地球規模の複雑な課題を解決するための「システミックデザイン」

初めに登壇したのは、相模女子大学教授である依田真美氏。テーマは「システミックデザインを紐解く」だ。依田氏は、デザインの研究者と実践者による活動団体「DesignRethinkers」の一員として、デザインの未来を探求している。

DesignRethinkersは、2020年ごろからデザインに関連した書籍を中心に、読書会を継続して開催しているという。さまざまな書籍に触れる中で「社会におけるデザインの役割が再検討されていることに気づいた」と依田氏は振り返る。そして、社会におけるデザインの役割を学ぶ中で出会ったのが「システミックデザイン」だ。

システミックデザインとは「システム思考(編注:問題を構成する個別の事象ではなく、各要素間の関係に注目し、その全体像を「システム」として捉える思考法)」と「デザイン思考(編注:デザインのアプローチを問題解決のプロセスに応用する思考法)」を掛け合わせたものとして紹介されることもあるが、依田氏はより具体的にこう解説する。

依田氏「システミックデザインの定義は若干ばらつきがあるのですが、DesignRethinkersでは『直線的な解決方法ではなく、システム全体を包括的に捉え、それらに変容が浸透していくことを目指したデザインを分野横断的に探索し、実行すること』と捉えています。

私たちが解決すべき社会課題は複雑です。解決したと思っても、それは『部分的な解決』でしかない場合も少なくありません。その場合、短期的には状況が改善したように見えても、後に思わぬ弊害が生じることもあります。だからこそ、課題の全体像と、それを構成する個々の要素の関係性を分析していくことが重要なのです」

相模女子大学 学芸学部/大学院社会起業研究科 教授 依田真美氏

相模女子大学 学芸学部/大学院社会起業研究科 教授 依田真美氏

課題の構成要素やそれらを取り巻く環境などを含めて、課題を包括的に捉えようとする動きは、世界的に活発化している。「たとえば、十数年前からシステム思考とデザイン思考をつなげようとする動きが加速している」と依田氏。

2012年から毎年、システム思考とデザインを関連付けることを目的としたカンファレンス、「Relating Systems and Design Symposium」が開催され、2018年にはノルウェーに本部を置く「システミックデザインアソシエーション」という国際的な研究と実践のためのコミュニティが立ち上がった。また、オランダのデルフト工科大学などでは、システミックデザインがカリキュラムに組み込まれているという。このように、欧米ではここ10数年で、システミックデザインの探求や教育が進んでいる。

ではなぜ、そのような流れが生まれたのか。その答えは、地球規模の課題解決を巡る歴史にあるという。

1970年、食料不足や環境汚染、資源の枯渇などの課題を解決し、持続可能な未来を実現するための研究を行う民間のシンクタンク『ローマクラブ』がスイスで設立され、1972年には『成長の限界 ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』が出版された。その任にあたったのが、MITのシステムダイナミクスの研究者を中心としたチームだが、彼らは活動を通し、環境問題はシステムを分析しシミュレートするだけでは解決することができず、対話を通じて人々に働きかけることが重要だと認識するようになったそうだ。

そのような背景の下、「システム思考とデザイン思考は『出会うべくして出会った』」と依田氏。

依田氏「非常に単純化して言えば、デザイン思考の強みは『部分にフォーカスすること』にあります。ここでいう部分へのフォーカスとは、『人間中心』の分析のことです。構造的な課題解決プロセスを確立し、手を動かしながら共創しすることで対話を育む。そして短期間でプロトタイプを作成し、改善していくことも強みです。

一方で、システム思考は『全体にフォーカスすること』に長けた思考法です。環境問題の解決に向けて活用されることが多かったこともあり、『地球中心』の分析にも適しています。また、システムは動的なので、その点を考慮し、時間軸を変えて、さまざまな影響や変化を想定することができる。

また、『システム』という言葉からはイメージしづらいかもしれませんが、対話を重視している点はデザイン思考と共通しています。しかし、デザイン思考のような丁寧な顧客視点の分析や短いスパンでプロトタイピングを繰り返すアプローチは、システム思考に含まれていません。

