スタートアップでは、新しいビジネスを立ち上げるための様々な手法が開発されている。こうした手法は、従来のビジネスにも応用が効く。
すばやく始める、小さく始めるという考え方が浸透すれば、従来のビジネスにおいても新しいビジネスの立ち上がりが活発になるはずだ。
「食」という領域において起き始めている新しい動きを見ていても、それを感じさせられる。
シェフのためのコワーキングスペース
食マーケティング総合企業の株式会社favyが、この秋に「シェフのためのコワーキングスペース」を銀座にオープンする。シェア型レストランとして飲食に特化したコワーキングスペースは、日本で初めての登場だろう。ニューヨークのブルックリンでは、2016年にシェフのためのコワーキングスペース「FOODWORKS」がオープンしている。
favyが展開するのは、約120坪の広さで120席ほどを予定しているシェア型飲食店だ。パッと見は1つの飲食店に見えるが、キッチンの中には5人のシェフが滞在できるスペースがあり、それぞれに調理機材と収納スペースが用意されるという。
今回のコワーキングスペースに入居するシェフは、各自でメニュー考案と料理提供を行う。同レストランでは、入居するシェフ次第で、来店客はさまざまなジャンルの料理を楽しむことができる。
店舗を持たないゴーストレストランのような業態の登場も合わせて見てみると、飲食ビジネスを立ち上げるハードルは下がりつつある。
新しい飲食店の立ち上げハードルを下げる
シェフのためのコワーキングスペースは、料理人が起業する際の「出店コスト」「スタッフの採用」「集客ノウハウ」といった課題を解消する。favyがシェア型飲食店を立ち上げるのは、こうした飲食業界特有の起業リスクと課題を解決するためだ。
そして、他の業界と同じく、飲食業界も働き方の改革には着手できていない。
「日本には数多くの飲食店があり、数多くの料理人が腕をふるっていますが、通常シェフと呼ばれる人は、1つの飲食店に1名しか存在しません。そのため、1つのお店で長く働いても、シェフになるチャンスが回ってこないことも多く、独立して自分でお店を開いたとしても、起業にはリスクと課題がつきまとい、失敗してしまうことも少なくありません」
とfavyはプレスリリースの中で飲食業界の構造的な問題に対して指摘する。飲食業界は新規参入の敷居が低いぶん、3年で7割のお店が潰れるという。食べることはエンターテイメントだ。新しいお店が生まれ、長続きしなければどんどん食の多様性は少なくなってしまう。
シェアすることでいくつかの課題は解消に向かう可能性がある。インターネットから始まったシェアリングエコノミーのトレンドが、ネット外に染み出していく動きには今後も期待したい。