店舗の形やありかたは、デザインから、コンテンツ、都市との関係性まであらゆる面で変化している。

2017年11月29日に、店舗・オフィスづくり総合プラットフォームを運営するシェルフィーが主催となって”未来のスタンダードとなる店舗づくり”をテーマに開催された「店舗イノベーターサミット2017」では、店舗に起きている変化を第一線で生み出す人々が登壇。店舗における未来の兆しを探っていく場となった。

『空間プロデュースとブランディングの手法』のセッションでは、トランジットジェネラルオフィスの中村佳正氏、BAKEの貞清誠治氏がゲストとして登壇。DESIGNESS™ の森一樹氏がモデレーターとして参加しセッションが行われた。

PL的視点では無く、やり抜くことが価値を生む店舗デザイン

ひとつめのパネルは「投資としての店舗デザイン」。店舗デザインは出店コストに大きく響く要素だ。デザイナー的視点と事業的視点の双方を考えたとき、どこまでコストをかけるかはせめぎ合いが起こるポイントだろう。両者共に、こだわり抜いた店舗を展開しているが、コストに対してはどのように考えているのか。

トランジットジェネラルオフィスの中村氏は、「とにかく一番を狙うことを考えている」と語る。

株式会社トランジットジェネラルオフィス プロデュース事業部 エクゼクティブプロデューサー 中村佳正氏

中村「無論、店舗のクラスの違いはありますが、基本的にはできる限り投資する姿勢です。出店戦略の面でも、商業施設の一番良い場所をとれるよう努力します。一等地であれば施設側の開業販促でもニュースに載りますし、ブランドとしての価値も高く見てもらえる。すると単価もある程度は稼げますし、場合によっては横展開も可能になります」

実際同社が手がける店舗が起点となったプロデュース案件や、ブランドを使った商品開発も行われている。たとえば、台湾発のかき氷店「ICE MONSTER」やイスラエル発のチョコレート店「マックスブレナー」ではコンビニにもスイーツとして展開するなど店舗以外の売り上げを上げているという。

中村「中途半端なものをつくっても回収できません。本気で作り、店舗は薄利でも他で稼ぐことを常に意識しています」

一方BAKEの場合、ワンブランドワンプロダクトという特徴からも、ブランドを認知してもらい、購買につながる店舗作りを考えているという。

株式会社BAKE ストアデザイン部 部長 貞清誠治氏

貞清「うちはトランジットさんよりずっとシンプルですね。ワンブランド・ワンプロダクトなので、まず立地とトラフィック。お菓子をいかに買ってもらえるかを考え、そのための立地をおさえる。次はその環境で『なんだこのお店は?』と思われるフックをつくりつつ、工房一体型というこだわりがうまく伝わるようデザインに落とし込んでいます」

投資的な観点でいえば、売り上げを指標においていることを考えると、かなり厳しくコストを見ているのではと思うだろう。しかし貞清氏は、「あくまでやり抜くことを大切にしている」という。

貞清「一応、PLはあり、数年で回収するという計画は立てますが、そこに極端に縛られることはありません。店舗作りは大きな投資ですから、ブランディングの観点でも『しっかりとやり抜く』ことは欠かせません。ブランドごとの色を最大限伝えられる店舗作りをしています」

さまざまなパートナーとブランドをつくる上で大切なこと

ふたつめのパネルは「ブランドディレクションの手法」。内装デザインを含め、ブランドには内外さまざまなデザイナーが関わる。その中でどのようにしてブランドを担保するかは重要なスキルとなる。貞清氏は、とくに苦労したという広島の店舗を例に紹介してくれた。

BAKE CHEESE TART ASSE広島店

貞清「BAKE CHEESE TART ASSE広島店は、広島駅のすぐ目の前の好立地に出店できました。ただ、このお店計3面がガラス張りの難しい形で。普通に設計するとこのポテンシャルを生かし切れない。そこで事例を見る中でこの人ならいけるのではと思った『SIDES CORE』の荒尾さんに入っていただき、多面的な視点で設計をお願いしました。」

最終的には、駅のコンコースに向けてシーソー構造で大きく傾く、ディスプレイカウンターを設け、3方向どこから見てもその存在感が際立つデザインに仕上がった。BAKEでは、この広島のケースのようにデザイナーと密にコミュニケーションを取ることで形にする世界観を共有しているという。

貞清「うちはスタートアップと言いつつ、代表が31歳と決して若くはないので、対等に話をして形作っていくことが多いですね。共に歩んでいくようなイメージです」

一方、トランジットジェネラルオフィスの場合は業態も多種多様なこともあり、店舗ごとにデザインのやり方を変えている。海外ライセンスの店舗の場合、基本的に可能な限り本国のクリエイティブを踏襲するスタイルだ。

THE APOLLO

中村「銀座に出店しているTHE APOLLOのような海外ライセンスの場合は、基本的には現地のデザイナーさんにお願いし、現地の世界観を最大限再現できるよう、空間の演出からディテール、素材ひとつに至るまで同じテイストを目指します。

皆さんも海外で日本のお店をみると『なんか違う』と感じることがあると思いますが、その逆が日本でも起こっている。そういった細かな違いが起こらないようお金をかけてでも再現する様にしています」

トランジットジェネラルオフィスが国内で企画したものに関しては、時代に合った人か、若手の人を採用するという。

中村「時代に乗っている方は提案力があったり、時代に合った提案をいただけるので合わせやすいというのがありますね。逆に若手の方にお願いする場合もあって、その際は社内で実現したいビジョンや世界観がかなり細かくある場合です。どうしても上の年代の方となると、こちらからゴリゴリお願いをしづらいので、そこを一緒に詰めていける方という狙いです」

流行をつくり定番にする、コミュニケーション戦略とは

最後のパネルは、「コミュニケーション戦略」。店舗は作れば終わりというわけではない。PRを含めどのように世の中から認知を得ていくか。それぞれの戦略を伺う。

トランジットジェネラルオフィスの場合、トレンドをつくる力がとてつもなく強い。カフェブームからパンケーキブームまで、同社が展開するとブームになると言っても過言ではないだろう。その戦略を中村氏は以下のように語る。

ICE MONSTER

中村「ブームには兆しがあります。それを見つけて、どういったコミュニケーション戦略を組めるかを都度考えてきました。たとえばICE MONSTERは出店前にかき氷ブームが来ていて、同時に台湾も流行りはじめていた。そのときに台湾へ行ったところ、ICE MONSTERがあったので、1年以内に出せるのであればやるという判断のものと契約をすぐにまとめ出店にこぎつけました。

うまくブームの兆しを見つけ、それに乗り、定番化させる。この一連の流れをコミュニケーションを通して計画しています。ブームがなければ、誰も知らないまま終わってしまいますから、乗せる波を探すことが一番の鍵かも知れません」

他方でBAKEの場合は、おいしさに対するコミュニケーションに加え、常にファッション性を意識しているという。

貞清「基本的にはBAKEでは『美味しいこと』に特化してコミュニケーションを行っています。ただ、しっかりと見てもらうために、ファッション性を常に考えていますね。その点トランジットさんは、10年以上前からファッション性のあるスタイリッシュな食を提案されている。そこはBAKEもブランディングのひとつとして大切にしていきたいと考えています」

img: Transit General Office, BAKE, THE APOLLO