このようにデザイン思考とシステム思考には、共通点もあれば差異もあるわけですが、それぞれの強みを融合することで複雑な課題を解決に導けるのではないかと考えられ、この2つの思考を合わせた『システミックデザイン』が生まれたと推測されます」

システミックデザインを実践するための「4つの役割」

このように、システミックデザインは「システム思考」と「デザイン思考」をベースに成り立っている。システム思考の実践家であるドネラ・メドウズ氏によれば、システム思考において「システム」とは「目標の達成に向け、一貫性をもって組織される相互に繋がっている一連の構成要素」だと定義されている。人間が持つ「消化機能」や学校、交通網から社会まで、その対象は幅広い。

では、なぜシステム思考では社会のさまざまな要素を「システム」として捉えることが重視されているのだろうか。依田氏は、その理由として「(システムとして捉えることによって)さまざまな時間軸で、そのシステムが与えうるインパクトを予測することができるから」と解説する。

依田氏「たとえば、ホームレスの方々向けに短期の滞在施設を用意したとします。短期的に見れば、ホームレスの方々が身も心も落ち着ける場所を手に入れられるので、ポジティブなことのように思えますよね。そして、ホームレスの方々が街から姿を消すと、多くの方は『ホームレス問題が解決した』と思うのではないでしょうか。

ですが、表面的には解決したように見えても、本質的な解決にはなっていないわけです。ホームレスの方々のメンタル面のケアだったり、安定した職を得るためのサポートだったりと、中長期的にはやるべきことがたくさんあるはずなのに、『問題は解決した』と思われてしまうと、行政からの予算が下りなくなってしまう可能性があります。つまり、短期的なインパクトだけに目を奪われてしまうと、中長期的には思わぬ弊害を生んでしまう。

ですから、システム思考では単に要素間の関係を紐解くだけではなく、長い時間軸でどのようなインパクトが生じるかを俯瞰して見ることも重視されています」

「システム思考において、もう一つ重要なことがある」と依田氏。それは「問題が『なぜ』生じているのかを、深掘りして考えていくこと」だという。知覚できることだけではなく、その下部構造を捉え、さらにその下部構造を形づくっているメンタルモデル、すなわち、私たちの意識や無意識の「思い込み」をも分析することが求められる。

このようにシステム思考は、「短期」から「長期」へ、「部分」から「全体」へとズームアウトする力を持つ思考法だ。対して、「デザイン思考はズームインする力を持つ」と依田氏は言う。この2つを組み合わせたシステミックデザインとは、「ズームアウトとズームインを繰り返しながら分析のプロセスを進め、複雑な課題を解決に導く思考法」なのだ。

そんなシステミックデザインの実践のプロセスは「課題をめぐるさまざまな要因とその関係を全体的(システミック)に捉える」「課題に対して有効な介入ポイントを探す」「理想の状態を思い描く」「その介入策を考え、実行する」の大きく4つに分けられるという。

そして、一連のシステミックデザインのプロセスを実践するためのフレームの中で、依田氏が「特に重要」としたのが、実行に必要とされる「4つの役割」である。イギリスのデザインカウンシルがシステミックデザインの実践に必要な要件の一つとしてまとめたものだ。

依田氏「1つ目の役割が『システム思考家』です。この役割を担う人には、問題を構成するすべての要素が大きな構造の中でがどのようにつながっているのかを把握し、マクロとミクロ、そして分断されている各要素の間を行き来する能力が求められます。

2つめ目の役割は『リーダーとストーリーテラー』。チームが実現可能なことを見定め、なぜそれを実現することが重要なのかを魅力的なストーリーと共に語ることによってさまざまな階層の方から賛同を得、仕事をやり遂げる粘り強さが必要とされる役割です。

『デザイナー・制作者』が3つ目で、この役割にはデザインとイノベーションツールを理解し、物事を実現するための技術的・創造的スキルをプロジェクトの早期から活用することが求められます。

そして4つ目の役割が『人と人をつなぐ人・招集する人』です。さまざまな背景を持つ人が集まる場所をつくり、点と点を結ぶことによって大きなムーブメントをつくる役割を担います」

