139ヶ国中111位。イギリスのチャリティ団体Charities Aid Foundationが、毎年発表している「世界寄付指数ランキング」における、2017年度時点での日本の順位だ。3つの質問の中でも、「見知らぬ他人を手助けしたか?」に対する順位は135位とかなり低い。

データが表すように、日本人が極端に他人に対して冷たいかというと、そうではないだろう。昨年の東日本大震災の時、一時的に日本全体で寄付について考える機運も高まっていた。しかし、日常的に寄付をする文化かというと、そうとも言いにくい。

なぜ、寄付は日常化しないのか。その理由の1つとして、寄付をしたいと思った時に「どこに寄付をしたら良いのかわからない」ことがあげられる。

そんな課題を解決するために、NPO法人D×P代表理事の今井紀明さんを中心に、CAMPFIRE代表取締役の家入一真さん、リブセンス共同創業者の桂大介さんらが1つのプロダクトを立ち上げた。

カテゴリで寄付先が選べるプラットフォームSOLIOだ。SOLIOは「まちづくり」「環境」「教育」など、個別でNPO団体を知らなくても、分野を選んでの寄付ができる。消費でも投資でもなく、寄付によって未来の社会を構築しようとする3人に、UNLEASHの編集長であるモリジュンヤが話を伺った。

寄付をなめらかにして、社会の力になりたい

モリ:SOLIOは、どのようなプラットフォームなのでしょうか?

今井紀明(いまいのりあき):高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと、日本社会から大きなバッシングを受ける。偶然、通信制高校の先生から通信制高校の生徒が抱える課題に出会う。親や先生から否定された経験を持つ生徒たちと自身のバッシングされた経験が重なり、何かできないかと任意団体Dream Possibilityを設立。大阪の専門商社勤務を経て、2012年にNPO法人D×Pを設立。

今井:「寄付を通じて社会を作る側にまわる」ことを目的とした新しい形の寄付プラットフォームです。

1.ユーザーが関心のあるカテゴリーを選んで寄付することができる
2.寄付のポートフォリオを作成でき、自分の興味、関心をシェアすることができる
3.ごく少額から始めることができる

この仕組みにより、「特定の分野に関心があるけど、寄付をするハードルが高い」と感じている人が気軽に社会に貢献できるようにしたいと考えています。

モリ:寄付を募る以外の機能も色々と提供されると伺っていますが、どのような機能を提供予定なんでしょうか。

今井:寄付集めや、団体の広報をするのに便利な機能を提供しようと考えています。まず、「ポートフォリオで寄付をする」という新しい形を通じて、全く新しい幅広い寄付者層に活動を知ってもらう機会を提供します。

その他、団体の掲げるビジョン、ミッションを伝える広報ページを作成することができたり、年に一度の領収書発行など、煩雑な手続きをSOLIOが代行したり、寄付者への活動報告、寄付者の一括管理などを管理画面で提供します。

モリ:僕もNPOの理事をしていて感じている負を解消してくれそうな機能ばかりですね。SOLIOのようなサービスを作ろうと考えるようになったのは、やはりご自身がNPOの経営をされていたことも影響しているのでしょうか。

今井:そうですね。自分自身がNPOの代表を務めていることもあり、様々なNPOと接する中で課題解決をしたくても寄付が集まらないNPOを見てきました。ただ、「寄付をしたい」と思っている方は想像以上に多いと感じています。だからこそSOLIOは、様々なNPO、非営利団体の分野への寄付を集めたいと思っています。寄付を滑らかにして、社会の力になれたらいいなと考えています。

モリ:2018年12月に事前登録を開始して、どんな反応がありました?

今井:掲載したいと問い合わせてくれたNPOは大小様々でした。年間の寄付金額が100万円〜数億円まで。全て認定NPO法人や公益財団、公益社団法人です。認定NPO法人などに限定しているのは、寄付控除があるからです。まず、寄付者の使いやすさを優先しました。
「寄付はしたいが、寄付先がわからない」をなくす

モリ:SOLIOが生まれたきっかけはどういったものだったんでしょう?

