ガムの寿命は、短い。

噛み始めをピークに、少しずつ薄れていく甘さとほのかなミントの香り。コンビニで買ったばかりのチューイングガムは、口に入れて10分と経たないうちに無機質な味へと変わってしまった。誰も見ていないのを良いことに、口先で“風船”を作る。小さく膨らんだ風船はすぐに弾け、それを合図に私はガムを捨てた。

本来ならばここで、味のしなくなったガムの生涯はあっけなく幕を閉じる。そのはずだった。

チューイングガムの未来を変えたのは、イギリスのリサイクルカンパニーGumdropだ。同社は、イギリス国内の靴メーカーBakerと提携し、街中で回収した食べ終わったガムを再利用して靴底を作るプロジェクトを始動させた。

きっかけは、Gumdropの創業者であるAnna Bullus氏が、イギリスの街頭に捨てられているゴミを「リサイクル」という視点から観察し始めたこと。様々なゴミが落ちているなかで、彼女はチューイングガムが再利用されている事例がないことに気づいた。

イギリスの地方自治体は道端に捨てられているガムをスチームクリーナーで除去するために、年間およそ6000万ポンド(約90億円)の費用をかけていると推定されている。もちろん、回収されたガムはただのゴミでしかなかった。あまりにも、勿体ない話である。Bullus氏は、そこに目をつけてGumdrop創業の着想を得たそうだ。

ガムの原料である合成ゴムは、自転車の内部に使われるチューブの材料としても使われている。彼女はその事実に気づき、4年間の研究ののち、食べ終わったガムを再利用した資材の開発に成功。他のリサイクルされた材料とガムを混ぜ合わせ、鮮やかなピンク色が特徴のボックスを製造した。

このボックスは、イギリスの街中や駅など人通りの多い場所でいくつか設置され、“ガム回収箱”としての役割を果たしている。なかにガムが溜まれば、ボックスは箱ごとリサイクル施設に運ばれ、タバコの吸殻などガム以外のゴミが選別された後に、箱ごとリサイクルにかけられるという。

回収箱は、街中だけでなくイギリスの空港や大学でも依頼を受けて設置されており、その効果を数字として残している。事実、回収箱を設置したヒースロー空港では8,000ドル(約85万円)の、大学では24,000ドル(約250万円)のクリーニングコスト削減に成功したようだ。

これまでガムを再利用して作られたものは、ヘアコームや繰り返し使えるコーヒマグ、鉛筆や定規といった文房具などがある。Barkerとの提携により、ガムをベースに作られた靴底が誕生すれば、さらなる話題を集めるに違いない。

現時点では、女性向けにピンク、男性向けにブルーの2種類のソールを製造中。今後さらに色のバリエーションを増やしていくという。発売は、今年の後半になる予定だ。

誰かが食べたガムで作られた物を、進んで使いたいかどうかは別として、環境面や経済面では画期的であり、プロジェクト自体とてもユニークであるように思う。

味のしなくなったガムに新たな命が吹き込まれ、私たちにとってより身近なものへと変わる。ガムの生涯の、なんとロマンティックなことか。