「これらの役割を一人が担う場合もあれば、分担する場合もある」と依田氏。しかしいずれにせよ、この4つの役割を担えるメンバーをコアに据えなければシステミックデザインの実践は困難だという。

最後に、依田氏はシステミックデザインの実践に関してこんなアドバイスを送った。

依田氏「システミックデザインを取り入れて何かしらの課題を分析していると、さまざまな要素が複雑に絡み合っているがゆえにだんだんと話が大きくなり、時として自分が何をすべきかわからなくなることがあります。

そんなときは、まず解決すべき課題を俯瞰的に捉え、自分たちの強みやリソースを確認し直します。その上で自分たちが介入し、変化を起こせるポイントを早い段階で見極め、そこを起点にプロセスを実行していく。それがスムーズな実践を手助けしてくれるのではないでしょうか」

官民がリスクとリターンを共有し、大きなインパクトを生み出す

続いて、株式会社リ・パブリックCo-CEOの市川文子氏より「これからのデザインは何を目指すのか」をテーマに、システミックデザインを取り入れた実践例が紹介された。

まず市川氏は、JAXAが2024年1月に実施した、小型月着陸実証機「SLIM」の「精密(ピンポイント)着陸」に触れた。このプロジェクトの目標は「目標地点から、誤差100m以内に着陸させること」。結果的には見事に目標を達成したものの、着陸後のトラブルなどもあり、「成功か失敗か」を巡ってさまざまな意見が挙がったという。

しかし、市川氏は「成功か失敗か」よりも、「誤差100m以内」という極めてクリアなミッションの達成に向けて、官民の垣根を越えてさまざまなステークホルダーがそれぞれが持つ技術を持ち寄り、大きなミッションの達成に挑んだことが重要だとする。

そして、イギリスの経済学者であるマリアナ・マッツカートが著した『ミッション・エコノミー:国×企業で「新しい資本主義」をつくる時代がやってきた』(NewsPicksパブリッシング,2021)を紹介した。

依田氏が指摘したように、欧米では日本に先んじて「システム思考」や「システミックデザイン」が普及した。その普及を後押ししたのが、マッツカートの思想だと市川氏は言う。マッツカートが提唱するミッション・エコノミーとは、「政府が公共性のあるミッションを掲げ、多様な企業や市民を巻き込み、みんなで経済を成長させながら同時に公共の利益を達成していく」こと。「部分」ではなく「全体」として課題解決に挑むべきだとする点に、システミックデザインとの親和性が見て取れる。

背後にあるのは、もはや「市場」の力だけでは、複雑な社会課題を解決することはできないという考えだ。

市川氏「官民が一体となって公共性のあるミッションを掲げ、そのミッションの達成に向けて、何をなすべきかを共に探索していかなければならないと考えています。政府は『特定の社会課題の解決に取り組んでいる企業に補助金を出す』のではなく、『共にリスクとリターンを分かち合う』といったビジョンが求められているのです。

当然、政府や行政と企業以外のステークホルダーを巻き込んでいかなければなりません。これまで、『ビジネス』という枠組みには入ってこなかったようなステークホルダーをも巻き込むことによって、大きなインパクトを実現しなければなりません」

株式会社リ・パブリック 共同代表 市川文子氏

株式会社リ・パブリック 共同代表 市川文子氏

デザインの目的は「ニーズの充足」から「ミッションの実現」へ

では、「官民が一体となって公共性のあるミッションを掲げ、そのミッションの達成に向けて、解決策を実行する」とは、具体的にどのようなことを指すのだろうか。市川氏が「日本における好例」として共有したのは、鹿児島県大崎町における取り組みだ。

市川氏「自治体のゴミ焼却炉の建設費は、数百億円以上といわれています。かなりのコストがかかるため、老朽化などによって新たな施設が必要になっても建設することを避け、ゴミ焼却炉を持たない自治体が増えていくと予想されているんです。

鹿児島県大崎町も焼却処理施設を持たない自治体の一つで、従来からゴミを埋め立て処分していました。しかし約20年前、このままのスピードで埋め立て処分を進めていくと、早晩ゴミを埋めるための土地がなくなってしまうという問題に直面します。

