ビジネスにおいて良い文章を書くためのコツがわからなかった

新卒1年目の頃、メールやチャットのやりとりがとにかく苦手だった。

担当するプロジェクトチームのチャットでは、先輩から次々に新しいメッセージが飛んでくる。それに対し、「どう返事しよう」と考えるだけで15分経過。考えがまとまっていないので、書いては消しを繰り返して更に15分。

最終的には、長文かつ、何が言いたいかわからない文章が仕上がった。これでいいのか確証はないままに送る。その後、「先ほどチャットした件ですが、」と言っても、先輩からは「あれ?何だっけ」という言葉が返ってきた。恐らく、あまりちゃんと読まれていなかったのだと思う。

あれから2年と半年ほど経ち、メールやチャットに対する苦手意識はだいぶ少なくなった。以前に比べればマシな文章を書けるようになったし、「どうやって返せばいいんだろう」と思い悩むことも減っている。

振り返ってみると、当時はビジネスにおいて良い文章を書くためのコツのようなものが、あまり掴めていなかった。恐らくそれは、大学の論文や友達とのLINEだけでは、身につきづらいものだからだ。

少し前に、Fastcompanyが「8 simple ways to become a better business writer(より良いビジネスライターになるための8つの方法)」と題した記事を公開していた。英語でも日本語でも、ビジネスにおけるテキストコミュニケーションに苦労する人は少なくないのだろう。

上記の記事も参考にしつつ、とくにチャットでのやり取りにおいて「読まれない」を脱するために、意識したコツを挙げてみたい。

ビジネスチャットで読まれる文章を書くための5つのコツ

(1)パッと見て理解できる文章を心がける

日々大量に飛び交うチャットを、すべて左から右へ、一言一句熟読している人は少ない。そのため、「最短距離で相手に読んでほしい情報を届けるにはどうすれば良いか」を意識している。

冒頭で「〜についてです」とトピックを提示したり、質問や依頼をする場合「何をお願いしたいのか」や「期日」を【】や太字で強調するなど、優先度の高い情報が目に入りやすいよう工夫を加えるだけで、「見て」理解しやすい文章になる。

また、日本語の場合、漢字とひらがなのバランスも大切だ。個人差もあると思うが、漢字とひらがなが2:8くらいのバランスを意識する、漢字が5つ以上続かないようにする、などを意識できるとグッと「見て」理解しやすい文章になる気がする。

(2)一文はなるべく短くする

メールやチャットで「〜なので、〜ので、〜していただいて、〜できれば幸いです」といった文章を見かけたことがないだろうか。私自身、複雑な状況を説明しようとすると、ついつい長文になってしまっていた。しかし、接続詞が何度もつづく文章は読みづらく、理解するのに時間がかかってしまう。

筆者が意識していることは主に2つある。1つ目は、接続詞の前後にある文章を見直すこと。接続詞が2つ以上続いたら複数の文章に分ける。また、「AなのでB」や「AだけどB」といった文章において、Bの方がより重要な要素であれば「Bです。Aなので」「Bです、Aだけど」と順番を変え、読み手がより素早く必要な情報を得られるようにする。

2つ目は一文のなかで削れる言葉がないかを検討すること。例えば「〜の件なのですが」は「〜の件」に、「私の方で」は「私が」に置き換える。口語では頻繁に使うが削っても意味が通じる言葉は意外と多いので、試してみると良いと思う。

(3)相手の立場に立って書く

筆者が新卒の頃、あらゆる人に丁寧な敬語を使わねばいけないと考え、議事録にもいちいち「〇〇さん」と書き、「させていただく」など、敬語を付け加えていた。ある日、先輩に「敬語とか適当でいいから早くまとめてほしい」と言われ、ハッとした。普段からあまり敬語を気にしない先輩やチームメンバーにとって、素早く正確な議事録ができ上がる方が優先度の高いことだったのだ。

ライターとして記事を書く上では「ターゲットをしっかり定め、伝えるべき情報や伝え方を選ぶ」のが重要だと言われる。これはメールやチャットにおいても同じだ。相手が効率重視でコミュニケーションを取りたい人なのか、それとも礼儀を重んじる人なのかによって、どれくらい一文を短くすべきかは変わる。敬語に厳しい上司がいる会議なら、さん付けした方が良い場合もあるだろう。

また、伝えたいトピックについて、相手がどの程度の前提情報を共有しているのか検討が必要だ。それによって、伝えるべき要素や選ぶべき語彙は変わる。素早いコミュニケーションが求められる場面でも、「相手にとって、この内容、伝え方が最適だろうか」と考えるようにしたい。

(4)相手の文章を忖度しすぎない

上記のように、相手に合わせてコミュニケーションの方法を変えるのは大事だ。けれど、相手に気を遣いすぎたり、忖度しすぎたりすることは少し違うと思っている。

例えば、相手の文章に対し、「一体これはどういう意味なのだろう?」や「この件、私はあまりわからないな」など、質問が浮かぶこともある。そんなとき、筆者は「〜という意味ですか?その場合はAだと思います。〜という意味ならBだと思います」といった形で、相手の意図を忖度して複数の回答を書いていた。これは時間もかかるうえ、どちらも的を射ていないときは、考えた時間が丸っとムダになってしまう。

相手の言ってることがわからない場合、最も大切なのは「いち早く相手の意図を理解すること」なので、迷わず「〜ってどういう意味ですか?」「あんまりわかっていないかもしれません」と伝えた方が良い。

また、相手の文章から「怒っているのかな?」「気を悪くしたのかな?」など、想像し過ぎてしまう人もいると思う。その気持ちはとてもわかるし、そういった気遣い自体はまったく悪いことではない。けれど、それを意識しすぎると、チャットやメールのやりとり自体が辛くなってしまう。こちらがコントロールできないものと割り切って、「いかに的確に情報を共有するか」に集中するようにしている。

(5)何より、適度な遊び心を忘れずに

さて、ここまで「パッと見て理解できるよう余分な文字を省こう」とか「一文をなるべく短くしよう」といった話をしてきたが、ただ単にコミュニケーションのムダを削ぎ落とそうと言いたいわけではない。

画面上の文章からはどうしても書き手の表情やテンションが伝わりきらない。こちらは笑顔でアドバイスを送ったつもりでいても、相手の頭のなかでは真顔で冷たく言い放っているように再生される場合もある。

そのため、チャットやメールでは適度にビックリマークや絵文字を使ったり、時には「やった!」など、少し砕けた言葉で感情を表現したりしている。そうした、遊び心あるやり取りを交わしていると、互いに質問や相談がしやすくなるという実感もある。そうした雰囲気づくりは、働く人や組織がヘルシーな状態を保つためにも欠かせないことだろう。

日々仕事に追われていると、ビックリマークも絵文字もない、用件のみを伝える殺伐としたチャットやメールを送ってしまいがちだ。相手と自分が健やかに仕事ができるよう、最適な文章を書けているか。どれだけ忙しくても、そう自分に問いかけることは、忘れずにいたいと思う。