先日、台湾を訪れたとき、同国の資源リサイクル効率がドイツに次いで世界2位と知って驚いた。

国全体でのリサイクル率は1998年の5.9%から、 2015年には55%に達した。台湾の首都、台北のリサイクル率も67%と、2017年の東京のリサイクル率21.9%を大きく上回る。ウォール・ストリート・ジャーナルは台湾のリサイクル事情を説明する記事において「ゴミ捨ての天才」と讃えている

そんなリサイクル先進国はサーキュラーエコノミーの推進にも積極的だ。サーキュラーエコノミーとは「資源や人、モノ、すべてが健やかに持続できる経済活動」を指す。2016年に台湾政府は、経済成長に向けて注力すべき7事業の1つにサーキュラーエコノミーを挙げ、2020年までに資源の廃棄率を2%、資源の埋め立て、あるいは焼却率を3%に下げることを目標としている。

政府による支援だけではない。サーキュラーエコノミーの推進に特化した企業も登場している。「Relive Everything(すべてを生き返らせる)」をミッションに掲げるスタートアップ「REnato lab」もその一つだ。

エンジニアリング×デザインで循環型社会を後押しする

REnato labは、企業の廃棄物リサイクルに向けたコンサルティング、環境問題や循環型社会をテーマにしたストーリーテリングを展開するスタートアップだ。2014年に創業し、現在はデザインやエンジニアリングなど、異なる専門領域を持つ6人のメンバーが所属する。

コンサルティング事業では、鉄の精製過程で生まれた廃棄物を活用した新素材「RESTONE」の共同開発や、靴工場で発生する端切れを肥料に変えるプロセスの研究を行っている。

創業者であり、環境エンジニアリングとマテリアルサイエンスを専門に学んだJackie wang氏の知見を生かし、資源のリサイクルに関心のある企業に伴走する。

ストーリーテリング事業では、アートスペースとコラボレーションし、未来の持続可能なプロダクトデザインを集めた展示「Future Perfect」を行なっている。

前述のRESTONEを用いた家具などが展示された。

同社の広報担当アイリンによると、台湾ではサーキュラーエコノミーとデザインを掛け合わせた事業に、追い風が吹いているという。

「2016年、台北市はデザインによる都市振興を推進する国際イニシアチブ「ワールド・デザイン・キャピタル」に選出されました。インダストリアルデザインを軸にした様々な催しが行われ、台湾全体でデザイン業界が盛り上がっています。

同時期にサーキュラーエコノミーが注目を集め始めたこともあり、私たちにとって二つを掛け合わせて事業を展開するチャンスだったんです」

大義名分を語るだけでなく、生活に寄り添うツールを届ける

彼らがユニークなのは廃棄物のコンサルティングと、アートやデザインによるストーリーテリングを行なっている点だろう。2つの事業を行う理由について、アイリンは企業と消費者の間をつなぎたいからだと語る。

「近年、少しずつ『サステナブルな製品やサービスがあれば使いたい』という消費者は増えていると思います。それでも企業は及び腰です。彼らは十分なニーズがあると信じきれていないからです。利益が確約されていないから舵を切れずにいる。企業に期待する消費者、消費者をの変化を待つ企業。両者はにらめっこ状態になっています。

だから、REnato labは企業の廃棄物リサイクルを支援するとともに、サーキュラーエコノミーを支持する消費者を増やすためのストーリーテリングに取り組んできました。

ただ大義名分を語るだけでは不十分です。プロダクトデザインの知見を生かし、消費者の誰もが使いたくなるツールを届け、消費者のライフスタイルに変容を促したい。それが企業の変化も加速させるはずだからです」

「新しいタイプの消費者」を育てるために何ができる?

日本の企業と消費者も変わらなければいけないのだろう。筆者は2019年から、ゴミを極力出さない「ゼロ・ウェイスト」と呼ばれる価値観やライフスタイルを実践してきた。スーパーマーケットを訪れ、プラスチックで丁寧に包装された食料品を見るたび、日本でゼロ・ウェイストを貫く難しさを感じている。

日本は1人が排出する使い捨てプラスチックごみ量が世界で2番目に多く、回収したプラスチックの7割以上を燃やしている。プラスチックごみにおいてはリサイクル後進国だ。2018年にG7により提唱された「海洋プラスチック憲章」に署名をしなかったのは、日本とアメリカだけだった。

思えば、私がゼロ・ウェイストにハマったきっかけは、ニューヨーク・ブルックリンの「パッケージ・フリー・ショップ(Package Free Shop) 」で、デザイン性の高いプロダクトを手にしたことだった。同じように誰もが気軽に一歩を踏み出せるようなツールがあれば、日本の消費者、ひいては企業にもサーキュラーエコノミーは根づいていくはずだ。