そこで行政、企業、市民が協議を重ね、町を挙げてリサイクルに注力することを決定。それから徐々にリサイクルを促進し、2020年にはリサイクル率83.1%を達成し、14年間連続でリサイクル率日本一の自治体となっています。リサイクル率の全国平均が20.0%であることを考えれば、とても高い数字ですよね」

それだけでも大きな成果といえそうだが、埋め立てなければならないゴミがある以上、状況はだんだんと逼迫していく。そこで、大崎町が次なる一手として講じたのが、「再生不可能なマテリアルを、再生可能なマテリアルに変換すること」だった。具体的には、使用済みの紙おむつを、新しい紙おむつに再生する取り組みを開始したのだ。

市川氏「大崎町におけるリサイクルできない、すなわち埋め立てなければならないゴミのうち、約2割が紙おむつだったそうです。これは大崎町だけの問題ではなく、日本全体の家庭ゴミの1割程度が紙おむつだとされており、高齢化社会が進む中でその量は今後も増え続けると予想されています。

そこで、大崎町では紙おむつを製造している企業と協定を締結し、世界初のリサイクル紙おむつの商品化を目指す取り組みを開始しました。市民は使用した紙おむつを町内の施設に持ち込み、企業がそれを回収した後、さまざまな工程を経て再度製品にするサイクルが確立されています」

行政と企業、市民が一体となり、「ゴミを極限までゼロに近づける」という公共性の高いミッションを掲げ、公益と経済の両面にポジティブなメリットを与えているという意味において、まさにミッション・エコノミーの好例といえるだろう。

こういった事例の増加を踏まえ、市川氏は「これからのデザインの目的」についてこう言及した。

市川氏「これまでのデザインは、ニーズを充足させるためのものとして機能してきました。『こんなものが欲しい』というニーズを満たすために、デザインはあった。しかし、現在はデザインの目的として『ミッションの追求』が台頭しているのではないかと考えています。

これからのデザイナーに求められるのは、『ものをつくる』ことよりも、システミックな変化を生み出すためには、どのようなステークホルダーをいかにつなぐべきかを考え、多くの人をつなぐファシリテーターのような役割なのではないでしょうか」

デザインの拡張から紐解く、「システムの相対性」

次にマイクを握ったのは、ロフトワークのクリエイティブディレクターである谷嘉偉氏だ。同氏からは「『システム』という概念の相対性」「トランジションデザインにおけるシステムの捉え方」「トランジションデザインの実践例」が共有された。

谷氏は「みなさんもすでにお気づきの通り、『システム』とはとても捉えにくい抽象的な概念です」と語り始め、「Design for Interactions」と書かれた一つの図を示した。この図は、トランジションデザインを生み出したカーネギーメロン大学のデザイン学部が考案したもので、さまざまな領域のデザインがどのように関わっているかを示しているという。

図中、向かって左側に位置するのが「人工物」で、右側にあるのが「自然物」だ。そのグラデーションの中に「Design for Service」「Design for Social Innovation」「Transition Design」という3つのデザインの領域が存在している。つまり、最も左に位置する「Design for Service」は、「『人工物』寄りのデザイン領域」ということになる。

そして、図にはそれぞれのデザイン領域の目的と対象が書かれており、そこにはいずれも「systems(システム)」という単語が入っている。たとえば、「Transition Design」の目的と対象は、「Radical change;Future paradigms and systems(未来のパラダイムおよびシステムの急進的な変化)」である。このことが意味するのは、どのような領域のデザインにおいても、何かしらの「システム」がその対象になっているということだ。

次に谷氏は、「持続可能性のためのデザインの拡張」を表した図を示し、デザインの拡張の流れを説明した。

この図の横軸は「デザインが介入する対象」で、縦軸が「デザインが解決する課題」となっている。図中に丸で示されているのは、さまざまな「デザイン」だが、位置する場所が右にいけばいくほど、そのデザインが介入する対象が広く、上にいけばいくほどシステミックな問題の枠組みへと広がっていく。

