「社会の変革とその担い手を支え、今日も社会の夜明けをつくっていきます」

代表に就任したのは、同プラットフォームに立ち上げ期から携わってきた酒向萌実さん。リリースに綴られた一文からは、複雑化する社会課題を前にしても、決して希望を忘れないという覚悟が伺える。いったい彼女たちはどのように変革の担い手を支えていくのか、思い描く“夜明け”の姿とは——酒向さんに話を聞いた。

(株式会社GoodMorning経営チーム。写真左より大東洋克さん、酒向萌実さん、家入一真さん、中川峰志さん)

「社会が変わっていかないはずがない」と思えた

CAMPFIRE内の事業としてGoodMorningがローンチしたのは2016年10月。それから3年足らず、2019年3月末時点で、累計支援額は7億円を超え、累計支援者数は7万2860人に達している。サービスが伸びた背景には、もちろん運営の並々ならぬ努力があったが、同時に社会自体もこの2年で変化してきた。酒向さんも、同プラットフォームの運営に関わるなかで、その変容を肌で感じてきたという。

酒向さん「私がジョインしたのは2017年1月。その数ヶ月後に、流通額1億円突破のリリースを出したのを覚えています。たった2年で、およそ7倍。社会課題に取り組む人を応援したい人、そのためにお金を払う人が増えている。

周囲の様子からも変化を感じています。2年前なら、友人に仕事について話しても『何だかよくわからないことをやっているんだな』という反応だったんですが(笑)最近は『GoodMorningで寄付したいんだけど良い団体ない?』と、わたしに相談してくれる友人もいます。社会は変わっていくんだ、変わっていかないはずがない、と思うようになりました」

“可哀想な個人”にアテンションが集まる危うさ

だが、社会は必ずしも良い方向にだけ変わるわけではない。なかにはネガティブな変化もある。酒向さんは、GoodMorningを通して、社会へ声を上げる一人ひとりの姿を間近で見るなかで、新たな課題意識を抱くようになった。

酒向さん「SNSやクラウドファンディングを介して、以前よりも人が声を上げやすくなりました。#MeTooのように、インターネットから始まったムーブメントが、実社会でも大きな議論を巻き起こしている。この現象自体はポジティブに捉えています。

しかし、クラウドファンディングでは、どうしても可哀想な個人のストーリーが共感を得やすく、支援を集めやすい。そのため、プロジェクトを成功させるためには、いかにその個人が悲惨な状況にあるか、可哀想であるかを強調するインセンティブが働く。共感をフックに拡散する方法ばかりが磨かれてしまっています」

拡散方法が洗練されること自体が悪いわけではない。しかし、「可哀想な個人」を強調し、共感や同情を煽りすぎた結果、背景にある課題をめぐる議論が置いてきぼりになってしまうこともある。

酒向さん「『クラウドファンディングは個人が共感でお金を集める手法だ』と、よく言われます。でも、本来は同情や共感の一歩先。課題に対して、いかに解決していくのかを表明し、応援してもらう仕組みでなければいけません。

だからこそ、一時的に感情を煽って拡散する方法だけではなく、どのように背景にある社会課題を伝えるのか、声を上げた人が批判に晒されたときにどう守るのか、拡散後もいかに運動を持続させるか、といった方法を体系化していきたい」

社会を変える持続的なムーブメントを支えるために

一時的なバズに終始するのではなく、課題意識を共有し、いかに持続的な運動につなげていくか。

酒向さんの言葉を聞き、社会運動を取材するジャーナリスト、ゼイナップ・トゥフェックチー氏の『ツイッターと催涙ガス』のなかで、SNS発の社会運動の脆さが指摘されていたのを思い出す。SNS発の社会運動が生み出す高揚感は驚くほど素早く広がるが、同じくらいの速度で忘れ去られてしまう。

実社会を変えていくためには、オンラインで派手なバズを起こすだけではなくて、オフラインの場で長期的かつ地道に活動し、政府に訴えかけ、社会制度を更新していかなければいけない。

すでにGoodMorningでは、制度や司法に変革を促すようなクラウドファンディングプロジェクトが生まれている。例えば、金銭的理由で塾に通えない中学生を支援する『スタディクーポン』プロジェクトは、実施の翌年、渋谷区の事業として組み込まれた。他にも、『タトゥー医師法裁判』プロジェクトは、日本で初めて裁判費用を調達した。

(塾に通えない子どもたちにクーポンを配布する『スタディクーポン』プロジェクト)

いずれの事例も、クラウドファンディングを起点に、既存の制度や仕組みに変容を促し、社会を前進させようと試みている。こうしたプロジェクトの担い手を支えるためには、クラウドファンディングによる一度の資金調達だけでなく、政策化に向けたロビイングの支援やSNSキャンペーン、担い手同士のコミュニティづくりなど、中長期的な支援が欠かせない。

GoodMorningの分社化は、中長期的な目線に立ち、より包括的な支援を柔軟かつ素早く提供するために選んだ道だ。

酒向さん「違和感に対して声を上げた勇気ある人が、長期的に活動を続けるための土台となるような仕組みを整えていきたいです。分社化によって、『点』の支援ではなく、より包括的な『面』の支援を提供していけると考えています」

