「コミュニティ」を軸にサービスを多角化するコワーキングスペース

「コワーキングスペース」は新しいもの好きな人たちの間では、すっかり馴染みあるものになった。日本各地に登場しており、フリーランスやパラレルワーカー、起業したばかりの起業家などに重宝されている。

数が増えると、多様性が生じる。コワーキングスペースも、目的特化型のスペースやコミュニティ形成に力を入れるスペースなど特徴を打ち出すことで、人々に選ばれるための工夫に取り組んでいる。

勢いよく存在感を増しているのは「WeWork」だろう。充実したスペースとグローバルなネットワークで人々を惹きつけている同スペースは、日本に上陸して以来、ハイペースで展開エリアを拡大している。

WeWorkがユニークなのは、それだけではない。居住スペースやフィットネスジムを立ち上げるだけにとどまらず、学校を作るなんて話も聞こえてくる。強いコミュニティが構築されていると、そのコミュニティに対して様々なサービスを提供するのは合理的だ。

生きる上で必要なニーズを満たすためのサービスを選ぶにあたり、全く異なる雰囲気のものを選ぶ個人はほぼいない。大抵は自分に合った空気のお店やジムを選ぶ。人々と強くエンゲージしたコミュニティを運営する事業者は、バリューチェーンの前後にもチャンスが広がっているわけだ。

人々を惹きつけるNYの女性向けのコワーキングスペース「The Wing」

人は多様性に満ちている。であれば、その集合体であるコミュニティも多様であることも当然だ。すべての人がWeWorkに入るわけではなく、既存のコミュニティにあぶれる人の受け皿となるように新たなコミュニティが生まれていく。

ターゲットを絞ったコミュニティとして注目したいのが、2016年10月にニューヨークにオープンした「The Wing」だ。ここは、「女性の政治的、経済的、ビジネス的な立場の向上」を掲げる、女性向けの社交クラブ兼コワーキングスペースとなっている。

同コミュニティの創業者は政治コンサルタントとして活躍していたAudrey Gelman氏と、「Class Pass」などのフィットネス領域のスタートアップを率いた経験のあるLauren Kassan氏だ。

創業のきっかけは、彼女たちがニューヨークで働く中で抱いた課題だった。外での打ち合わせの合間に休憩したり、着替えたりしたい場合に、スポーツジムやカフェのトイレ、ホテルのフロントなど選択肢が限られていることが不満だったという。

女性のニーズを汲み取ってスタートした同スペースには、「女性の政治的、経済的、ビジネス的な立場の向上」というコンセプトに惹かれた人々が集まり、集まった人々に惹かれてまた人が集まるというサイクルが生まれた。

惹かれたのは会員だけではない。企業やブランドにとってもこの女性コミュニティは魅力だった。著名なブランドたちがコラボレーションを進めるなど、ビジネス的にも注目の場所となった。The Wingについて語り始めると長くなってしまうので、詳しくはUNLEASHの編集者が書いた記事を読んでもらいたい。

渋谷・道玄坂にオープンする「ism campus」は働く以外もサポートする

コミュニティ、コワーキングスペースのあり方は注目を集めているなかで、The Wingと同様に、女性に特化したコワーキングスペースが12月10日に渋谷・道玄坂にオープンする。

「もっと、わたしらしく」をビジョンに掲げる株式会社ismが手がける、働くを楽しくする、女性のためのコミュニティコワーキング「ism campus」だ。

同スペースは、女性に特化した過ごしやすい環境や設備、コミュニティを通して女性の居場所をつくり、刺激を受けられる空間を作り出そうとしている。オフラインの場所のみならず、オンラインの会員システムも用いて、全面的に女性をバックアップする。下記のように、提供するサービスも充実している。

  • ビューティーサービスも提供
  • イベント・コミュニティへの参加
  • メンタルケアの「保健室」活用やバックオフィスのサポートなどのケアも充実
  • コミュニティ内でプロへの相談が可能

ism campusを利用するにあたり、システムへの会員登録が必要になり、月額会員になるには内見もしくは1回以上の来店が必要となる。ismがキャリアなどで入居の可否を判断することはなく、多様な人を向かい入れようとしている。入居した人々がスペースに対する要望をコミュニティチャンネルで出し合えるようにするなど、参加型でコミュニティを良くしていく方針だ。

ism代表取締役の鈴木碩子さんは、「キャリアやライフステージの変化を考える全ての女性に利用してほしいですね。職場・仕事・ism campusというように、仕事とプライベートのつなぎ目として利用してもらえたら嬉しいです」と語っている。

多様な女性が生き方のモデルと出会える空間に

The Wingは女性のコミュニティの中でも、年齢的、職業的な多様性を作ろうとしているが、ism campusはどうなのだろうか。

鈴木さん「年齢的、職業的な多様性は作り、受け入れる場所として存在したいと思います。会社としてのismでは、いままで職業の枠に対して採用をかけるというやり方をしていません。会社にいる人が得意なことを掛け合わせて成長してきました。

その結果、ismは女性メンバー20名ですが1期目で資金調達などをせず、数千万円規模の売り上げを達成、2期目で前期が終わった段階では200%成長ラインを達成しています。

これは多様性を受け入れ、1人1人に対してオーダーメイドの仕事を作ってきたからだと思っています。このスキームをism campusをはじめ、提供サービスで多くの人が実現できるようにするのが、ismの目標です」

ほしい人を決めて、募集をかけるのではなく、人を受け入れてその人を活かして価値を作っていく。これまでの当たり前とは異なるアプローチだが、生き方が多様化している時代においては、こうした動きが必要不可欠になる。

鈴木さん「働き方改革や女性の社会進出が進む社会の中で、わたしたちは『わたしたち自身の人生』について考えていく必要性が高まっています。ロールモデルが少ないと言われる女性のライフ&キャリアをより豊かにするためには、様々な情報を知り、活用し、助け合うことが大切です。ismは、ism campusをはじめとしたサービス群で、女性の誰もが自分を好きだと思えるライフスタイルを築けるようになることを目指しています」