人事制度も自分で決める。ガイアックスのカルチャー

イベント冒頭、まず木村氏はガイアックスの事業やカルチャーについて共有した。

木村氏「ガイアックスは、自由で、自分で決めるというカルチャーが強いです。入社時はライフミッションをプレゼンしたり、自らの意志で挑戦することにこだわっているので、「フリー・フラット・オープン」と呼ばれるカルチャーが自然と生まれました。

代表的なのが、評価テーブルを自分たちで決めていることです。これまで「グレードや人事制度をしっかり作り込んだ方がいいのでは」という議論が何度も発生しました。でも、評価は人それぞれで統一できないし、正しいことがわからないという結論になり、自分たちで決めています」

「あなたのすべては、あなたが決める」というカルチャーは、働き方にも大きく影響している。副業率が高かったり、新型コロナウイルス感染症が蔓延する前からテレワークを実施する人たちが多い。

木村氏「コロナ前は、週2〜3日でテレワークをする人が多かったです。でも、コロナ禍で地方移住する人が一気に増えて、そもそも数ヶ月に1回しかオフィスに来ない人が多いですね」

会社の行事は社員の「共感」をつくる

ライフミッションにそった仕事をしたり、働き方を自分で決めたり、十分にカルチャーが広まっていると思いきや、強いカルチャーゆえの弊害があると言う。

木村氏「『あなたのすべては、あなたが決める』というのが強いので、会社の強制力が全くないんですよ。例えば、社内総会や全社イベントを参加必須にしても、参加しない人が必ずでてくる。また、オフィス移転を決定しても、部署ごとに『私たちはオフィスをどこにしようか』と議論されていたり。事業部ごとに管理部門の費用をつけているので、部署での決定が優先されやすいです」

社内全体に企業文化を広める役割「チーフカルチャーオフィサー」を担っている木村氏は、施策を広める際に気をつけていることがある。

木村氏「文化を広める立場とすれば、『文化の浸透』とついつい言ってしまいますが、『浸透』は第三者から押し付けられているような感覚を生んでしまいます。何度か『浸透』という言葉をつかって、メンバーから反感を持たれたことがあります(笑)。

ガイアックスの自由なカルチャーを尊重するには、『浸透』ではなく、職場で働いているメンバー同士で何に『共感』しているか。これが大事だなと感じています」

「自分のことは、自分で決める」が強いゆえに、社内総会すら全員参加にならないガイアックス。そんな同社が運営する「企業合宿」とはどのようなものなのだろうか。木村氏は「共感」を大事に検討したところ、ウェルビーイングをテーマにした合宿に辿り着いたと言う。

木村氏「合宿をするのに、メンバーをまとめるためにミッションやビジョンをテーマにしがちです。でも、それは事業からブレイクダウンしたもので、会社から押し付けられているような感覚になってしまいます。

それよりも、合宿でメンバーがありのままに話せる状態に価値があると考えました。個人のウェルビーイングを大切にされていると感じるからこそ、相手やコミュニティを大事にしようと思える。そんな合宿を作りたいと思いました」

コロナ前の2019年に開催された軽井沢での合宿は、約90人が参加。メンバーだけでなく、メンバーの友人なども参加した。1日目は森で過ごしたりメンバーと対話したり、自由に過ごし、2日目はウェルビーイングにまつわるプログラムを20以上開催して、関心あるものに各々参加した。

2019年夏合宿のタイムライン

今年はコロナ禍ということもあり、宿坊で二泊三日を過ごし、食事でも一切会話しないという三密対策を行った上で合宿を実施したという。

木村氏「今年の合宿は若手メンバーが議論して、開催しました。コロナ禍になり、テレワークも広がり、メンタルヘルスの低下が発生しやすい状況であるなと。メンバーもそんな状況を感じ、改めてウェルビーイングの重要性だと気づいたのだと思います」

“私とあなた”の境界線があいまいだから生まれる繋がり

コロナ禍で、地方移住する人が増え、出勤する人が少なくなり、オフィスの在り方も変わった。コロナ前は、「日本で一番シェアが体験できるビル」をコンセプトに運営している『Nagatacho GRiD』がオフィスとなり、さまざまな人たちが行き交う場になっていたと言う。

木村氏「『Nagatacho GRiD』はシェアビルとして運営していましたが、執務室エリアはガイアックスの従業員しか入れないようになっていました。でも、執務室エリアを解放すると、社内外の人たちが混じってテーブルで話す文化ができたんですよ。

一緒にランチをしながら、『こういうイベントできたら面白そう』みたいな話がでてきて、実際にイベントを開催したり。偶然の出会いから生まれるエンターテイメントをみんな面白がっていました」

現在は地方移住者が増え、なかなかオフィスに集まらなくなったが、その代わりに「お家解放」という新たな文化が出来つつあると木村氏は言う。

木村氏「地方に住んでいる人たちが、東京に来た際に、『うちに泊まっていいよ!』というメンバーが増えたんですよね。これには僕も驚きまして。なんで家を解放する人が増えたかを考えると、シェアオフィス時代の経験が大きいのかなと。

他人がプライベートな空間に混じることの面白さを『Nagatacho GRiD』で感じたからこそ、あえて家を解放する文化が生まれたのかなと思います」

木村氏の共有を踏まえて、ファシリテーターの株式会社NESTO CFOの高橋理志氏は「“あなた”と“私”の壁をとることの面白さがある」と語った。

高橋氏「イェール大学のハピネス研究で、見知らぬ人がバスに話しかける実験があります。実験前は、知らない人に話しかけるのも嫌だし、話しかけるのも嫌だろうと想定していました。でも、実験結果で強制的に話しかけた人のウェルビーイングがは向上したことが判明したんです。

他者との境界を曖昧にすることで、ウェルビーイングが向上する。これはガイアックスのオフィス交流やお泊まり文化にも通ずる部分がありそうですね」

「個人が大切にされていると感じるから、相手もコミュニティも大切にする」そんなことを感じられる合宿を開催し、コロナ禍では「お家解放」という新たな文化が生まれたガイアックス。イベント最後に木村氏が感じる「ウェルビーイング」について語られた。

木村氏「ガイアックスのようにバラバラで、個人の主張が強い組織になればなるほど、共感されるのは『ウェルビーイング』のようなキーワードではないかと考えています。

一人ひとりにとってベストな状態はが違います。『ウェルビーイング』はそれさえも包括して、認めてくれる。今の時代は、メンバーからはそのような言葉が求められていると感じます」