プロフィール

株式会社中川政七商店 代表取締役会長
PARADE株式会社 代表取締役社長
中川淳氏

京都大学法学部卒業後、2000年富士通株式会社入社。2002年に株式会社中川政七商店に入社し、2008年に十三代社長に就任、2018年より会長を務める。業界初の工芸をベースにしたSPA業態を確立し、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、業界特化型の経営コンサルティング事業を開始。初クライアントである長崎県波佐見焼の陶磁器メーカー、有限会社マルヒロでは新ブランド「HASAMI」を立ち上げ空前の大ヒットとなる。2015年には、独自性のある戦略により高い収益性を維持している企業を表彰する「ポーター賞」を受賞。経営者・デザイナー向けのセミナーや講演歴も多数。著書に『小さな会社の生きる道。』(CCCメディアハウス)、『経営とデザインの幸せな関係』(日経BP社)、『日本の工芸を元気にする!』(東洋経済新報社)等。

Takram ビジネスデザイナー
PARADE株式会社 取締役副社長
佐々木康裕氏

ビジネスデザイナー。Takramではデザイン思考や認知心理学、システム思考を組み合わせた領域横断的なアプローチでエクスペリエンス起点のクリエイティブ戦略、事業コンセプト立案を展開。スローメディア「Lobsterr」の共同創業者、ベンチャーキャピタルMiraiseの投資家メンター、グロービス経営大学院の客員講師(デザイン経営)も務める。著者に『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略 』(NewsPicksパブリッシング)、『パーパス 「意義化」する経済とその先』(同)、『いくつもの月曜日』(Lobsterr Publishing)等。

パレードのように「ライフスタンス」を重視する未来に向かう

PARADEは、2021年9月に「志あるブランドを世の中に届ける」をビジョンに立ち上がった。立ち上げの際のリリースでは、ビジョンに対する共感・共鳴から生まれる信頼がブランド価値である、という考えが述べられていた。同社が設立するより前に、核として生まれていた概念がある。「ライフスタンス」だ。

中川氏「2011年くらいから、生き方における姿勢や態度に焦点を当てる『ライフスタンス』という言葉を使っていました。というのも、当時、頻繁に登場するようになっていた、ライフスタイルという言葉がどうしても肌に合わなくて。

大事なのはライフスタンスだろう、と。ただ、ライフスタンスについて語っても、なかなか人に届かない。とりあえず、商標は登録して、活動はできていない状態となっていました」

10年以上前に生み出された「ライフスタンス」という概念にとって転機となったのは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック。意図せず時間的余白が生まれた中川氏は、改めてこの概念に向き合った。

中川氏「Takramの佐々木さんと仕事の打ち合わせをしていたんですよ。CRMってありますよね、当時スタンダードだったCRMの考え方が僕には合わなくて。デジタルマーケティングやECも大事なんですが、お客様を過度に数値で管理したり、囲い込もうという施策は肌に合わなくて。もちろん、すべてのCRMがそうだというわけではないのですが。

安易なCRMの導入は、数値に表出していないお客様の気持ちに向き合えていないのではないか。そんな疑問があって、CRMの未来について議論していました。従来は、モノの価値を一生懸命伝えることで、商売が成立していました。今は、そこに+αで伝える必要があるよね、と」

その議論のなかで、話題になったのがNIKEの出した声明だ。アメリカで起こった「Black Lives Matter」運動に呼応し、NIKEは差別反対に賛同するメッセージを発した。

これはある意味、顧客を狭める行為とも言える。だが、NIKEは企業として自分たちのスタンスを示した。

中川氏「こうした企業の姿勢に共感する顧客もいる。それはライフスタイルじゃないレベル、ライフスタンスなのだと思います。

中川政七商店は、『日本の工芸を元気にする!』を掲げ、愚直に事業に取り組んできました。それは決してわかりやすいものではありませんが、姿勢から醸し出されるものに触れた一部のお客様に深く届いた感触があります。

改めて振り返ると、これがライフスタンスというレイヤーなのだろうと考えたのです。ただ、大事であることは間違いなくても、伝わらないという課題があった。だからこそ、よりスタンスが伝わる世の中になると良い、そう考えたのです。

