ここ数年で、“フリーランス”や“副業”といった言葉を見聞きする機会が増えた。今年、ランサーズの発表した調査によると、昨年から今年にかけて、フリーランスの経済規模は20兆円を超えたという。

こうした変化の背景には、モノやサービス、スキルを共有・交換するシェアリングサービスの台頭がある。クラウドソーシングサービスやライドシェアサービス、家事シェアリングサービスなど、個人が空いた時間に自らのスキルを提供して報酬を得る手段は増え、多様化している。

とはいえ、決まった時間、場所で働く会社員の私は、フリーランスや副業など「新しい働き方」について、どこか遠い話のように感じてしまう。これから私たちの働き方はどう変わっていくのだろうか。

シェアリングエコノミーが形づくる「21世紀の働き方」

9月7日から8日に開催された「シェアサミット2018」では、そんな未来の働き方をめぐる状況について語るトークセッション「SHARE × WORK 〜シェアリングエコノミーの将来:21世紀の働き方と規制とは〜」が行われた。

登壇者は、経済産業省の伊藤 禎則氏、シェアオフィス「みどり荘」を運営する小柴 美保氏、「WeWork Japan」ゼネラルマネージャーの高橋 正巳氏、「住友生命保険相互会社」の堀 竜雄氏。モデレーターは「株式会社クラウドワークス」代表の吉田 浩一郎氏が務めた。

働き方改革に必要なのは「選択肢」を増やすこと

まずは、経済産業省で働き方改革に関わる伊藤氏が、改革の現状や、これから取り組むべき課題について語った。

伊藤氏「働き方改革というと、『労働時間を規制して、生産性を高めましょう』といった取り組みをイメージする人が多いと思います。ただ、労働時間の削減や生産性の向上が目的化してはいけないと考えています。

必要なのは、個人の働き方に『選択肢』が増えることです。育児や介護で決まった時間しか働けない人もいれば、沢山働いて成果を上げたい人もいる。個人のニーズや価値観に合わせて、働き方をカスタマイズできるようになれば、自ずと生産性もついてくるのではないでしょうか」

こうした「選択肢」を増やす動きとして、伊藤氏は兼業・副業を取り巻く規制の変化について言及した。

伊藤氏「これまで厚生労働省の『モデル就業規則』には『許可なく他の会社等の業務等に従事しないこと』と書かれていました。『モデル就業規則』とは、企業が就業規則を作るときに、ひな形となるものです。だから、多くの企業が『副業は原則禁止』だったんです。

しかし、今年に入って『労働者は勤務時間外において他の会社等の業務に従事することができる』という文言に変更されました。『原則ダメ』から、『例外を除いて基本OKです』に変わった。この大きな変化はみなさんにぜひ知ってもらいたいです」

政府の規制が多様な働き方を支援する形に変わってきているのは嬉しい変化だ。しかし、企業によっては、時短勤務に切り替えると、給与や待遇が変わったり、昇進が難しくなったりするケースも多い。

選択肢を用意するだけでなく、「実際に利用する上で何がハードルになっているのか」を、しっかりと考えていく必要がありそうだ。

個人が主役の時代には“コミュニティ”が欠かせない

働き方の多様化にともないオフィス以外の場所で働く人も増えている。そうした人のなかにはコワーキングスペースを仕事場に選ぶ人も多い。

小柴氏の運営するコワーキングスペース「みどり荘」には、2011年の設立以来、デザイナーやエンジニアなど、クリエイティブ系の仕事を担う人々が集う。彼らの実践する働き方について、小柴氏は『オーシャンズ11型』と形容する。

小柴氏「プロジェクトごとに、異なるスキルを持った人たちがチームを結成し、終わればまた別のチームを組織する。そんな『オーシャンズ11』型の働き方をしている人が多いですね。

コワーキングスペースに集った人の繋がりから新しいプロジェクトが生まれることあります。だからこそ、『みどり荘』では、コミュニティをつくっていくことを大切にしたい。

一人でも働けるけど、スペースに来れば、面白い人に会って話せるし、新たなアイディアが生まれる。わざわざ足を運ぶからこそ得られる体験を提供していきたいですね」

世界各国に拠点を持つコワーキングスペース「WeWork」の日本法人、「WeWork JAPAN」のゼネラルマネージャー高橋氏も、同社の提供する“コミュニティ”の価値に言及する。

