11月の8日、9日の2日間にかけ、一般社団法人シェアリングエコノミー協会が主催する、シェアリングエコノミーの祭典「SHARE SUMMIT 2017」が開催された。

2年目となる今年は、『SHARE or DIE.– まちの消滅が叫ばれる時代の、生き残りを賭けた“シェア”という都市戦略 –』をテーマに設定。シェアリングシティを目指す渋谷を舞台に、都市づくりの最新事例やシェアサービスが変える消費者のライフスタイルなどの事例が共有された。

イベント2日目の第5セッションは、「人生100年時代の人口構想 – 前半 -人口減少問題と向き合う〜若者に選ばれる町を目指して〜」。ハバタク株式会社 代表取締役・丑田俊輔氏をモデレーターに。経済産業省商務情報政策局情報経済課 総括補佐/次官若手プロジェクト・河野孝史氏、株式会社マチマチ 代表取締役CEO・六人部生馬氏、ポート株式会社 取締役副社長COO・丸山侑佑氏をスピーカーに、地方から考える、町のありかたについて語られた。

日本の地方に異なるアプローチで挑む四者

前半では自己紹介も兼ね、メンバーそれぞれの現在の活動について語られた。

一人目は、株式会社マチマチ 代表取締役CEO・六人部生馬氏だ。同社では、同じ街に住む人など、ご近所の人と繋がることに特化した、ご近所SNS『マチマチ』を運営している。上京したての若者やお母さん世代が近所のお店や保育園などの情報交換に利用しているという。

六人部「東京のような都市部では近所のつながりをつくることがとても難しい。それをテクノロジーを使って実現できないかと、はじめたのがマチマチです。マチマチは現在首都圏を中心に6,000の地域に展開。渋谷区や豊島区、文京区といった自治体との提携のほか、長野県の白馬村では市民の情報交換ツールとしても採用いただき、住人同士で課題解決に取り組む一助となっています」

二人目は、ポート株式会社 取締役副社長COO・丸山侑佑氏だ。ポートは、採用支援や医療支援、金融などテクノロジーを用いてにさまざまな領域で活動するIT企業。今年で創業7年目を迎えるという。同社の取り組みの中で特に注目を集めているのは、地方創生のセッションでも話題に上がった、宮崎県日南市の油津商店街にサテライトオフィスを持つ点だ。

丸山「2014年からサテライトオフィスを設置し、現在では20人の社員が日南市で働いています。当初の狙いは採用にありました。事業を成長させるためには人を増やさなければいけない。けれど、東京ではなかなか人がとれず、試しにとサテライトオフィスを設置し日南市で募集すると、最初の1ヶ月だけで360もの応募が集まりました。いまでは事業に欠かせない存在になっています」

三人目は、経済産業省商務情報政策局情報経済課 総括補佐/次官若手プロジェクト・河野孝史氏だ。河野氏は、経産省でAI、IoT等に携わるスタートアップへの支援を行う傍ら、今年5月頃に話題を呼んだ「不安な個人、 立ちすくむ国家~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~(通称・経産省ペーパー)」を発表した、「次官若手プロジェクト」のメンバーとしても活動している。

河野「経産省ペーパーは、この手のレポートでは異例の140万DLを記録しました。近年の人々における働く目的の変化や生活における価値基準は大きく変化してきています。仕事に社会貢献生を求めず、楽しい生活や経済的豊かさを求めており、社会貢献は別の場所で実現しようと思っている。このような変化が起こるなか、経産省という国の機関ができることを日々考えています」

最後の四人目は、モデレーターも務めるハバタク株式会社 代表取締役・丑田俊輔氏だ。ハバタクは、アントレプレナーシップ教育やグローカル教育などの教育を中心とした事業を提供しいている。同社の特徴は、丸山氏のポートと同様にオフィスを東京だけでなく秋田県の五城目町という人口9,500人ほどの小さな町に構えている点だろう。

