なぜ、あえて「やめる」を問うのか?

今回のテーマ選定の過程では、「学ぶ」や「贈る」といったポジティブな響きを持つ言葉も候補に挙がっていたという。その中から「つなぐ」が選ばれ、さらにその対極の概念として「やめる」が浮上した。

PARADE株式会社の代表取締役社長である中川淳氏は、「やめる」という言葉にネガティブなイメージを抱いていないと語る。

中川淳氏(PARADE株式会社 代表取締役社長)。株式会社中川政七商店とTakram Japan株式会社を中心に設立されたジョイントベンチャーであるPARADE株式会社を率いる。

中川淳氏(以下、中川)「新しいことにチャレンジする時点で、『やめる』はセットになっているんです。やめないと余白が生まれないから、新しいことはできない。やめる選択肢をネガティブに捉えていると、そもそも新しいことにチャレンジする気が起きなくなってしまう」

やめることと、挑戦することは不可分。この考え方は、やめる=停滞という認識を変えるきっかけを与えてくれる。一方、同社の取締役副社長である佐々木康裕氏は、社会的な文脈から「やめる」ことの重要性を指摘する。

佐々木康裕氏(PARADE株式会社 取締役副社長 / Takramディレクター / ストラテジスト)。Takramでの活動と並行し、PARADEの運営に携わる。

佐々木康裕氏(以下、佐々木)「日本には、一生懸命さや忍耐を選び、止めることをよしとしない風潮がある。でも、惰性で続いているものはないか、と問い直さなければリソースは空かない。その空いたリソースをどこに振り分けるかが大事なんです」

近年、『撤退論』に類する書籍が注目を集めるなど、社会全体が「やめることの価値」に目を向け始めている潮流もある。何かを始めること以上に、何かをやめる決断するときにこそ、その人や組織のスタンスは色濃く表れるのかもしれない。

今回のテーマは「やめる」だけではない。「つなぐ」という言葉が対置されている点も重要だ。これは、「続けるか、やめるか」という二元論からの脱却を示唆している。佐々木氏はこの関係性を「Iの話とWeの話」と表現する。

佐々木「『やめる』と『新しいことを始める』は、個人の話になりがちです。しかし、『つなぐ』だと相手が生まれる。社会や周囲に対する責任といった、より公的な視点が開けてきます」

自分が何かをやめるとして、それまで受け取ってきたものを誰かに「つなぐ」。この視点が加わることで、「やめる」という行為は個人的な完結を超え、他者との関係性の中に位置づけられる。それは、PARADEがこれまで探求してきた「個人になりすぎず、組織や社会としてどうするか」という問いとも通底している。

これまでのOSをやめてみる——個人のライフスタンスと向き合うということ

テーマの背景には、主催者自身の個人的な経験も色濃く反映されている。2025年2月、中川氏は中川政七商店の会長職を退任した。退任後は、改めて自身のライフスタンスを問い直す期間でもあったという。

中川「組織のトップでいたときは、会社のビジョンがほとんど自分のビジョンとニアリーイコールでした。しかし、個人になるとそういうわけにはいかない。個人のライフスタンスがより問われるようになりました」

中川「何でも早く効率的に、というのは経営者マインド。一方で、何も考えていなくても移動中に道をショートカットしようとしている自分もいて、それは元々自分が持っていた性質なんだろうな、と。会社を辞めて余裕ができたことで、景色が目に入ったり、本当に何が楽しくて何が好きなのかを考えたりするようになりました」

何かを「やめる」ことで生まれた余白に、これまで見過ごされてきた自分自身の価値観が立ち現れてくる。

佐々木氏もまた、自身の変化について語る。彼が最近「やめた」のは、「自己研鑽」だという。もちろん、研鑽を完全に放棄したわけではない。思考のリソースを割く対象を変え、優先順位を「個」から「関係」へとシフトさせたのだという。

佐々木「個人のパフォーマンスを上げるのではなく、関係のパフォーマンスを上げていく考え方に変わってきています。自分の周囲にいる人たちとの関係を向上させるために、自分が何をできるのか。そこにリソースをかけるようになりました」

この考え方は、『世界は関係でできている』といった書籍にもインスパイアされたものだという。あらゆる存在は、他者からの目線や関わり合いといった関係性なしには存在し得ない。

両者の話から見えてくるのは、「やめる」という行為の捉え直しだ。それは、ある日突然訪れる断絶(点)ではない。

佐々木氏は「やめるは瞬間じゃなくて、線だと思う」と語る。そこには時間をかけた準備や移行期間(トランジション)が存在し、決断に至るまでのプロセスがある。中川氏もまた、「やめた後のほうが変化は大きい」と呼応する。

