「パブリック・インタレスト・テクノロジー」。テクノロジーと政策に精通する人材を育てるべく、今まで使われていたような「シビックテック(Civictech)」(市民のためのテクノロジー)を新たにリブランドするような形で最近使われている言葉のようです。
特にアメリカではデジタルテクノロジーが生活のあらゆる場面においても浸透しつつあり、テクノロジーが社会に及ぼす結果(時に悪影響含め)にどう取り組むべきか、学生に方法を大学としても考案する段階に来ていると感じます。
ニューヨーク・タイムズの3月11日の記事では、アメリカの21の大学が連携してこうした人材育成のプログラムを開発するための組織、『Public Interest Technology University Network』を立ち上げたことを報じています。
彼らの目標は、次世代のソフトウェアエンジニア、政策立案者、市民指導者(civic leaders)、社会正義推進する人や組織(social justice advocates)を訓練し、公益のための技術を開発、規制、そして活用すること、と紹介されています。つまりは技術者をより人間的に、ヒューマニスト(人道主義者)を技術思考的な人材に育成する(humanize technologists and technologize humanists.)ことを目指しています。
参加を表明した21の大学にはMIT、スタンフォード、ハーバード、ジョージタウン、USバークレー、ニューヨーク市立大学、コロンビア大学、プリンストン大学などが含まれています。
今回の大学連携ネットワークを推進しているのは政策シンクタンクのNewAmerica、フォード財団、ヒューレット財団のようです(以下のツイートはプリンストン大学の国際政治学者で元国務省の政策企画本部長を経て現在New AmericaのCEOのアン・マリー・スローター氏のもの)
Today @NewAmericaPIT w/ @FordFoundation @Hewlett_Found launched a university network that represents a powerful alignment across higher education and public policy, as part of a new push to build the public interest technology sector. #PublicInterestTech https://t.co/GncJXZujmy pic.twitter.com/Wvl1zxA8Ha
— Anne-Marie Slaughter (@SlaughterAM) 2019年3月11日
まずはゆるい連携としてスタートのようですが、参加大学は以下のようなことへの取り組みを目指しています(NewAmericaのウェブサイトより)
①学生の学際的および学際的な教育を可能にするためのカリキュラムおよび教員の育成支援をすることで彼らは新技術の倫理的、政治的、および社会的な影響、および公共財に役立つ設計技術を批判的に評価できるようになる。
②公共および民間セクターのパートナーと公益技術分野で、診療所(Clinic)、フェローシップ、見習い、インターンシップなどの体験学習の機会を開発する。
③財政的な配慮がこの分野でのキャリアを多くの人に受け入れられないものにするかもしれないことを認識し、公益技術で働くキャリアを追求する卒業生を支援する方法を見つける。
④教職員が研究、カリキュラムの開発、教育、そして公共の利益のための技術を構築するために必要な奉仕の仕事に対する評価を受けるためのメカニズムを探求の場として作る。
⑤公共の利益技術の分野を発展させるのに役立つ私たちの介入の有効性を測定することを可能にする制度的データを提供する。
こうした取り組みは財団としても1970年代から取り組みがあり1800万ドルもの助成金が大学に投じられてきたと記事の中で述べられています。また、コード・フォー・アメリカ(Codefor America)という組織を筆頭に、オバマ政権時代には「シビックテック」という言葉を通じて全米で(そして日本でもCode for Japanが誕生して)機運が高まっていたムーブメントであると認識しています。
一方、トランプ政権になったことでワシントンかつてに集まっていたテック人材がそれぞれ新たな取り組みをする中で、今回あたらしい言葉「パブリック・インタレスト・テクノロジー」というキーワードを掲げ、大学も巻き込むことで新たな機運を盛り上げていこうとしているのではないか、と個人的には印象を受けました。記事の中でも紹介されているオバマ政権でのCTOだったAlexandra Givens氏は現在ジョージタウン大学の「Institute for Technology Law and Policy 」においてエグゼクティブ・ディレクターとして活躍し、今回の取り組みにも参加しています。
コード・フォー・アメリカも紹介動画において「パブリック・インタレスト・テクノロジー」を掲げています。
シビックテック業界で著名人のハーバード大学のデービッド・イーヴズ氏も昨年秋にシビック・インタレスト・テクノロジーに関してのパネルを開催しています。
国内でも、パブリック・ミーツ・イノベーション(PMI)が昨年12月に立ち上がり、テクノロジーと政策、そしてイノベーション分野での協業の機運が高まっていることを感じます。
パブリック・インタレスト・テクノロジーという言葉自体はまだ自分にとっては目新しいものですが、今後GAFA規制や大統領選などを控えるアメリカの動向は興味深くチェックしていきたいと思います。
寄稿者プロフィール:
市川裕康。NGO団体、出版社、人材関連企業等を経て2010年3月に株式会社ソーシャルカンパニーを設立。メディアコンサルタントとして、国内外の政府機関、国際機関、企業、報道機関、NPO団体などに対し、海外デジタルメディアのトレンド調査・執筆・講演・コンサルティング活動に従事。『現代ビジネス』(2010-2015)や『COMEMO』(2018-)などでの連載や著書に『Social Good小事典(講談社)』がある。1994年同志社大学(法学部政治学科)卒、1996年米国アマースト大学(Political Science専攻)卒。1970年静岡県浜松市生まれ。
(COMEMO by NIKKEIより転載)