今井:きっかけは家入さんと飲んでる時の会話でしたね。

モリ:飲み会だったんですか。

家入:実はそうなんです。飲み会で寄付の話になったんですよね。元々、僕は寄付に対する課題意識があった。自分で寄付をする中で、寄付って楽しいけど寄付をしたいと思えるまでが遠い。

例えば、各NPOのサイトで寄付フォームが違う。スマホ対応もしていない。寄付した後に郵送されてくる年次報告書も会員画面でPDFで見れたらいい。このあたりの寄付の体験は改善できるなと考えていたんです。

モリ:元々持っていた課題意識を共有しながら話をして。

家入:寄付したいと思った時に気軽に寄付ができるように、寄付先の情報が1つのプラットフォーム上でまとまっていて、カテゴリごとに寄付先を選べたら便利だなと。寄付金はこんなNPOに振り分けられて、こんな風に使われていますよ、と可視化できたら寄付への距離が縮まるのではという話をしましたね。

家入一真(いえいりかずま)「ロリポップ」「minne」などを運営する株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)を福岡で創業、2008年にJASDAQ市場へ上場。退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIREを創業、代表取締役社長に就任。他にも「BASE」「PAY.JP」を運営するBASE株式会社、数十社のスタートアップ投資・育成を行う株式会社partyfactory、スタートアップの再生を行う株式会社XIMERAなどの創業、現代の駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の全国展開など活動は多岐に渡る。

今井:家入さんの話を聞いて、Twitterで「寄付をしない理由はなんですか」とアンケートを取ってみたんです。そしたら「寄付先がわからない」という答えが3割を超えていて、NPO法人を経営している自分のフォロワーですらそういう感覚なんだなと。

であれば、寄付先が集まったプラットフォームがあればその問題を解消されるのではと思いました。NPOの立場からしても、寄付金を集めるのに苦労している団体は多いので、NPOの情報が1つに集まったプラットフォームは必要なのではと。

モリ:寄付先がわからない問題を解決しようという話から始まったんですね。桂さんはどういった経緯でSOLIOに関わったんでしょうか?

桂:寄付については以前から関心を持っていました。元々、家入さんと話す機会も多かったので、話していたら自然とSOLIOに関わることになってましたね。

家入:桂さんとはたまに飲んでは本の話をするみたいな間柄だったんですよ。よく寄付をされているということも聞いていました。多くの人は上場を経験してある程度の資金を手にすると、エンジェル投資家のように投資に目が向きます。桂さんはエンジェル投資はしないんですよね。寄付は沢山するのに。

桂大介(かつらだいすけ)高校生の時から個人事業主としてシステムの受託開発を始め、早稲田大学入学後の2006年に代表村上らとリブセンスを共同創業。創業後は取締役として経営を行う傍ら、開発、人事、マーケティングなど様々な部門を歴任。2017年に取締役を退任し、社外にも活動の幅を広げる。

桂:いつもその話で盛り上がりますよね。

家入:桂さんみたいな人はなかなかいないですからね。だって、会社にも寄付するんですよ。桂さんはなんで寄付をするんですか?

桂:なんででしょうね…。世の中のお金の偏りを減らしたいから、ですかね。手元に十分お金があるのに、なんで増やすのだろうと。持っているお金はどんどん手放していく方に向かっていく方がいいと思うんです。

今の社会はとても偏りのある社会だと思っています。例えば、ベンチャー企業が勃興する分野は時代によって偏りがある。その偏りを生み出している1つの要因に投資があると思っています。後輩の起業家が頑張っていて、そこに対してエンジェル投資をするのはわかるんですが、別に投資じゃなくて寄付でもいいじゃないですか。

モリ:今井さんの認定NPO法人D×Pにも1000万円の寄付をされてますよね。寄付する団体を決める基準とかはあったりするんですか?

桂:僕は出会い頭の寄付が多いんですよね。今井さんの時もそう。お話を聞いてすぐに寄付を決めました。考えすぎると偏りが生まれるから、寄付先を選ぶ理由もあまりなくて。むしろ、縁やタイミングを重視した方がいいと思ってます。

モリ:偏りをなくしたい、というのが強いんですね。

桂:偏り、減らしたいですね。生きるのには十分なお金があるのに、何で増やすんだろうと思います。お金を手放していく方向に向かった方がいいじゃないですか。

家入:桂さんはほんと変ですよね(笑)

社会での「交換」「投資」の発想が強すぎる

モリ:SOLIOのように利便性を高め、寄付へのハードルを下げることで、寄付をしたいと思っている人が寄付をしやすくなりそうですね。一方で、そもそも寄付する人を増やすためにはどうしたら良いのでしょうか。

桂:強くなりすぎた個人主義を変えないといけないと思います。以前、お年玉についての記事に「自分は子供がいないから、親戚にお年玉をあげるのは損をしている」と書かれていて唖然としました。全てにおいて同等、もしくはそれ以上のリターンを求めるんですよね。交換・投資の発想から抜け出せなくなっている。

モリ:なぜそのような状況になってしまっているのでしょう?

