観光に来たのに人気のスポットはどこも人で溢れていて、施設に入るのも、ランチをするにも一苦労。せっかくの休暇の大半を並んで過ごした、なんて経験は誰もがあるはず。

海外の観光地では、さらに状況が悪化しているケースも少なくない。観光地が受け入れられる人数以上に観光客が増えてしまう状態は「オーバーツーリズム」と呼ばれ、アムステルダムやバルセロナ、ベネチアなどの有名観光都市で課題となっている。

観光客の増加に伴う公共交通機関の混雑や、ホテルや違法民泊の増加による地価や家賃の上昇などの問題などが顕在化している。地域経済にとって観光客は大切だが、過剰な観光客の集中は課題にもなる。

この問題に対して、観光者の入場規制を取るケースもある。だが、ロンドンは違う。ゲームアプリを通じて、観光地の混雑状態の緩和に取り組み始めた。

「無名な」観光スポットをゲームアプリで提案

ロンドン観光局が提供する「Play London with Mr Bean」(以下、Play London)は、ロンドンを代表するコメディ俳優のMr.ビーンと一緒にロンドン市内を探索し、パズルゲームなどを次々にクリアしていく無料ゲームアプリだ。パズルをクリアしていくごとに、ポイントを獲得できる。

普通のゲームアプリと異なるのは、獲得したポイントはゲームの中だけではなく、ロンドン市内の観光施設や飲食店のサービスに使うことができる点だ。たとえば、コーヒーの無料チケットやボートのツアー割引券が手に入る。

このゲームアプリは、ロンドン中心部の混雑解消が目的だ。そのため、ロンドンから電車で30分ほどのグリニッジのように、観光客にあまり知られていないスポットを訪れると、クーポンが手に入りやすい。

ユーザーはアプリを通して、旅行サイトやガイドブックでは見つけられない観光スポットを知ることができる。中には実際に足を運ぶ人もいるだろう。ユーザーにも、商業施設にも、メリットのある仕組みだ。

一方で、年間の旅行者人数が2,000万人近くに達するロンドンへの観光客に対し、60万回のダウンロードという数字が混雑解消にどれだけ有効なのだろうか。レベルが高いほどクーポンの内容も充実するため、インセンティブの恩恵を受けられるのは一部のコアユーザーに限られる懸念も残る。

アプリを開発したのは、コペンハーゲンに本拠地を置くモバイルゲーム会社のPointvoucher社だ。同社はPlay Londonから得られる位置情報データを通じて、観光者がどのように移動しているかを知り、その場所に応じたクーポンの提供を計画している。また、オーバーツーリズム問題に苦しむ他の観光地にもアプリを提供し、問題の解決を図るという。

ゲームは「オーバーツーリズム」に対する解決策になるのか

有名な観光都市であれば、何度も足を運ぶこともある。その度に、もっとマイナーで誰も知らない場所に遊びに行きたいという欲求が出てくるだろう。だが、「無名な」観光スポットを手軽に知り、足を向けさせるツールはこれまで見当たらなかった。

誰も知らない観光スポットを見つけ、混雑した観光地以外に自ら進んで移動する。Play Londonはインセンティブの設計により、観光地の混雑解消に取り組む。21世紀の都市が抱えるオーバーツーリズムという課題に対して、まだ明確な解決策は見出されていない。さまざなアプローチを実験する中で、より良い観光体験に近づいていくだろう。

img:Play London with Mr Bean , Pointvoucher