「選ぶ」ことはライフスタンスのベース

やめる決断という「点」に注目するのではなく、やめるまでの葛藤と、やめた後に広がる新しい景色までをひと続きの線として捉えることで、それは一時的な喪失ではなく、次なる変化への不可欠なステップとして立ち現れてくる。実は中川氏には、中川政七商店への入社当初から「いつかやめる」という選択肢を持ち続けていたという。

中川「入社したときにやったことは、完済するのに当時の収支ベースでは30年かかる借用書へのサインでした。完済したときには、60歳になってしまう、これは会社を大きくして稼ぐしかないと思いました。そのために必死に仕事する、ただ60歳までやめられないものとして捉えるのではなく、長い時間軸で見てやめるという選択肢を持ち続けていたんです。タイミングや条件が重なって、ようやく選べました」

家業を継ぐ「アトツギ」は、辞められないものだと思われがちだ。しかし中川氏は「どうにも行き詰まったらやめたらいい」と語る。長いスパンで考えることで、見えなかった選択肢が浮かび上がってくることもあるのだという。

今回のテーマ「つなぐ。やめる。選ぶ。」の中で、「選ぶ」は過去の開催でも継続して掲げられてきたキーワードだ。「選ぶ」という行為は、ライフスタンスの根幹に位置づけられていると考えられる。

中川「ライフスタンスは、意思決定と意思表明の積み重ねです。決める、選ぶというのは、選択肢の中から決めるということ。個人的には、選べること自体が豊かなことだと思っています。より多くの選択肢を持てたほうがいいし、それを自分で選べたほうがいい」

佐々木氏もこれに同意する。

佐々木「『選ぶ』がベースにあるんです。『つなぐ』も『やめる』も、選択肢であり、選択するという行動。すべては『選ぶ』という営みの上に成り立っている」

選択肢があることに気づいていない、あるいは無意識に排除してしまっている——そうした状況から抜け出し、自分の手で選び取れる状態をつくること。それこそが、ライフスタンスを考える上での出発点になる。

「つなぐ。やめる。選ぶ。の未来」を考えるために

つなぐ、やめる、選ぶ。これらの行為がもたらすライフスタンスへの影響に、どう向き合えばいいのか。3回目の開催では、会場のエリア構成もアップデートされる。

内省的なワークショップを行うスペースと、物販や企業ブースが並ぶにぎやかなエリアを分けることで、来場者が自分のペースで体験を選べるようになっている。

注目のコンテンツのひとつが「積読読書会」だ。ずっと読もうと思いながら積んだままになっている本を持ち寄り、なぜ読めていないのかを語り合う。「積読をやめる」という行為を通じて、自分自身の「やめられなさ」と向き合う時間になるかもしれない。

写真は前回の開催時のもの

中川「積読している本にも、その人らしさが表れると思うんです。他にも、お茶会、哲学対話、ジャーナリングなど、さまざまなワークショップを用意しています」

「これからの25年で何を紡いでいくか」「何をやめたか」「やらないと決めたことは何か」——シンプルだが、回答は簡単ではない問いに向き合う時間となりそうだ。

佐々木「アメリカの大学の卒業式は『コメンスメント(Commencement)』と呼ばれます。卒業であり、同時に開始でもある。ダブルミーニングなんです。『やめる』にも、そんな言葉を見つけられて、捉え方を変えていけるといいですよね」

Lifestance EXPOには、多様な視点からテーマを掘り下げるトークセッションも多数用意されている。自身の生き方に対する姿勢や哲学について見つめ直す場に、ぜひ足を運んでほしい。

写真は前回のトークセッションの様子

Lifestance EXPO 2026 開催概要

<開催日時>
2026年1月30日(金) 13:00〜19:00
2026年1月31日(土) 10:00〜18:00
2026年2月1日(日) 10:00〜16:00
※雨天決行

<会場>
コクヨ東京品川オフィス「THE CAMPUS」
(〒108-0075 東京都港区港南1丁目8番35号 JR品川駅港南口より徒歩3分)

<入場料>
500円

<主催>
PARADE

<共催>
コクヨ株式会社

<イベントパートナー>
株式会社Voicy、Peatix Japan株式会社、株式会社インクワイア

<イベント公式サイト>
WEB: https://join-parade.jp/lifestanceexpo2026/
Instagram: https://www.instagram.com/lifestanceexpo_parade/

<イベントに関するお問合せ>
イベント運営事務局 info@join-parade.jp