「知識は力なり」

かつて、イギリスの哲学者フランシス・ベーコンはこう語りました。彼が活躍していたルネサンス期は、「活版印刷」というテクノロジーによって情報が人々の手に渡り、宗教革命が起きていた時期です。

同時期に「リベラルアーツ」という学問分野が生まれ、人々が「リテラシー」を身に着けたとも言われています。新しく生まれた秩序の中で人々が知識を獲得するようになり、リテラシーを高めていきました。

現代に生きる私たちはどうでしょうか。テクノロジーは進歩し、情報にはアクセスできるようになっているにも関わらず、「知」が高まっていると言うのは憚られます。

メディアから届けられる情報は早く、短く、簡素なものが増え、アクセスするのにリテラシーが必要のないものになっている、そう感じられます。

私たちは「豊か」に生きられているのか

リテラシーがなかったとしても、幸せに生きられているのであれば、それでもいいのかもしれません。では、現代に生きる私たちは幸せなのでしょうか。

オランダの新興メディア「De Correspondent」の創立メンバーであり、歴史家・ジャーナリストのルトガー・ブレグマンは、著書『隷属なき道』の中の冒頭で、「過去最大の繁栄の中、最大の不幸に苦しむのはなぜか?」と投げかけています。

かつて描いたユートピアのように、現代は物質的には豊かになりました。ですが、世界で「ウェルビーイング」が注目され始めていることからもわかるように、どうやら物質的豊かさに比例して精神的な豊かさが向上しているわけではないようです。

不確実な時代に必要な「考える」力

社会は成熟している一方で、ウェルビーイングは向上していない。にも関わらず、追い打ちをかけるように世界の変化は加速しています。

リンダ・グラットンは著書『ライフシフト』の中で「100歳まで死ねない」時代においてどう生きていくかについて言及しており、オックスフォード大学があと10年で「消える職業」を認定したことは大いに話題になりました。

生きる時間は伸びると考えられている一方で、同じ職業に就き続けられる可能性は低下しています。ロボティクスやAIの進化により第4次産業革命が進んでいる昨今では、産業構造の変化や人が担っていた仕事の代替も進みつつあります。

お金や経済、企業という事象や概念の捉え直しも起きており、ポスト資本主義へと向かう動きも盛り上がってきました。企業とは、市場とは何か、何のためにそこで活動するのかを考え、リフレーミングする必要が出てきています。

救いは選ぶ道が多様になっていることでしょうか。職業や暮らす場所の流動性は高まり、選択肢は増加し、自分にあった道を選びやすくなってきてはいます。小さな経済圏という考え方が注目を集め、近い将来には経済すら選べるようになりそうになってきています。

ただ、選択肢が増えたとしても、選ぶための軸が持てていないことも珍しくありません。不確実性のみが目につき、どうしたらいいのかわからないという状態に陥ってしまう人もいるのではないでしょうか。

英ロンドン大学University College Londonの神経学研究所のアーチー・ドバーカー氏の研究では、「先行き不透明」であることはストレスが高いこともニュースとして取り上げられていました。未来が不確実・不透明である状態はそれだけ負荷がかかります。

自由になれるはずなのに、不自由さに縛られている人たちが増えている。どうすれば、人はもっと生きやすくなるのか、本来持つ可能性を開放することができるのか。そんな課題に向き合いたい。

自由に生きるために「知」を高める

この時代を生き抜いていくために必要なのは、本質について考える力、必要な情報をとる力、内省する力なのではないか、そう考えるようになりました。

改めて「知」や「思想」、「精神」を磨かなければならない時代に生きるとして、メディアにできることは何か。今年の後半はそんな問いに向き合う時間が増えてきました。

今のメディアに必要なのはどんな社会を構築したいのかという思想であり、従来とは異なるアプローチへの挑戦です。UNLEASHも、来年は挑戦していきたい。

たとえば、私たちが挑戦したいのは、以下のようなこと。

  • 日々の仕事や暮らしをよりよくするための情報を届け、余白を生む
  • 日常的な情報発信と深く考えるための情報発信を接続させる
  • 幅広いテーマを横断的に扱い、時代のコンテキストやインサイトを伝える
  • 理論と実践を行き来し、社会のアクチュアリティを探求する

コンテンツの質や方向性、メディアの運営体制やビジネスモデル、掲げた思想に適したアーキテクチャなど、まだまだ整えていかなければならないことは山積みです。ですが、向かうべき先がおぼろげながら見えてきました。

どうすれば現代において、答えがない問題に対処する力を伸ばし、自由に生きる力を身につけることができるのか。この問いに対して、読者のみなさんと向き合っていきたい。

共に未来を向き、考える力を高めていくコミュニティを育む。それがUNLEASHがやりたいことであり、僕にとって「社会をアップデートする」ことにつながるのだと思います。

2017年はありがとうございました。2018年も引き続き、よろしくお願いします。

UNLEASH編集長
モリジュンヤ