制度に訴えかける手段を強化するため、同社はオンライン署名プラットフォーム『Change.org』との提携も予定している。

Change.orgのように、外からみると競合にあたるサービスとの提携にも抵抗はないという。競合他社と争うよりも、足りない部分を補い合ったほうが、社会に与えるポジティブな影響は大きくなるからだ。

究極的には、GoodMorningという事業を成長させること自体、酒向さんたちにとって「社会を変えていくための手段」に過ぎないのかもしれない。

課題解決の手段として「消費」を組み合わせる

GoodMorningの掲げる「点」から「面」の支援は、政策化に向けたロビイングやSNSキャンペーンの支援にとどまらない。制度や政策を変えるほどのインパクトを持つプロジェクトを育てていくには、より広く社会課題を共有し、支援者を増やしていく必要がある。

そのために、GoodMorningはプロジェクトについて発信するメディアをローンチする予定だという。

酒向さん「GoodMorningでは、一見個別のプロジェクトのように見えても、俯瞰してみると同じ社会課題にアプローチしている例は少なくありません。個別のプロジェクトをつなぐ、複雑な社会構造を、より広く、深く伝えていけたらと考えています」

メディアのローンチ後は、継続的に商品を販売できるECサービスに着手する。とくに社会課題に関心のない人も、「普通に楽しく買い物」をした先で、社会に目を向けるきっかけを得られる場をつくりたいという。

酒向さん「社会貢献を掲げるプロダクトを売るときって、『これを買うと社会が良くなる』とか『この課題解決に貢献できる』という点を前面に押し出しがちだと思うんです。それが悪いわけではないのですが、どうしても手に取る人は限られてしまう。わたしの周囲を見ていても、『社会がよくなる』という理由だけでモノを買う人は少ない。

けれど、素敵だな、カッコ良いなと感じたから購入し、そのプロダクトをきっかけに社会課題を知る人は絶対にいるはず。普通に楽しく買い物をしていたら、それが寄付になる。身構えないでできる寄付を増やしたい。そうやって、すでに活動している人やプロジェクトを支援する人が増え、活動の輪が広がっていく。そんな流れをGoodMorningからつくっていきたいです」

「社会をよりよくしたい」という理性だけでなく、「これが欲しい」という欲望に働きかける。酒向さんの言葉から、米国のアイウェアブランド『WarbyParker』を連想した。彼らはサングラスが一つ売れるにつき、途上国にメガネを寄付するプログラムによって、計50ヶ国、400万を超えるメガネを届けてきた。

米国同様、資本主義社会の日本でも、社会課題解決と消費を上手く組み合わせることで、より大きなインパクトを生み出せるはずだ。

寄付者が消費者的に考えすぎないために

しかし、寄付と消費の境界が曖昧になるにつれ、「魅力的なプロダクトやリターンがないとお金を払いたくない」と考える人が増えてしまう可能性もある。

GoodMorningでは、物やサービスでリターンを受け取る前提で支援する「購入型」だけでなく、リターンが発生しない前提で支援する「寄付型」のクラウドファンディングの両方を提供している。その線引きを保ちつつ、寄付する側が消費者的に考えすぎないプラットフォームをつくるために、何が必要なのだろうか。

酒向さん「交換的な消費が寄付へのハードルを下げる面は確かにあるので、うまく贈与をミックスしていきたいと考えています。実際、クラウドファンディングでは、『損しないように』ではなく、『課題解決のために託す』という気持ちでお金を払う人が多いんです。

少なくとも、他のサイトで価格をチェックして、最安値で買おうとする人はほとんどいない。クラウドファンディングは、どちらかというと、贈与的な消費が起こりやすい場なのだと思います」

寄付か消費かの二択ではなく、その間に「消費的な寄付」や「贈与的な消費」がグラデーションのように存在する。こうした多様な支援の仕方が広がっていけば、社会課題解決にお金を払う人が増えていくかもしれない。

課題はゼロにはならないから、何度でも「変えていこう」

社会制度や政策への働きかけ、メディアを介した社会課題の発信、贈与的な消費の促進。GoodMorningは「制度・文化・消費」という3つの側面にアプローチし、一時的なバズを超えた社会変革を目指す。

その試みの先に、どのような“夜明け”を描いているのか。その未来図は想像していたよりもずっと現実的なものだった。

酒向さん「私、課題がなくなる日なんて来ないと思ってるんです。

どれだけ時代を経ても、一切課題が発生しない社会、弱い立場に追い込まれる人がいない社会なんてありえない。日本の人口がどれだけ減ろうと、あるいは減らなかったとしても、それはきっと変わらない。

だからこそ、『これって課題だよね』と気付いたときに、『変えた方が良い』と声を上げ、周りを巻き込み、社会を変えていくための仕組みが必要。それを整えていくのが、GoodMorningの使命です」

つい極端な楽観主義や、悲観主義に陥りたくなってしまうほど、私たちが生きていく社会は複雑な課題に満ちている。そんな時代に、GoodMorningは一歩ずつ着実に、今を変えていく手段を与えてくれるはずだ。

「課題がなくなる日はない」

酒向さんの言葉は絶望的に聞こえるだろうか。インタビューを終えた私には「いつだって現状を変えていける」という希望の言葉として響いた。