2016年頃からスタートアップの時代が終わり、「プロジェクトの時代」へと移行すると言われるようになった。いきなり会社化することで様々な制限が生まれてしまい、クレイジーなアイデアを実行できなくなってしまう。まずはプロジェクトとしてスタートさせ、必要なタイミングで会社化していくという考え方だ。

事業を立ち上げていく上で必要以上に初期からコストをかける必要はない。いきなり会社化する必要はないが、スタートアップに蓄積されてきた事業開発ノウハウは様々な新規事業に活きる。それを教えてくれるのが「6curry」の会社化だ

メンバーの主体性を大切に、小さく始める

6curryは、事業の仮説検証サイクルをしっかりと回したプロジェクトとして学ぶ点が多い。僕たちが最初に6curryの取材をしたのは、ビジネスメディア『AMP』だった(UNLEASHを運営するinquireは、様々なメディア運営を支援している)。

当時、海外で注目を集めていた店舗を持たない飲食店「ゴーストレストラン」の日本における実践例としても注目だった。加えて、プロジェクトチームがプロボノを中心とした社内外のスタッフで構成されていた点も注目だ。

参加の条件は「カレーが好きなこと」。金銭的な報酬はなく、いつでもプロジェクトから離れられるという状態で、メニュー開発やキッチン、PRなど、さまざまな専門性を持ったメンバーが関わった。

「NEWPEACEとして、いつでも辞められる環境の中で続けてもらうために『楽しさ』を提供し続けることを意識しています。大人の文化祭のような感じですね。常に新しいコトを仕掛け、それが形になっていく。純粋にそれが楽しいんです」

当時の取材で、プロジェクトメンバーの廣瀬さんはこう語っていた。これからの時代、プロジェクトに関わる人たちの主体性や遊び心は重要になってくる。6curryは、プロジェクトの最初からそこを意識して作られていた。

体験をシェアする空間としての店舗

女性のためのカレーというコンセプトでスタートした6curryだったが、プロジェクトの見直しを行ったタイミングで「みんなを混ぜる、みんなが混ざる」というコンセプトに変更した。このコンセプトの変更が、実空間「6curryKITCHEN」という新しいチャレンジにつながる。

ゴーストレストランとして2ヶ月ほど運営した後、住所非公開・会員制のセントラルキッチンを作るためのクラウドファンディングに挑戦した。クラウドファンディングが終了し、店舗をどのような空間にしていくのかについて体験にフォーカスしたメディア『XD』で取材した際、このようなコメントが返ってきた。

「6curryは、立ち上げ当初からたくさんの人たちのアイデアと思いに支えられてきました。NEWPEACEの社員に限らず、事業に共感してくれる方たちと切磋琢磨するなかで、みんなで作り上げていくことが何よりも楽しく、大切だと気づいたんです。

(中略)

その通りです。6curryKITCHENを月額3000円の会員制にしたのは、お客さん自身も「6curryの一員」だと感じてもらいたいからなんですよね。お店に足を運びやすいよう、会員さんには毎日カレー1杯を無料で食べられる制度を設けています」

「カレー」という共通項でつながるコミュニティ。飲食店でありながら、食そのものではなく、コミュニティにフォーカスしたことにより、6curryKITCHENには多くの人が足を運んだ。

近年では、オフィス空間のマグネットスペースとして「キッチン」が注目されている。マグネットスペースとは、磁石が引き合うように「オフィス内の人々が自然に集まるスペースのことだ。従来のオフィスであれば、給湯室や喫煙所、プリンターの前などがそうだった。

ワークスタイルが変化する中で、マグネットスペースも変化しつつある。オフィスに力を入れる企業の中では、キッチンや食堂を作り込むところもいる。企業とキッチン、コミュニティというのは、相性が良いのだろう。

手応えを持っての法人化

オープン後、会員数も実空間をつくるという挑戦もうまくいった6curryは法人化を迎えた。仮定の話にはなってしまうが、いきなり法人化して事業化しようとしていたら、違った動きになっていた可能性もある。6curryは、小さく始め、多くの人々からのフィードバックを得ながらコアの価値を探っていったからだ。

6curryでは、企業向けのイベントプロデュース企画・運営や、6curryKITCHENでのイベント企画なども対応するという。直近では、株式会社資生堂、株式会社WORLDのイベントを企画プロデュースした実績もあるようだ。

6curryはコミュニティを強みにした飲食店であること、会員とスタッフの垣根が溶けていることなど、企業と食のシナジーなど、様々な視点から注目だ。だが、そこだけではなくこれまでの歩みを改めて見返してみることで、新しい事業を立ち上げるときのヒントが詰まっている。