高橋氏「『WeWork』では、定期的にイベントを開催し、会員同士の交流を促してきました。世界中の会員とつながれるSNSも提供しています。こうしたコミュニティは、新しいアイディアを創発し、会員同士での協業も生まれています。

元々、入居者の多くはスタートアップでしたが、徐々に中小企業や大企業も増えてきました。組織の大小にかかわらず『ビジネスをドライブするコミュニティに参加したい』というニーズが増えている印象です」

「みどり荘」と「WeWork」のユーザー層は異なるが、提供する“コミュニティ”が人々を惹きつけている点は同じだ。会社に属さず自由に働く人が増えても、「個」が集い、影響し合うリアルの場の大切さは変わらないのだろう。

働く“個人”の健康を支えるインフラの必要性

正社員以外の働き方が広がるにつれ、彼らの心身を支える制度やサービスのニーズも高まっている。会社に属していると、定期的に健康診断が義務づけられ、ケガや病気になった場合も十分なケアを受けられる。しかし、フリーランスにはそうしたセーフティネットが用意されていない。

住友生命保険相互会社の堀氏は、働き方の変化に伴い、「個人」の健康を促進する保険が必要になると考えている。それは同社の提供する『Vitality』のコンセプトでもあるという。

堀氏「『Vitality』は、健康診断や運動プログラムに参加すると、保険料が下がる“健康増進型の保険”です。

誰もが『健康に気を使わないといけない』とわかっていてもなかなか続けられない。特にフリーランスは忙しいですし、健康診断などは後回しにしやすいと思います。だからこそ、健康的な生活にシフトするきっかけを届けたいです」

UNLEASHでもフリーランスを支える新たなサービスを紹介している。今後もこうした個人を支える仕組みが整っていくことに期待したい。

参考記事:フリーランスは心身のメンテナンスも仕事のうち。専門家による働くひとのためのチャット健康相談

閉じた社会を越えてつながり、個人が主役の働き方へ

ここまでの話からは、多様な働き方を支える仕組みが、順調に整いつつある印象を受ける。しかし、モデレーターの吉田氏は、働く個人が持っている「意識」の問題について、問いを投げかけた。

吉田氏「日本では、税金の仕組みや社会保障について、十分な知識を持っている人が少ないと思っています。新卒で企業に入ると、あらゆる保証が自動的についてくるし、税金も自動的に払ってくれます。正社員であっても、収入の何%を社会保障に充てるかを考えないといけないアメリカとは、大きく違いますよね。

どちらが良い悪いではないですが、フリーランスが増えていくのであれば、働く上で必要な知識をしっかり広めていく必要があるのではないでしょうか」

「知識が必要」という吉田氏の意見に頷きつつ、伊藤氏は正社員であっても、働き方の変化を見据えて動いていく意識が必要だと語る。

伊藤氏「以前実施したアンケートでは、フリーランスの多くが、生活の安定や学ぶ手段がないことに危機を感じているという結果がありました。

しかし、正社員だからといって、生活の安定が保証されているわけでも、学ぶ手段が十分に用意されているわけでもないと思っています。変化が激しく、スキルの賞味期限が短くなっている今、新たなスキルを学び続けなければ真の意味での“安定”はない。

冒頭に話した通り、自分がどんな働き方をしたいのか、それにはどんなスキルや人脈が必要かということを見極めた上で、幅広い選択肢からキャリアを選びとっていける。これが『個人が主役になる』という言葉の意味なのだと思います」

膨大な選択肢から働き方を選ぶのは決して簡単ではない。「会社が副業を許可していないから」「私にはスキルがないから」など、考えるのをやめる理由はいくらでも思いつく。

けれど、政府や企業から多様な働き方を支える動きが生まれている。会社員かどうかに関わらず、ふと立ち止まって「自分がどう働きたいか」を考えるのは、ワクワクする営みのはずだ。本当の意味で「個人が主役」になれる時代に向けて、一歩踏み出してみたいと思う。