スタンスは、見ようと思ってもなかなか見えません。スタンスでつながるには、企業側が口先だけでなく、実践を重ね、スタンスが伝わり、顧客が応援しようとならなければなりません。

そういう会社がどれだけいるのかはわかりませんが、まずできることは提供者側の意識を変えること。利益創出にとどまらず、ライフスタンスを重視することを推進する団体がつくれたらいいよね、と話をしていました」

会社の設立から10ヶ月ほどが経過した頃。消費・生産のあるべき姿を考え、新しい経済のかたちを体現しながら拡げることを目指す組織として、ライフスタンス・アソシエーション「PARaDE」は立ち上がった。

2023年3月現在のアソシエーション参加ブランド

「ライフスタンス・エコノミー」の手触り

中川氏と議論し、共にPARADEを立ち上げた佐々木氏は、「ライフスタンス」についてどのように捉えていたのだろうか。

佐々木氏「これまでにパーパスについての本を書く中で、ブランドがやるべきことの変化を感じていました。ブランドを強化するために、これまでのようにビジュアルアイデンティティやビジュアルルールをつくるのは重要ですが、パーパスが競争力の源泉になるのではないか、と。

パーパスは掲げるだけでなく、実際に何をしているのかが大事になってくる。ライフスタンスにおいても、目指すビジョンを言語化することが大事であることは変わりません」

パーパスやライフスタンスなどの重要性を感じるようになったのは、なにかきっかけがあったのだろうか。そんな問いを投げかけると、佐々木氏は記憶を手繰り寄せながら、こう語った。

佐々木氏「なにか、劇的な出来事があったわけではありません。Lobsterrというニュースレターを継続発信する中で、不思議だなと思う現象に出会うことが増えていました。企業が、決して短期的な経済的リターンを生み出さない活動に注力していた事例に数多く出会うようになりました。」

事例として挙げられたのは、リーバイスが銃規制推進への支持を表明し、NPOに総額100万ドルの寄付を行ったことだ。この他にも、従来の顧客からの不支持にもつながりうるスタンスを表明する企業のアクションを見かける機会が増えていたという。

佐々木氏「1人の人間として考えると、モノを選び、買う際に企業がどのような姿勢であるかは大事なことですよね。企業は顧客を消費者として扱いがちですが、一人の生活者であり、市民でもある。ここにボタンの掛け違いの根本があるように感じています。

顧客も同じ社会の構成員であり、一人ひとりがオピニオンをもっている。人間として向き合い、コミュニケーションをしていかないといけなくなってきているのだと思います」

こうした感覚と、ライフスタンスという概念はマッチしたのだろう。アソシエーションとしての活動を開始して、8ヶ月ほどが経過した。ライフスタンスを中心に生まれる経済の新しいかたち「ライフスタンス・エコノミー」の現在地は、どのように見えているのだろう。

佐々木氏「『エコノミーをつくる』というのは大きなスケールの話。現在地は、まだ一歩目を踏み始めたくらいですね。目指す方向は明確ですが、歩み方は探り探りのところが多いのが実態です。探索的であるのは、私たちもそうですし、アソシエーションに加盟している企業もそうです。

とはいえ、少しずつでも活動を続けてきたことで、見えてきたことも多々あります。『PARaDEでいこう!』という、一般参加も可能なブランドの本拠地を訪問するイベントを3か月に一度ほど開催しています。現地で、ブランドがどんな思想を持ち、どんなものづくりをしているのかに触れるイベントです。

例えばCOEDOブルワリー訪問の回に参加いただいた方々は、濃密にCOEDOさんのライフスタンスに触れることができたと、その表情やご感想から感じました。1回あたり20名程度の枠という少人数の企画ではありますが、それに触れた人たちは一生、COEDOさんのファンであり続けるのではと思います」

アソシエーションでは、こうしたこころざしを共にするブランド同士の「コモンズ」をつくることを掲げている。ライフスタンスを中心に生まれる経済の新しいかたち「ライフスタンス・エコノミー」を拡げるためには、生活者の巻き込みも必要になる。