丑田「4年ほど前、海外との行き来が多かった時期に日本のローカルに興味を持ち、秋田県の五城目町に事業所を構えました。現在は東京と秋田を行き来しながら働いています。我々は地方で採用というよりは、地方での仕事を盛り上げるという意味で、秋田県と協力し地方発の土着ベンチャーを『ドチャベン』と名付け、その支援を行っています」

「若者に選ばれる町」の持つ土壌と文化

それぞれ経験も事業も異なるが、これからの日本の地方において参考になるであろう知識や経験を備える四者。今回の記事では四者で話し合ったパネルから2つピックアップして紹介する。

1つ目はセッションのテーマでもある「若者に選ばれる町」についてだ。街といっても言葉が指す意味は幅広い。都市も町だが、地方も町であることには変わりない。それぞれが経験してきたフィールにおける「若者に選ばれる町」について話が展開されていった。

口火を切ったのは、日南市で若者を集めることに成功したポートの丸山氏だ。

丸山「若者が町を選ぶ理由は2つ存在していると思っています。1つ目は故郷があること。そこに戻りたい、住み続けたいと思う人は少なくありませんから、育った場所である時点で、すでに選ばれている。もう1つは、応援してくれること。私自身日南市が好きなのですが、あそこは何か新しいことをやりたい、挑戦したいと思ったときに、絶対に邪魔しない。言い方を変えれば、応援してくれる文化がある。この文化は若者を集めるにはとても大切なものだと思いますね」

続くマチマチの六人部氏も、丸山氏に近いところで地域における「外から来る人」を受け入れる土壌を条件に挙げた。

六人部「私自身仕事で一都三県をよく回るのですが、仲良くなると『六人部君ここ来なよ』と声をかけられることがあります。そのときに『移り住んでもいいかな…』と思える場所には、大体外から来る人を受け入れる土壌やオープンな雰囲気があることが多い。ここは選ばれるために大切だろうなと思います」

デジタルとアナログを横断した「つながり」

2つ目はテクノロジーの時代における、アナログとデジタルでの”つながり”の価値。ポートのように日南市を含むリモートでの働き方は近年一般化してきている。

丸山「我々の日南のオフィスでは、商店街を歩いているときは日南市だけど、オフィスに入れば東京になると従業員も感じているそうです。地方と東京のいいところ取りをしているのが今の我々の働き方で、それを実現するためにテクノロジーが大きな役割を担ってくれています」

同様に、河野氏が働く経産省、そして経産省が支援する業界でもデジタル化のなみは大きくなっているという。

河野「我々も、デジタル化とグローバル化は大切にしており、産業政策としても『Connected Industries』というワードを基軸にデジタル化を進めています。あわせて、我々自身もどこでも仕事ができるよう場作りや、テレワークの推進も行っています」

他方で、デジタル化によってアナログなつながりはどう変化していくのか。河野氏は異なる役割として再評価を受けると考えるという。

河野「日本国内でも次々とスタートアップスタジオなどが生まれているように、アナログなつながりはあらためて見直されるようになってきていると思います。ただアナログコミュニティをどういった場所で構築していくか、どのように構築していくかについてはまだまだ考えていく余地があると思いますね」

デジタル・アナログ共つながりが重要になってきている今、このつながりは地域においても大切な要素となる。マチマチで地域のつながり、地域コミュニティに挑む六人部氏は地域のつながりが担える役割について、豊島区の例を挙げた。

六人部「アナログコミュニティの面で言えば、地域とのつながりを持つ意味でコミュニティは一定の役割を果たすと思います。例えば、我々が提携している豊島区では住民の定着率を向上させるために地域コミュニティを構築しようとしています。我々の場合オンラインツールでコミュニティを構築していますが、最終的なつながりはリアルなものになるはずです」

地方が持つそれぞれの課題を解決するためにはデジタルを活用しつつも、デジタル・アナログ問わないつながりが大切となる。しかしそのつなぐこと自体はあくまで手段であり、その背景にある文化や土壌、それぞれの地域が持つ良い特徴をいかに活かすか、いかにその特徴に気づけるかこそが重要ではないだろうか。

若者に選ばれる町に必要なのは単純に仕事だけではない。それ以外の要素をどのように構築できるかが今後各地域に求められていくだろう。