「よく来たね」

仕事を辞めた翌日、余計な物は持たず、東京行きの新幹線に乗り込んだ。向かったのは、一回り歳の離れた姉が住む、こじんまりとしたアパート。いつもと変わらぬ笑顔で私を招き入れ、ソファに座るよう促すと、彼女は慣れた手付きでお茶を淹れ始めた。

こぽ、こぽぽぽ…

お湯を注ぎ込む、心地よい音が、耳を包み込む。マグカップから立ち上る湯気からは、爽やかなハーブの香りがした。ふうっと息を吹きかけ、そっとお茶に口をつける。ゆっくり飲み込むと、お腹の底がじんわりと温まるのを感じた。

不安、焦り、もどかしさ——
たった一杯のお茶が、張りつめていた心を、ときほぐしていく。

きっと、私は、頑張りすぎていた。

頑張りすぎて、心をなくして、温かいお茶を飲んで一息つくことすら忘れていた。

「たまには、休んでもいいじゃない」

どこからともなく、そんな声がする。キッチンに立つ姉に気づかれぬよう、右手で涙を拭い、さっきよりも色の濃くなったハーブティーを口に含む。こんなにもやさしい味があることを、私は、初めて知った。

人の可能性を信じるsoarが作る、「回復」のお茶

新しい仕事を始めた今も、つい頑張りすぎて、一息つく余裕を失いそうになる。そんな私にぴったりのお茶が届いた。NPO法人「soar」の手がける「soar tea」だ。

soarは、ウェブメディア『soar』を基点に、障害や病気、LGBT、貧困など、困難を抱えながらも、自分らしく生きる人々の姿を発信している。

困難や生きづらさと向き合い、ときには長い時間をかけて受け入れ、新しい自分、新しい生き方と出会う。ただ元に戻るだけではない、「回復」の過程を丁寧にたどるインタビュー記事は、これまでにも、たくさんの読者に安らぎや勇気を与えてきたことだろう。

「soar tea」は、そんな優しい時間を香りや味で表現したお茶。これまで記事やイベントを通して伝えてきた、「回復」に対する想いが、ぎゅっと詰まっている。

「朝」と「夜」、2種類のブレンドハーブティー

販売されている「soar tea」は、2種類。

エルダーフラワー、月桃、みかんの皮をブレンドして作られた「soar tea for morning」は、すっきりとした気分を促す「朝」向きのハーブティー。

はすの葉、ねむり草、カモミールをブレンドして作られた「soar tea for night」は、一日をじっくりと振り返り、心地よいまどろみをもたらす「夜」向きのハーブティーだ。

両方ともノンカフェインのため、身体にも優しい。1箱につき8つのティーバッグが入っており、価格は各950円(税込)。通販サイトBASE、もしくはsoarが主催するイベントで購入することができる。

商品の開発には、「日々の一服に、慈しみの時間を」のコンセプトを掲げる、伝統茶ブランド{tabel}も携わっている。

一日をはじめる朝、一日を締めくくる夜。シーンに応じてお茶の楽しみ方が変わることで、お茶を淹れる時間が待ち遠しくなりそうだ。

お茶と一緒に味わう、「回復」のストーリーブック

「soar tea」のユニークなところは、お茶の箱のなかに一冊の「回復」にまつわるストーリーブックが同封されていることだ。

これは、過去に『soar』に掲載された3つの記事を、1,000文字に編集し直したもの。がんで妻を亡くした人、摂食障害を経験した人、双極性障害II型とともに生きる人。それぞれの、かけがえのない「回復の物語」が綴られている。

ストーリーブックを同封した意図について、soarは次のように語っている。

お茶を飲みながらこのストーリーブックを読むことで、誰かの生き方に出会ってほしい。そんな想いがこもっています。(『soar』公式サイトより)

誰かの生き方を知ることは、自分の生き方を見つめ直すことでもある。多様な人のストーリーに触れながら、お茶を飲み、自分がどう生きていきたいか改めて想いを馳せる。「soar tea」は、そんな休息の時間のあり方を教えてくれる。

毎日頑張っている自分への「ご褒美」に買うのもいいが、大切なあの人への「ギフト」にも。少し照れくさい気持ちを伝えるときに、「soar tea」がそっと背中を押してくれるだろう。

今回の製作費用は、サポーターからの寄付ではなく、イベントやそのほかの事業収益から捻出している。今後はメディア運営とは別の、一つの事業として「soar tea」の販売を続けていくという。

これからメディアだけでなく、いろいろな形で、soarの優しい世界観を、私たちのもとに届けてくれるはずだ。

「お姉ちゃん、引っ越すことにした」

そんな知らせを受けたのは、冒頭の出来事から半年が経った、ある朝のこと。不安で押しつぶされそうになった夜もあったが、私は、今日もちゃんと生きている。

ベッドから起きて、洗面台よりも先にキッチンへ向かった。小さなやかんを火にかけて、お気に入りのマグカップに、ティーバッグを一つ。

「姉の引っ越し祝いには、お茶でも持って行こう」

そんなことを思いながら、熱々のハーブティーにふうっと息をふきかける。カップにそっと口をつけ、ゆっくりと飲み込む。あの日と同じ、やさしく、温かな味が、口いっぱいに広がった。