毎年のように人間が資源を消費するスピードが速まっている。地球が1年間に生み出す資源を、365日のどの時点で人間が使い尽くしてしまうかを指す「Earth Overshoot Day(アース・オーバーシュート・デー)」という指標がある。2018年のアース・オーバーシュート・デーは、昨年から1日短くなり、過去最低の8月1日だった。たった半年と少しで、1年間に地球が生み出す資源をすべて消費しきってしまう。

消費するスピードと比例して、廃棄物の量も増え続けている。The World Bankのレポートによると、世界の廃棄物は2050年には約34億トン、2018年の約20億トンから70%も増加する見込みだ。

“廃棄物”を“資源”に変えるマッチングプラットフォーム

今後も地球で暮らし続けていくなら、資源の消費を抑え、廃棄物を減らし、資源の再利用を促していく必要がある。

そのために新たな仕組みを提案するのが、オランダ発の廃棄物のマッチングプラットフォーム『Excess Materials Exchange(以下、EME)』だ。同プラットフォーム上では、企業間で廃棄物の情報を共有し、「廃棄物」を提供して利益を得たり、「資源」を低コストで調達したりといった取引が行える。廃棄物のマッチングは、以下4つのステップに沿って進む。

1. Resources Passport:『Resources Passport』と呼ばれる共通データベースで、材料や部品、プロダクトの特徴、利用された場所や期間を管理する。

2. Tracking & Tracing:バーコードやQRコード、NFCタグ、RFIDタグなど、在庫管理に利用されるシステムのデータと、『Resources Passport』の情報を統合し、材料や部品、プロダクトが、いつどこで再利用できるのかを把握する。

3.Valuation:材料や部品、プロダクトが再利用された場合の経済、環境、社会的なインパクトを評価する。再利用による経済効果、温室効果ガスの削減量、水の消費量など複数の指標で評価する。

4. Matchmaking platform:上記のインパクトや企業のニーズなど、複数の要因を踏まえ、EME内部のメンバーが最適なマッチングを行う。

廃棄物の取引が生み出す利益

EMEは2016年の5月に設立され、今年の初めまで、試験運用プログラムを実施してきた。プログラムには、スキポール空港やオランダ鉄道のインフラ管理を行うProRailなど、オランダ国内の大手企業10社が参加。投資銀行ABM AMBROや会計事務所Ernst&Young、法律事務所Stibbeなどが協力し、法律や会計、財政にまつわるアドバイスを行なった。

フードサービスを提供するSodexoの事例では、同社がオレンジジュースを製造する際のオレンジの皮を、皮の成分から飼料を製造する企業へ提供した。

これにより廃棄した場合に比べ、二酸化炭素や有害物質の排出量が大幅に抑えられた。また、オレンジの皮1トン当たり50ユーロの廃棄費用も不要に。将来的には企業が1トンあたり20ユーロを支払う予定で、Sodexoは廃棄物から利益を得られる。

EMEのレポートには環境、経済的なインパクトが詳細に書かれている

試験運用プログラムでは18種類の廃棄物の評価やマッチングを実施。Sodexoのように実際に取引を行った事例もあれば、廃棄物の評価のみを行った事例もある。それらの結果を合わせると、試験運用だけで63,850,000ユーロの利益が生まれ、パリで消費される5年分のエネルギー、オリンピックプール860個分の水が節約できる計算になったという。

現在、EMEは試験運用の結果を踏まえ、プラットフォームの改善、物流などの取引に必要な仕組みの整備を進めている。ファウンダーのMaayke Damen氏は、同社の目指す未来を次のように語る

私たちは辞書から“Waste(ゴミ、廃棄物)”という言葉を無くし、価値ある資源として再定義したい。それが本来あるべき姿なのですから。

サーキュラーエコノミーは経済的合理性の高い選択

EMEが生まれたオランダは「サーキュラーエコノミー」の先進国だ。以前Googleの取り組みを紹介した記事で書いた通り、サーキュラーエコノミーは「資源や人、モノ、すべてが健やかに持続できる経済活動」を指し、大量消費・廃棄を前提とした社会から脱却するために掲げられた。

オランダでは、2050年までに事業に必要な資源を100%再生資源で賄うという政府の協定に、400社を超える企業が合意している。

なぜ、オランダでは企業や政府が積極的にサーキュラーエコノミーに取り組んでいるのか。以前、アムステルダムでサーキュラーエコノミーを研究している安居昭博さんに質問をした際、安居さんは、政府や企業が経済合理性を見出していることも要因の一つではないかと話していた。

EMEの試験運用プログラムが示した通り、資源の再利用によって、企業は廃棄物から利益を得られる可能性がある。企業が多くの利益を得て、国内経済が活気づく状態は、当然政府にとっても望ましい。オランダ政府が発行したサーキュラーエコノミーにまつわる提言書においても、環境保全に貢献できるだけでなく、資源を輸入に頼りすぎなくて良くなる点で、サーキュラーエコノミーへの移行は「オランダにとって経済的なチャンスである」と書かれている。

「環境にやさしくしよう」といった善意に頼るだけではなく、経済的な合理性に着目し、サーキュラーエコノミーを推進するための仕組みを実験する。日本が環境問題に取り組む上でも、そうした地に足ついた思考と実践が欠かせないのだと思う。