桂:昔は全体主義が強かったけど、今は個人主義が強い。パターナリズムへの批判は悪くはないが、自己責任論が過剰になり過ぎている気もします。自己責任が強い世界は、つまり贈与がない世界ですよね。例えば、家入さんが運営している「やさしいかくめいラボ(※)」の若者を見ていても、返せるものがないから頼むのをやめようと考える若者が多い。

※Discordで運営されるU20コミュニティ。起業に興味ある、もしくはアプリやWebサービスなどプロダクト制作に関わっている・いきたい、10代のメンバーが集まっている。

モリ:若者の間でも交換・投資の発想が強くなっている、ということですね。

(話す桂さんを撮影する今井さんを撮影する家入さん。取材中も普段の雑談のようなリラックスした雰囲気)

桂:そうです。交換・投資の発想が強いから、スタートアップ界隈でもスケーラビリティやマーケットサイズの話ばかりになって、同業他社を市場内でどう出し抜くかという競争のノウハウばかりが貯まる。別に投資ではなく、寄付でもいいはずなんですよ。わかりやすいリターンがないと動けない人が多すぎると思うんです。でも、「polca」などを見ていると、若い人でも見返りを考えずに友達にお金を出しているんですよね。投資や交換ではない、贈与の動きは作れるはずなんです。

寄付者を消費者のモードにしないために

モリ:寄付金も毎月定額だと、寄付者の中で他の定額課金の支払いと感覚が変わらなくなるのでは、と懸念しています。そうすると、寄付者は寄付に対して対価を得られているかどうかが気になってしまう可能性があり、本来の寄付のあり方とズレてしまう。寄付者のモードが消費者的になってしまうのを、どう防ぐか。

桂:例えば、「報告書を見れないから」という理由で退会するのは、すごく不幸だと思います。NPOにとっても、寄付者にとっても。団体側はわざわざ時間を作って送っているのに、それがきっかけで退会してしまう。寄付者側も最初から消費者的なスタンスで寄付をしているわけではないのに、どこかで消費者的な思考になってしまう。寄付は贈与であって交換ではないのだけど、NPO側も寄付を続けてもらうために何かを送る必要があり、そのコミュニケーションが寄付者に消費者的な感覚を与えてしまっているのではないかと。

モリ:本来、贈与である寄付に対して説明的に送付している報告書が、寄付による交換の対象のように見えてしまう。SOLIOでは広報機能もあって、寄付者とコミュニケーションできると思いますが、寄付者を消費者のモードにしないためにはNPO側はどうしていくといいのでしょうか。

家入:あえて寄付っていう言葉を使わない方がいいんじゃないかと思っています。「ありがとうございます」の代わりに「ようこそ」って言葉を提案したら、今井さんが早速それを使ってくれた(笑)

今井:家入さんの言葉を受けて以来、寄付してくれた方には『ようこそ』と伝えています。

桂:「ようこそ」って言葉だと、「一緒の仲間ですよ」っていうニュアンスが生まれていいですよね。NPO側も「困ってるから助けてください」という、寄付者を仲間にするようなコミュニケーションをした方が良い。

今井:寄付者とNPOはもっと仲間同士の関係性になっていくべきだと思うんですよね。イメージは、スタートアップのメンバー同士の関係に近いかな。「寄付してくれてありがとう。だけど一緒に頑張ろうぜ!」みたいな。

家入:クラウドファンディングで支援者を共犯者にしていくのと同じですね。

今井:「共犯者」って言葉、いいですよね。まさにそんなイメージ。

モリ:「共犯者」といった言い方をしていくと、自然と寄付者をお客様扱いする場面が減り、寄付者も消費者のモードになりにくいかもしれないですね。

寄付の偏りをなくすための仕組みが必要

モリ:寄付がより身近になった次に起こり得る課題が、寄付先の偏りだと思います。御田寺圭さんの著書『矛盾社会序説』の中では、「かわいそうランキング」と表現されていましたが、どうしても人に注目や共感されやすい課題とそうでない課題に分かれてしまう。人に共感される課題に取り組むNPOのほうが、寄付は集めやすい。

