就活の時、大分苦労した覚えがある。就職先もそうだが、合うスーツの無さにだ。
就活用と思い大手のスーツ店へ買いに行くと、合うサイズがまったくない。店員からも「オーダーの方がいいかも知れない」と勧められたほどだった。
スーツを着ない仕事を志望していた自分にとって、就活用のスーツにそんな高い額を払いたくはなかった。ただあまりにも既製品が合わない姿を目の当たりにし、泣く泣くオーダーすることにした。無論、就活後にそのスーツを着たのは数回程度だ。
そんなオーダースーツも徐々にその市場が変化してきた。いまや大手を含め、アパレル各社が手軽な価格でオーダースーツを提供している。
オーダースーツ市場を牽引していたFABRIC TOKYO
この市場変化にいち早くアプローチしたのが2014年にサービスをスタートした、カスタムメイドビジネスウェアを展開する『FABRIC TOKYO』だ。
同社では、2014年という早い段階からオンラインに基軸を置くことでコストを下げ、安価に高品質なオーダービジネスウェアを提供してきた。オーダー等はすべてオンラインで、採寸を店舗に切り分け、店舗で採寸をおこなうと、採寸データが会員アカウントに紐付けられ、シャツでもスーツでもすべてオンラインで注文でき自宅まで届く仕組みとなっている。
市場をいち早く開拓してきたFABRIC TOKYOは、店舗展開においてさまざまな実験的な取り組みを行ってきた。オンラインで販売し、実店舗は採寸のみに絞るスタイルもその実験的な取り組みのひとつだ。
ほかにも、店員が棚から生地サンプルを出すのではなく、客自らが生地を直接選ぶスタイルや、1年で十回以上もポップアップストアを展開するなどしてきた。そんな同社は今年実店舗の展開に力を入れている。
店舗展開へ力を入れ、8店舗の表参道をオープン
2018年8月3日、FABRIC TOKYOでは、8店舗目となる表参道店をオープンさせた。
前述の通り昨年まではポップアップを中心に展開していた同社だが、今年は実店舗の展開へシフト。2018年1月の銀座を皮切りに、7月に吉祥寺、8月に表参道と展開する速度を加速させている。
表参道店は青山通りから1本入った静かな通りの地下に店舗を構える。15坪という小さな店内だが300種類以上のスーツ生地、100種類以上のシャツ生地を備えているという。
今回表参道という場所を選んだのは、東京の東側(大手町・丸の内・赤坂等)で働くビジネスパーソンで、西側(小田急沿線など)に家がある人を想定し、帰宅導線上に出店するという理由からだという。
店舗の内装も興味深い。表参道の店舗には、銀座店での発表時に披露した「FABRIC WALL」という生地を一覧で見渡せる什器とも異なる、新しい什器を使用している。カード状の生地サンプル「FABRIC CARD」が収納された棚だ。来店者は気になる生地サンプルを自由に持って帰れるという。
以前筆者がインタビューした際、同社代表取締役の森雄一郎氏は、店舗開発もITプロダクトと同様に小さく試し仮説検証を繰り返していると語っていた。今回のFABRIC CARDを並べた什器も、他店舗で試したところ好評だったため、正式導入したものだという。(7月にオープンした吉祥寺店でも一部使われている)
パーソナライズが担う“自分らしさ”
FABRIC TOKYOが展開し市場を着実に拡大してきたオーダー市場は、一種のパーソナライズだ。就活当時の筆者のように、自分に合うサイズのものに出会えず困る場面は少なからずある。そのソリューションとしてのパーソナライズが担う役割は決して少なくない。
ただこれまではそのパーソナライズにかかるコストが高く、気軽に自分に合ったものを手にできない状況があった。そこへ、テクノロジーの活用や店舗とオンラインをうまく接続するプレイヤーの登場したことで、ハードルを徐々に下げてきてくれている。
これまでUNLEASHでもパーソナライズのシャンプーや、サプリメントなどを紹介してきたが、本来多様であるニーズに寄り添い、仕組みを構築してそれぞれに合わせたものを提供しようというメーカーは着実に増えてきている。
FABRIC TOKYOは“Fit your Life”というワードを掲げ、“自分らしさをかたちにする”ことをサービスコンセプトに据えている。それぞれのものから“らしさ”を表すためにも、パーソナライズが担う役割はまだまだ広がっていくはずだ。