FOREST REGENERATIVE PROJECTの背景には、日本の国土において約70%が森林であり、その多くが林業事業者の減少等で整備が行き届いておらず、温室効果ガス吸収能力を十分に発揮できず「死んだ森」になってしまっているのではないかという、ユートピアアグリカルチャーの課題認識がある。

牛は森林地帯でも育成可能であることから、放牧酪農の一種である山地酪農を活用し、死んだ森に動物が入ることで生き返るかどうかを実験するという。今回の実験では自然をそのままに牛の力を活用するのではなく、人と動物と自然の関わりを模索していくために、拡張生態系という考え方を用いる。土壌の栄養素の循環にも関わりながら動物の餌にもなる、これまでの盤渓にはなかった新たな植物を植えることで、自然の力を引き出す新たな森林の生態系づくりも試していくそうだ。

ユートピアアグリカルチャーは、昨年同プロジェクトのための土地を取得。北海道大学農学部内田研究室と共にこれまで行ってきた研究をさらに推進する場として同プロジェクトを企画した。酪農を行うための実務者は現場にいることが多いが、研究に関わるメンバーが牛の成長や土地の状態などをリサーチするためには移動距離が長く、頻繁に通うのは困難だった。そのため、札幌市内にある盤渓という森林地帯で山地酪農の実験が可能な都市近接型の森の活性化実験のモデルファームをつくるに至った。

本プロジェクトには内田研究室をはじめ、施設の全体計画や設計には国内外で活躍する設計事務所DOMINO ARCHITECTS、ランドスケープの設計には人と動植物が関わる「生命の循環」の研究と社会実装を目指す研究者 片野晃輔氏、施設で採れた卵を販売する自動販売機の企画設計には東京2020オリンピック・パラリンピックで聖火台のエンジニアリングを担当したクリエイティブスタジオnomenaの武井祥平氏が参加。

左から武井祥平氏、長沼真太郎氏、大野友資氏、片野晃輔氏

実験開始当初は、鶏舎が2棟と牛や馬が10頭程度休める場所と卵の出荷施設を作り、鶏の体に負担をかけない鶏卵を育て販売しながら、山地で酪農するためのノウハウを蓄積していくことを目指す。当面は商業的に利益を求めるのではなく、いかに地球と動物と人が協生できるビジネスが実現できるかの実践を行うという。

当面は実験がメインとはなるものの事業と環境面での両立を目指し、温室効果ガスの削減や土壌の改善を数値化し目標を達成を目指しながら、ゆくゆくは経済的に自立できる量の卵や牛乳の産出も目指す。本プロジェクトを通してリジェネレイティブな牧場経営のノウハウを蓄積し、企業オーナーと実際の牧場経営者が異なる経営体制「シェアミルカー制度」にも活かしていくことも狙う。

また、盤渓の土地ではモデルファームとしての役割のみならず、カフェやレストラン、ホテルなどを建設し、ユーザーを巻き込んでいく体験型施設の追加建設も視野に入れているという。同社はこれらの活動を通して情報発信を重ね、地球温暖化に対して取り組めることや畜産業の未来に対する理解を促進させることを目指す。