家入:クラウドファンディングでも、捨て猫のプロジェクトとかはお金が集まりやすいんですよね。対象とするテーマや、起案者の広報力によって、設定した金額が集められるか否かが分かれてしまう。

桂:結局、寄付者と団体をつなぐ中間地点がないことが課題ですよね。楽天のようなモール型のWebサイトもなければ、ベンチャーキャピタルのような機関もない。広報力と共感力が強い団体が、寄付者の目線を集めやすくなってしまう。

今井:寄付金が集まらず、社会にとって必要な活動が十分にできないNPOは数多くあります。特に地方に多いのが現状です。素晴らしい活動だけど、予算が集まらない。国の委託事業で受けていて、予算が先細ってしまい、困っている団体もあります。SOLIOを通して、寄付金が集まりにくいNPOに寄付金を流通させたいですね。

モリ:SOLIOに登録されているNPOが増え、寄付者が集まり、プラットフォームとして成長すれば、それだけ寄付金を適切に分配しやすくなりそうですね。

今井:現在、SOLIOで登録が完了したのは、約30団体です。これからも継続してNPOの情報が集まる良いデータベースにしていきたいと考えています。データベースが充実していけば、寄付を集めにくいNPOにも寄付が行き渡るのではないかと。

桂:それがSOLIOの良いとこですよね。これまでの寄付は、寄付先を知っている団体からしか選べなかった。SOLIOは、寄付者とNPOの出会いの場ですね。

「社会が良くなる」のが寄付のリターン

モリ:SOLIOによって、社会がどう変わっていくといいと考えていますか?

桂:日常の出来事のように、寄付に関するツイートが生まれていくといいなと思います。『このレストラン美味しかったですよ』と誰かにおすすめするのと同じ感覚で『ここの団体オススメですよ』と気軽に寄付できるようになってほしい。寄付に対する『素晴らしい』という言葉は寄付を遠くに追いやってしまっている。寄付が日常の行為になり、そのツイートも自然なものになっているのが理想ですね。

モリ:SNSで寄付に関する情報を見かけたら、気になって寄付するという循環が生まれる、ということですよね。

桂:そうです。僕は寄付のインセンティブが足りないと思っていないし、そもそもインセンティブなんて存在しないと考えています。ただ、足りないのはきっかけ。友人や知人が普通に寄付している、そんな流れを作りたいです。

家入:ただ、たしかに寄付に直接的なリターンはないけれど、寄付によって社会が良くなってるのは明らかなリターンだと思うんですよね。だから、自分が寄付した100万円で、どれくらい社会が良くなったか、どんな人のためになったか、がSOLIOでわかるようにしたい。ここがうまく可視化できたら、もっと楽しんで寄付できるのではと思っています。

今井:SOLIOの個人ページで寄付先が変わっている様子とか、何をやってるかがわかるだけで、寄付に対する感覚が違ってくると思います。

モリ:寄付者にとって間接的なリターンである社会的なインパクトの可視化も、SOLIOではやっていこうと考えているんですね。

桂:インパクトもそうですが、緊急性の可視化もできると良いなと。寄付しているNPOから数多くの郵便物が届きますが、どれも「緊急」という言葉であふれている。当然、全部は見られません。緊急の度合いは、一元的な尺度で測るものではありません。この問題をどうしたら解決できるのかは、SOLIOでも考えていきたいですね。

寄付で、少し先の未来を良くしていこう

冒頭で取り上げた、「世界寄付指数ランキング」。項目の1つ、「寄付をしたか?」の順位は46位と悪すぎる訳ではない。SOLIOを通じて、NPOや社会問題が身近になり、自分ごと化できるようになれば、寄付の総数も増えるだろう。

マーケットの大きさではなく、社会的に価値があることにチャレンジしているNPOへの寄付が増えれば、少し先の未来はよくなるはずだ。投資と寄付のバランスが両立していけば、より生きやすい世の中へと近づく。

まずは、自分の周りにいる人が困っていることや悩んでいることから寄付を始めてみると良いかもしれない。

イベント開催のお知らせ

SOLIOの今井さんをゲストにお招きして、「社会を変えるお金の流れ」について話すトークイベントを6月25日に開催します!関心のある方は、ぜひイベント情報もチェックしてみてください!

同じく、SOLIOに関わっている桂さんをゲストにお呼びしたイベントの記事公開日である5月30日の夜に開催します!