パステルカラーを中心に構成された世界観、大きな瞳に長い脚。彼女たちは、私たちがよく目にする女児向けのファッションドールと何ら変わりはない。ただ、一点を除いては。

彼女たちがハンドバッグの代わりに小脇に抱えているのは、ノートパソコンだ。また、白衣を纏い、ゴーグルをしていたり、トレッキング・ルックに身を包み片手にハンマーを持っていたりするドールもいる。彼女たちの服装において共通しているのは、「STEM(理系)」であるということ。

近年、欧米では女児向け玩具のSTEM化が進んでいる。STEMとは”Science, Technology, Engineering and Mathematics”、科学・技術・工学・数学という理系教育分野を総称したもの。Amazon USAで「stem toys for girls」と検索すると、1500件以上の候補がヒットする。

欧米のSTEMな女児向け玩具

例えば、「Ruby Rails(ルビーレイルズ)」は、Webアプリケーションフレームワーク「Ruby on Rails」に因んで作られたキャラクター。彼女はテクノロジーに精通したスカイダイバー(tech-savvy skydiver) という設定だ。

ファッションドール「Lotti(ロッティ)」ではSTEMに芸術(Art)の分野を追加したSTEAMシリーズがある。また、STEAM以外にも多彩な職業設定が用意されていることも魅力的だ。

もちろん、冒頭で紹介した「Barbie(バービー)」だってSTEM化している。基礎化学の実験を行うバービーもいれば、地質学者として自分が身に着ける指輪の宝石を採取するバービーもいる。

STEMなドールハウス「roominate(ルーミネート)」は家のパーツの配置はもちろん、電気の配線だって自分でできるのだ。

なぜ女児向け玩具のSTEM化が起きているのか

なぜ今STEM玩具が欧米で支持されているのか。その根底には、従来のプリンセス像と現実社会の乖離がある。その社会変化を象徴するように、従来のプリンセス像に正面から立ち向かい、実在の女性の偉人100人の物語を絵本にした「Good Night Stories for Rebel Girls(グッド・ナイト・ストーリーズ・フォー・レベル・ガールズ)」が登場した。

王子様を待つプリンセスから、自分で行動して幸せをつかみ取るリアルなヒロイン像へ。そんなテーマの絵本が欧米の女児を持つ保護者に支持されている。

「Good Night Stories for Rebel Girls」はクラウドファンディングによって誕生した絵本だ。2016年春にクラウドファンディングプラットフォーム「Kickstarter(キックスターター)」で公開されて以来、約68万ドル(7500万円)の支援金を調達し、現在はGood Night Stories for Rebel Girls 2の制作に向け再び支援を呼び掛けている。こちらも、現時点で約87万ドル(9600万円)の支援金が集まっている。絵本製作に対するクラウドファンディングとしては異例の金額と言え、それだけ多くの人の賛同を集めていることがうかがえる。

一億総活躍が叫ばれ、女性が活躍できる社会の必要性が問われている現在、日本においても、自ら行動して、社会で活躍する”ヒロイン像”の浸透が男女格差の打開のヒントになるのではないだろうか。