メディアの「プロセス」に価値を置く

企業のメディアコミュニケーションを支援してきたインフォバーン。そのデザイン部門IDLでは、これまでの実践からメディアをデザインリサーチの手段として使う「デザイン・スルー・メディア」というメソッドを編み出したという。

オウンドメディアやソーシャルメディアなど、企業のメディア活用はかなり浸透した。オーディエンスとのタッチポイントをつくり、コンテンツによって共感や行動の想起を目指して活動してきた。

「デザイン・スルー・メディア」では、コンテンツ制作や発信に至る前のプロセスにおける価値に着目する。取材先との関係構築や、リサーチにて得られて蓄積した知識など、メディアを運営するプロセスにおける価値を活かす狙いだ。

メディアのプロセスが生むアセットを蓄積

メディアにおけるプロセスで、実際にどのような価値が生まれるのだろうか。遠藤氏はプロセスをEXPLORER、PLAN、PRODUCE、PUBLISH、COMMUNICATEの5つに分けて、それぞれのプロセスにおける価値を紹介する。

遠藤氏「EXPLOREやPLANでは、知見獲得やステークホルダー理解、分析手法の獲得などの価値があります。PRODUCEのプロセスでも、取材対象との関係構築が価値として生まれます。こうした価値は新規事業開発やコミュニティ形成等につながります」

IDLが手掛けた中部電力のメディア事例では、市民参加型のワークショップや有識者インタビュー、行政インタビュー、市民座談会、コミュニティイベントやハッカソンなど、様々なプロセスを実施している。デザインリサーチのプロセスとも言えるが、メディアと組み合わせることで価値を強化することもある。

遠藤氏「こうした活動の様子を発信していくとアーカイブされますし、メディア的なアプローチをとることでストレートなコミュニケーションでは接点のなかった首長のインタビューも実現できました。こうした価値は、放っておくと属人化してしまいます。これらの価値を蓄積し、データベースとしていくことで他のメンバーもアクセスできるようにしています」

取材のようなメディア運営プロセスにおける営みでは、つながりが生まれていく。事業やプロジェクトを形にしていく際にも、つながりやコミュニティは必要不可欠だ。リサーチや企画もアウトプットの記事の質を高めるための作業ではあるが、担当者には知見として蓄積されている。デザインプロセスとメディアをうまく融合させることでそれぞれのアプローチをリフレームし、より本持続可能な価値創造が期待できるというのが「デザイン・スルー・メディア」の中心的な考え方だ。

プロジェクトが完了してからのリリースとなると、走り始めてから世に送り出されるまでのタイムラグも大きくなる。ひとつの正解を導き出すのが難しい時代に、プロセスエコノミー的な発想によるメディアコンテンツはすでに見られつつある。さらに一歩踏み込み、プロセスそのものを価値化できれば、アウトプットの数値だけでの評価がハードルになりがちな企業のメディアコミュニケーションにおいて、その価値を最大化する考え方になりうるのではないだろうか。

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https://idl.infobahn.co.jp/mag/method_dtm