共に「つくる。買う。選ぶ。の未来」 を目指して

「生活者の方もパレードの一員として、一緒に考える機会をつくりたい」──これはアソシエーションが始動したタイミングから存在していた願いだ。2023年3月24日〜26日に開催する「Lifestance EXPO」は、PARaDEにおける生活者と “消費・生産のあるべき姿” を考える機会となっている。

佐々木氏「企業だけじゃなく、大規模に生活者も含めてメッセージ発信を行う機会はこれまでの活動との大きな違いです。とはいえ、環境や社会について、しっかりと考え、行動する顧客は実際には数が限られます。そのため、ライフスタンスの表明に全振りしたブランディングやマーケティングはなかなか結果につながりません。

大事なのは、じわじわとした変化。ライフスタンスを持つ会社の考えに応じて、顧客側も買うとはどういうことか、自分の価値観はどのようなものかを考えるきっかけが生まれる。そうやって、自分の軸ができると、周囲の軸も気になり始めるはず。そうしたら、友達同士で会話をしたり、家族との会話のきっかけになったり、スタンスに関するコミュニケーションがイベントの外でも生まれる。そんなきっかけになったらと思っています」

中川氏「ライフスタンスは、一人ひとりに存在します。これまでのマーケティングは反射を促すものでもありました。ライフスタンスは、しっかり考えて選んでもらうということ。考えて、立ち止まって、選んでもらう。Lifestance EXPOでは、そういう場をつくりたい。ワークショップなどもありますが、いずれも説教じみた場にはしたくありません。少しでも自らのライフスタンスについて考えてもらうための仕掛けをいろいろと用意できたら」

Lifestance EXPOのトークセッションでは、「誰に向けてものをつくるか?」「なぜその商品を売るのか?」「どうやってものを手放すか?」など、ものをつくり、手に入れ、手放す過程で湧き上がる様々な問いから企画が行われている。

Lifestance EXPOは、顧客だけでなく、出展するブランドにとっても学びの機会になればと考えているそうだ。

佐々木氏「EXPOには、ビジョンもスタンスもしっかりしているブランドもたくさん集まります。ブランドの視点に立てば、どんな価値観の顧客に評価されているのかを知る機会になると思います。顧客や他のブランドの影響を受けて、ブランド側も感化されてライフスタンスを磨く機会になったらいいですね」

中川氏「アソシエーションの活動をしていても感じることですが、お互いに学び合っているんですよね。参画するブランドは、中川政七商店も含めて、まだまだだと自覚し、学びたいと思っている。発展のプロセスも含めて、表に出すことが信頼につながると思っているので、過程も含めてシェアしていきます」

中川氏が指摘していたのは、ライフスタンスとは万人にとっての「共通善」に取り組まなければならないものではないということだ。たしかに、地球環境のような課題は重要だが、存在する課題はそれだけではない。

一社一社、一人ひとりが向き合いたいと考える「個別善」。自分たちが大切にしたいものに向き合い、個別善の表明と愚直なアクションに取り組むことこそ、ライフスタンス・エコノミーの発展につながっていく。

企業と顧客が「ライフスタンス」に向き合うイベント、Lifestance EXPOはもうすぐ開催される。実際に開催の様子や、開催してみてどうだったのかも伝えていきたい。

Lifestance EXPO イベント概要

【開催日時】※雨天決行
2023年3月24日(金) 13:00~19:00/25日(土) 10:00~18:00/26日(日) 10:00~16:30

【会場】
コクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」
〒108-0075 東京都港区港南1丁目8番35号(JR品川駅港南口より徒歩3分)

【出展ブランド数】
15ブランド

【来場対象】
どなたでもご来場いただけます

【入場料】
500円 ※イベントで利用可能な「お買い物チケット500円」と交換いたします

【主催】
PARaDE(運営:PARADE株式会社)

【イベントパートナー】
株式会社インクワイア、コクヨ株式会社、株式会社パラドックス、Peatix Japan株式会社

【イベント公式サイト】
WEB:https://theparade.jp/expo2023/
Instagram:https://www.instagram.com/lifestanceexpo_parade/
Twitter:https://twitter.com/join_parade

【イベントに関するお問合せ】
イベント運営事務局 expo@join-parade.jp

3月17日には、Twitterスペースにて「Lifestance EXPO」に関する配信も予定している。