スリーエス株式会社が、社債専門ネット証券の Siiibo 証券を活用して少人数私募社債を発行した。調達した資金は、24 時間型訪問介護所「アウケアホーム」の新規開設費などに充てられる予定だ。
スリーエスは「どんな人でも、自分の人生を決められる世界」を掲げ、高齢化率の高い地域で介護サービスを拡充しながら、現場知見を介護事業者向け SaaS「PORTALL」に実装し、オペレーションを標準化してきた。
今回、同社が採用した少人数私募は、50名未満の投資家に限定して社債を販売できるスキームで、オンライン完結のため公開コストを抑えながら、理念に共感する個人投資家と直接つながれる点が特徴だ。
近年、日本でもベンチャーデットと呼ばれる動きが本格化し、低金利と上場長期化を背景に、株式調達だけではない成長資金の組み立て方が模索されている。株式の希薄化を避けたいスタートアップにとって、デットファイナンスの中でも「社債」は選択肢のひとつとして存在感を増している。
社債は投資家が企業に直接投資できて、定期的に利息を得られるシンプルで分かりやすい金融商品だ。発行企業側は経営権を維持しつつ、計画的に返済原資を確保できれば資本コストを抑えられる。共感軸でつながった個人投資家との継続的な関係構築が可能な点も副次的なメリットとなる。
債券型のファイナンスは、収益性と社会的インパクトを同時に追求する事業との相性が良い。たとえばシングルマザー向け住宅支援を行う LivEQuality 大家さんは、インパクトボンド(私募社債)で累計約 5.9 億円を調達し、アフォーダブル・ハウジングを拡大している。
「投資家が利息を得ながら社会課題の解決に参画できる――債券は、寄付と VC の中間にある資金循環装置だ」(インパクト投資家のコメントより)
介護、教育、地域再生、環境など“パブリック・グッド”を扱うスタートアップがデットを組み合わせれば、寄付に頼りすぎず、株式の希薄化も抑えながら、ミッションに共感する個人資金を呼び込める。公共性の高い事業ほど、成果連動型(SIB/PFS)やサステナビリティボンドとの連携も視野に入る。
フィンテックによる手続き簡素化と規制コストの低減で、私募社債は小口・短期・テーマ特化へと進化しつつある。投資家サイドでは ESG やインパクト志向の個人マネーが債券市場にも流入し、共感を資本に変えるダイナミズムはさらに強まるだろう。今後、社会的企業が社債によるベンチャーデットを検討するケースは確実に増えていきそうだ。