この夏の参議院選挙で、重度障害者の国会議員が誕生した。快挙に喜ぶのも束の間、「国会議員が国会に登庁する」ために、参議院のバリアフリー化が進められた。

大型の車椅子で利用できるスロープや車いす用トイレの設置、パソコンの持ち込みや、本人の代わりに挙手や投票を行う介助者の付き添い。一連の合理的配慮の実施を報じるニュースを通して、健常者が日頃は気づかない「不自由さ」の数々に気づかされた。

オンラインにおける健常者と障害者の壁

こうした「不自由さ」は、私たちが毎日のように利用しているインターネット上にも無数に存在する。障害のある人のうち、半数以上がインターネットを利用しているが、彼らが私たちと同じ体験を得られているわけではない。

例えば、視覚障害者を対象にした調査では、インターネットにおいて利用したい手続きを諦めた経験が「よくある」「たまにある」と回答した人は、全盲者(目で明るさを判別できない)で91.7%、ロービジョン(全盲ではないが視覚に障害をもつ)で58.8%だった。その理由として「スクリーンリーダーで読み上げられないPDFやフォームなどがある」「背景と文字のコントラストが低く見づらい」が挙げられている。

ウェブアクセシビリティを高める啓蒙ポスター

健常者と障害者の間にある壁を取り払うため、ウェブサービスの利用しやすさ(ウェブアクセシビリティ)を向上させる取り組みが進んでいる。以前の記事では、GoogleやAppleなど巨大テック企業の動きを紹介した。

参考:誰にとっても“やさしいウェブ”を目指して——Googleがアクセシビリティ学習ツールを提供

ウェブアクセシビリティ向上の担い手は企業だけではない。イギリスでは、政府が法整備や技術基準の策定、ウェブアクセシビリティ普及に向けた取り組みが進む。先日には、英国内務省が、個人や小さな企業でも活用できるウェブアクセシビリティを高めるための啓蒙ポスターを発表した。

ポスターでは7種類の障害について、ウェブデザインの「やるべき/やらないべき (Dos/Don’ts)」がまとめられている。

尾内でべさんが翻訳を手がけた日本語版も公開されている。

すること、単純な色を使う、やさしい言葉で書く、簡単な文章と箇条書きを使う、説明的なボタンにする、簡潔で一貫したレイアウトを構築する。しないこと、鮮やかでまぶしい色を使う、比喩表現や慣用句を使う、区切りのない長文で文字の壁をつくる、曖昧で予測不能なボタンにする、複雑でごちゃごちゃしたレイアウトを構築する。

すること、画像の説明、動画の書き起こしを提供する、順序立てた論理的なレイアウトにする、HTML5を使ってコンテンツを構造化する、キーボードだけで使えるようにする構築する、リンクや見出しは説明的に書く。しないこと、画像や動画だけで情報を表示する、ページ全体にコンテンツをバラバラに配置する、文字サイズや配置に頼って構造化する、マウスや画面の使用を強制する、リンクや見出しを役立たずにする

すること、良いコントラストと読みやすい文字サイズを使う、すべての情報をウェブページで公開する、色、形、文字の組み合わせで意味を伝える、順序立てた論理的なレイアウトにする、ボタンと通知は文脈に沿って配置する。しないこと、低いコントランスと小さい文字サイズを使う、ダウンロードの中に情報を埋没させる、色だけで意味を伝える、ページ全体にコンテンツを広げる、文脈と分離した操作をさせる

ディレクシアのためのデザイン。すること、理解を助けるために画像や図を使う、文字揃えは左揃えで一貫したレイアウトを保つ、他のフォーマットでの情報提供を検討する、コンテンツを短く明確に簡潔にする、背景と文字のコントラストを利用者が変更できる。しないこと、長い文章で大きな文字のブロックをつくる、下線を引く、射線を使う、大文字で書く、前のページを覚えておく必要がある、正確なことばで入力する必要がある、ひとつの場所に情報をつめこむ

身体障害・運動障害のためのデザイン、すること、クリック可能な範囲を大きくする、操作対象の間を開ける、キーボードや音声だけで使えるように設計する、携帯電話やタッチスクリーンを想定して設計する、ショートカットを提供する。しないこと、精密さを要求する、操作対象を近づけすぎる、マウスをたくさん動かす必要がある、短い時間制限をもうける、タイピングやスクロールで利用者を疲れさせる

聴覚障害・難聴のためのデザイン。すること、やさしい言葉で書く、字幕を使うか、動画の書き起こし分を提供する、順序立てだ論理的なレイアウトにする、小見出し、画像、動画でコンテンツを分割する、予約や手続きの際に利用者が希望するコミュニケーション支援を利用できる。しないこと、難しい言葉や比喩表現を使う、音声や動画のみで情報提供する、複雑なレイアウトやメニューをつくる、長いかたまりのコンテンツを読ませる、電話を唯一の連絡手段にする

不安状態のためのデザイン。すること、操作を終えるのに十分な時間がある、これから何が起こるか説明する、重要な情報は明確に、操作を完了するために必要なサポートを提供する、ユーザーが送信前に入力内容を確認できる。しないこと、ユーザーを急がせたり、必要のない時間制限を設ける、次にすることや時間制限で利用者を混乱させる、操作の結果がはっきりわからない、サポートやヘルプにアクセスしづらい、質問に回答したユーザーを放置しない

ポスターでは、自閉症スペクトラムやディスクレシアなど、従来はあまり目が向けられなかった発達障害や学習障害にまつわるウェブアクセシビリティも紹介されている。

一連の項目は、健常者だと日頃あまり意識する機会がないかもしれない。しかし、ウェブアクセシビリティに対する意識は、障害を持つ人だけでなく健常者にとっても、より利用しやすいウェブサービスを実現する上で役立つはずだ。

それに、健常者として生きていても、怪我や加齢により、特定の操作ができなくなることもあり得る。ウェブアクセシビリティ向上は健常者も決して無関係ではない。

日本でも進むウェブアクセシビリティの取り組み

日本でも「障害者基本法」と「障害者差別解消法」において、行政機関のウェブサービスにおける障害者への配慮が義務化(事業者は努力義務)され、技術基準が定められている情報通信アクセス協議会など、普及に尽力する団体もある。

サービスの提供者だけでなく、私たち一人ひとりが当事者として、ウェブアクセシビリティついて理解を深める必要がある。上記のポスターは、そのための理解の一助となってくれるだろう。