人文・社会科学分野の研究者を支援するアカデミックインキュベーション

人文・社会科学分野の研究は、私たちが生きている時代をどう捉えたらいいのかについて示唆を与えてくれる。それは短期的な営みではなく、中長期的な営みであるはずだ。

一方で、こうした研究領域は不要論が語られることもあり、研究活動を継続するうえで恵まれた環境にあるとはいえない。こうした考えのもとで一般社団法人デサイロは設立された。

これまで、デサイロは人文・社会科学分野の研究者を支援するアカデミックインキュベーターとして活動してきた。今回立ち上げた「デサイロ アカデミックインキュベーター・プログラム」は活動の一環でもある。

「デサイロ アカデミックインキュベーター・プログラム」の概要

同プログラムでは、総額100万円の研究助成金の給付のみならず、デサイロというプラットフォームを通じて、大きく3つの取り組みを予定しているという。

1.「De-Silo Publishing」での一般書の刊行

デサイロが活用する情報発信のプラットフォームSubstackを利用し、研究テーマに基づいた連載記事を公開している。その発信内容をまとめ、一般書として刊行することで、研究と社会の接続を目指す。

「締切」は大事ではありつつ、必ずしも設定されたタイミングで研究の成果が出るとは限らない。そのため、連載や刊行のタイミングについての期限の設定はない。研究が深まり、成果として出版したいと希望されたタイミングにて、デサイロ運営メンバーの編集者が刊行をサポートするという。

2.研究活動の社会へのアウトリーチ支援

デサイロの運営メンバーにより、研究活動で生まれた知のアウトリーチを支援する。市民向けの講座やファンクラブの開設、企業や行政の有識者リサーチへの参加、学術誌以外への寄稿や執筆など、研究者の特性に応じた知のアウトリーチと、それに伴う収益化のサポートを実施するという。

3.研究会やイベントへの参加機会の提供

デサイロが運営する、多分野の研究者が集う学際的なプログラムへの参加や、他2名の採択研究者との交流/ディスカッションを通じて、研究テーマを深める機会を提供する。

これらの支援内容を踏まえて、募集の条件は以下のようになっている。

【公募期間】
2023年7月4日(火)〜8月18日(金)

【募集対象】

・人文・社会科学分野における博士号を取得あるいは博士課程に在籍中の研究者
・博士論文の書籍化を除き、商業出版における単著の刊行経験がない方
・デサイロの活動理念に共感いただける方
※大学への所属の有無は問いません

【募集人数】
3名
※選考結果に関わらず、今後のデサイロとして人文社会科学の振興活動を進めていく上で、個別に連絡させていただく可能性があることをご了承ください。

【助成金額】
100万円
※使用用途を研究費のみに限定せず、その3割を生活費に充てることができます。

研究過程で生まれた価値の出力先や社会との接点をつくる

同プログラムでは、研究と社会の新しい接点づくりにとどまらず、研究者のキャリアデザインの支援にも取り組む。研究者のキャリアについての課題として、一般社団法人デサイロ理事であり、プログラムの審査委員も務める独立人類学者の磯野真穂さんは次のように指摘する。

「アカデミア、特に人文・社会科学の世界は、研究者が大学の常勤職員であることが前提となってデザインされています。常勤職になると生活は安定し、研究費も取りやすくなるけれど、そのトラックに乗れないと生活の基盤自体が不安定になる──ずいぶんな格差社会です」

研究者のキャリアにおける課題はこれまでにも指摘されており、企業内研究者や在野で研究を続けるなど、オルタナティブも生まれてきてはいる。とはいえ、大学の常勤職のポスト減少が避けられないなかで、研究活動を続けていくためには、研究と社会の新しい接点をつくり、持続可能に活動を続けていくためのモデル構築が求められる。

デサイロは、研究活動の支援を主体としながら、その活動の過程で生まれた価値の出力先や社会との接点づくりを行っていくという。進めていきたい研究活動がある研究者の方は、こちらから申し込める。