増える行方不明、埋もれる情報
従来、行方不明児童の捜索は「情報を拡散する」という発想で組み立てられてきた。行方不明ポスター、SNSでのシェア、ニュース報道。いずれも、情報をできるだけ多くの人に届けることをめざす手法だ。
ベルギーでは2024年、行方不明児童の新規案件が前年より22%増えた。一方で、行方不明を知らせる情報は届きにくくなっている。SNSやニュースで流れる捜索情報は、日々の情報の洪水のなかに埋もれやすい。多くの人は心を痛めながらも、「自分には何もできない」と感じてしまう。
Miles for the Missing は、ここで発想を切り替えている。情報を広げるのではなく、すでに街を移動している人たちを、分散した捜索者へと変えるアプローチを取った。ベルギー国内に130万人以上いる Strava ユーザーに着目した。
彼らは毎日のように、公園を、住宅街を、駅の周辺を、森林を、河川敷を走っている。意識してはいなくとも、街のあちこちを見渡しながら移動している人たちでもある。この「すでに街を巡っている目」を、捜索の力として束ねられないか。発想はそこから始まっている。
ランナーを「移動する捜索網」に変える
参加者は Strava 上の「Miles for the Missing」クラブに入り、子どもが行方不明になると、まず Child Focus から通知が届く。参加者は顔写真や特徴を確認する。あとは、いつもどおり走りながら、周囲に注意を払う。発見や有力な情報があれば、専用の窓口へ連絡する。
つまり、日常のランニングが、そのまま捜索活動になる。新しい時間や労力を求めるのではなく、すでにある行動の上に、もうひとつの意味を重ねている。
さらに踏み込んでいるのは、ルートへの介入だ。専用サイトでは、Strava のヒートマップ、失踪場所、時間帯、そして AI を組み合わせて、普段とは異なるルートを提案する。駅、バス停、ガソリンスタンドといった、目撃情報が生まれやすい場所を経由するように設計されたルートだ。
ランナーには「いつもの道」がある。同じコースを繰り返し走る習慣そのものを、設計の力でそっと変えている。ランナーの自由を奪うのではなく、走る範囲を少しずらすことで、街を見渡す目を増やしていく。
開始から短期間で、Miles for the Missing はベルギー最大級の Strava クラブへと育った。公式サイトの表示によれば、参加者は約1万2000人以上、走行距離は累計で約800万kmを超える(2026年時点)。捜索情報を届ける恒常的なチャネルとして機能しはじめている。
特筆すべきは、この取り組みが「終わらない」ことだ。話題を一過性に消費して幕を閉じる広告とは違い、Child Focus がこれからも使い続けられる社会インフラとして設計されている。キャンペーンの成否ではなく、継続そのものが目的に据えられているのだ。
すでにある行動に、意味を重ねる
人に「新しいことをしてください」と頼むのは難しい。新しい習慣は根づきにくく、善意も長くは続かない。Miles for the Missing は、その壁を回避している。すでに行われているランニングに、もうひとつの役割を持たせているだけだからだ。
ランナーと、アプリと、保護団体。それぞれ別々に存在していたものが、ひとつの生態系としてつながったとき、街は捜索の網に変わる。
何を新しくつくるかではなく、すでにあるものをどう組み替えるか。限られた資源で社会課題に向き合うさまざまな現場にとって、参考にしたいケースだ。