人々の日常に浸透するのみならず、人の動物化を促進させているソーシャルメディアのプラットフォームにどう向き合うかは非常に重要な問題だ。

ソーシャルメディアは「感情」を増幅する。ソーシャルメディアをうまく「使おう」とすれば、感情に働きかける術を磨いていくことになる。意識的にせよ、無意識的にせよ、私たちはプラットフォームに最適化された行動をとろうとすれば変化が生じる。ハックするつもりが、ハックされていることになりかねない。

理性から感情へとシフトが加速すると、ヘイトスピーチやポピュリズムが横行しやすくなる。なんとかソーシャルメディア自体に変化を起こさなくてはならないが、とはいえ、資本主義社会において、トラフィックとデータを集めることが大きなビジネスになる現状では、構造的にプラットフォームに軌道修正を求めることは難しい。

また、プラットフォーム側に悪意がなかったとしても、高まり続ける影響力を悪用しようとする人々がプラットフォームに群がる。個人データの流出やヘイトスピーチの助長といった出来事はその一端だろう。

こうした現実に対して、解決策として提示されるのは、もっぱらスローな思考やデジタルデトックス的にスマホやSNSから距離を置くことなど、撤退に関するものばかりだ。

『サピエンス全史』『ホモ・デウス』のユヴァル・ノア・ハラリとCenter for Humane Technologyのトリスタン・ハリス、WIRED US版編集長ニコラス・トンプソンが鼎談したWIREDの記事「人間はハックされる動物である」でも、ハックされないためにはセルフアウェアネスや自分自身の理解を深めることが重要だと語っていた。

同記事では、自分がハックされないだけではなく、社会の構成要因として社会としていかにハックされないかを考える必要についても触れられていた。社会としてハックされないために可能なことは何か、というのが最近気になっている。

そんな中、「ファイト・フォー・ザ・フューチャー(Fight for the Future)」が、フェイスブックを「健常化」するためにCEOの辞任を求めて署名運動を始めたことは興味深い。

デモクラシーな手段である署名運動を通じて、声をあげる。これがどのような影響をもたらすのだろうか。マークザッカーバーグは、株式の約60%を保持しており、彼を退任させられる勢力は存在しない。

政府であれば選挙に影響も出るかもしれない。商品やサービスを提供する企業であれば、不買運動もあり得るだろう。だが、Facebookに対して、私たちがとれるアクションは何が考えられるのだろう。権力構造が異なり、簡単に手放せないほど人々の日常に染み込んでいるプラットフォームをどう扱えばよいのだろう。

今回の署名運動がバタフライエフェクトのように、なにかの結果につながっていくのだろうか。そうだとしたら、その結果とはどのようなものになるのか。これは、社会がハックされないための有効な一手になるのだろうか。

フランスでは「レズビアン」という言葉でGoogle検索するとポルノサイトのリンクばかり表示されるため、#SEOlesbien というハッシュタグを作って、レズビアンの可視化のために闘っている人たちがいるそうだ。

世界では、こうした「サイバーアクティビズム」が起こり始めている。テクノロジーの進歩や利便性に対して、安易に楽観的に構えることなく、それでも希望を持ってベターな未来に向かう一歩を模索したい。