谷氏「ちょうど真ん中あたりに『product-service system design for sustainability』という言葉がありますが、それよりも右側に位置する、つまり、よりシステミックな対象への介入を企図するデザイン領域も存在します。

このことからわかるのは、一口に『システム』と言っても、そこには相対性が存在するということです。そして、社会やそこに存在する課題が複雑になればなるほど、よりシステムにアプローチするためのデザインが求められます」

トランジションデザインは、いかに「システム」を変化させるのか

続けて谷氏は、トランジションデザインにおいて、システムがどのように捉えられているかを解説した。先ほども触れたように、トランジションデザインは「未来のパラダイムおよびシステムの急進的な変化」を目指すものである。

では、未来のパラダイムや「システム」はいかにして変化させられるのだろうか。谷氏はトランジションデザインのフレームワークの一つである「変革の理論」に触れ、複数あるこの理論の特徴から「特に重要な三つ」を挙げた。

谷氏「一つ目は『Living systems theory』です。これは『複雑な社会システムや自然システムは、生き物のように自主的に行動する』という考え方です。つまり、無機質なものとしてではなく、自律的な一つの生命体としてシステムを捉えなければ、それを変化させることは難しいとされています。

二つ目が『Paradigm Shift』。従来、科学などの領域は連続的な知の積み重ねによって進歩すると考えられてきました。しかし、トランジションデザインにおいては、新たなパラダイムを生み出す何らかの危機や変革によって、さまざまな領域が発展すると考えられている。つまり、新たなパラダイムを打ち立てる知識や方法を備えさえすれば、さまざまな領域に非連続的な発展をもたらせるわけです」

そして、三つ目の特徴が「Sociotechnical Regime」だ。これは、習慣や行動様式、文化、物事の考え方のような、技術の開発者やその利用者の行動を規定する「ルールの束」を意味する言葉だ。これらはさまざまな社会的な制度やインフラの中に埋め込まれたものであり、既存技術の進化を促進する一方、トランジションをもたらすような革新的な技術の開発や普及を妨げる方向に働くと考えられている。

そんな特徴を持つ理論をベースとし、トランジションデザインはいかにして社会を変革に導くのだろうか。谷氏は、ロフトワークと富士通ゼネラルが共同で取り組む、「防災」をトランジションするための取り組みを、その実例として共有した。(こちらの記事に詳しくまとめられているため、気になる方はぜひご一読いただきたい)

最後に谷氏は大きなシステムを捉え、社会にトランジションをもたらすためのポイントを共有した。

谷氏「システムを可視化し、分析をしようとすると、その楽しさにハマってしまうことがあります。その結果、何につなげればいいかわからない分析をしてしまったり、分析の目的を見失ってしまったりすることがある。そうならないためにも、あらかじめ分析のテーマや、先ほども触れた『システムの相対性』を頭に入れておくべきでしょう。

また、先ほど紹介したデザインの拡張を示した図のように、複雑な課題を解決するにはさまざまなデザインの手法が求められることになります。それぞれの目的や関係性を整理し、適切な手法を取り入れることが重要です。

そして、一つのプロジェクト、一つの企業の力だけでは大きなトランジションを成し遂げることはできません。長期的な戦略を立てつつ、いろんな人を巻き込みながら取り組んでいくことが大切なのではないでしょうか」

株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター 谷嘉偉氏

株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター 谷嘉偉氏

トークセッション終了後には、依田氏、市川氏、谷氏によるクロストークが実施された。トランジションデザインを取り入れた富士通ゼネラルによる新規事業創出プロジェクトの苦労や、「トランジションデザインとシステミックデザインの共存は可能なのか」いったテーマについて熱く議論がかわされた。

日本におけるシステミックデザインの歴史は始まったばかりであり、まだまだ実践例は少ない。しかし、社会を取り巻く課題がより複雑化していくことが予想される未来において、システミックデザインが必要とされるときが必ずやってくるだろう。いや、「そのとき」はすでに来ているのかもしれない。システミックデザインを活用し、トランジションに挑むさまざまな実践例の登場に期待したい。