、やかんでお湯を沸かす生活に戻るのは難しい。
だが、これからは電気ケトルでお湯を沸かす時間すら、待つのが辛くなってしまうかもしれない。
給水・配管を必要とない自動食洗機を開発したことで脚光を浴びたHeatworks社が、注ぐ瞬間にお湯を沸かすケトル「DUO Carafe(ドゥオ・カラフェ)」を開発したのだ。
沸騰までの所要時間は、0秒。
Duo Carafe は電池式で、最大4カップ(800ml)の水を、使い手が設定した温度まで蓋の中で瞬時に加熱させる。蓋を通過した水だけがお湯になるため、貯水タンクに残った水の温度は変わらない。
蓋の注ぎ口は2つ。赤色の注ぎ口からはお湯が、青色からはろ過された水が出てくるようになっている。ケトルとしても、ピッチャーとしても使える点がより画期的だ。
同製品が一瞬でお湯を沸かせる理由は、蓋の中に搭載されている「Ohmic Array」という独自の加熱技術にある。従来の湯沸かし器では、機械内にある金属に電気熱を送り、発熱した金属(発熱体)を水に触れさせることでお湯を作っていた。
「Ohmic Array」の技術は、この「発熱体」を使用せず、グラファイト電極を用いて、電気を水に直接流すことで液体の温度を即座に上げる。電子レンジのように、マイクロ波で物を温める原理に近いそう。
以前『UNLEASH』で紹介した同社の自動食洗機「Tetra」は、今年の1月にアメリカで開催された電子機器の見本市「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」において、最優秀イノベーション賞を受賞。
Heatworks社はイベントにて「Tetra」の予約受付開始と同時に、「DUO Caraf」の製品発表を行った。発売日は、早くとも2020年まで未定。予約受付のタイミングや値段についても明かされていない。
DUO Carafe は、私たちの生活をどう変える?
従来の電気ケトルに代わって、DUO Carafe を生活に取り入れたとする。
お湯が沸騰するまで待つ必要がないため、平均2〜3分の時間短縮。わずかな差にも思えるが、出かける準備で忙しい朝は、その数分でできることがたくさんあるだろう。
乳幼児のミルク作りから哺乳瓶の殺菌消毒にも役立つ。温度設定ができるため、沸騰したお湯が適温になるまで待つ必要もなく、注ぐと同時にろ過されるため、身体への安全性も高い。
コンパクトなサイズ感のため、ウォーターサーバーのように部屋のスペースを取らず、持ち運びも楽にできる。そのうえ、蓄積された金属部分の錆びが水に触れることもないため、これまで以上に、家で淹れるコーヒーや紅茶の味が美味しく感じられるかもしれない。
家庭だけでなく、オフィスや飲食店での汎用性も期待される。
「スロー」と「ファスト」の使い分けが、日々を豊かにする
ただ、あらゆるプロダクトは単に「早ければいい」わけではない。
一杯の紅茶を淹れるために、電気ケトルではなく、あえてヤカンでお湯を沸かす。温まるにつれ、少しずつ変化する音。たまに蓋を開け、気泡の数を確認する。もやっと白い湯気が立ち上るのを合図にコンロの火を消し、ゆっくりとお湯を注ぎ込む。
その5分、10分が、心に安らぎを与えてくれることだってある。お湯が沸くまでの時間、ちょっとした考え事をするのが好きな人もいるかもしれない。
身の回りのプロダクトにおける「ファスト化」が進むなか、今後焦点となるのは、その時々に応じた「スロー」と「ファスト」の使い分けではないだろうか。
心や時間に余裕があるときは、ヤカンを使ってゆっくりとお湯を沸かす。
忙しいときは、DUO Carafe に頼ればいい。
「スロー」ばかりは難しいし、「ファスト」だけではどこか寂しい。
両者が共存して初めて、私たちの生活は本当の意味で“豊か”になるのだと思う。
「時間」との向き合い方を考えさせてくれる
前までは長い時間を要することが当たり前だったことも、一度早く済むことを体験してしまえば、少し待つだけでも辛く感じてしまう。
DUO Carafeを使えば、お湯を沸かすのにかけていた、たった数分の時間さえも“ゆっくり”だと感じるようになるだろう。
ついこの間までは「ファスト」に感じていた時間が、「スロー」になる。
同じ時間の流れなのに、感じ方は意識によって大きく変わるのだ。
「時間」との向き合い方をも、考えさせてくれるプロダクト。
それが、DUO Carafeの正体なのかもしれない。