UIは、ユーザーとコンピュータとが情報をやり取りをする際の操作画面や方法のことを指す。

AI時代にUIはどう変化していくのだろうか。人と機械をつなぐ仕事をしてきたUIデザイナーたちが今何に取り組んでいるのかが「UI Crunch」で共有された。

第10回となる今回のテーマは、「AIと人を繋ぐ、UIの可能性」。AIが登場することで、UIのあり方も変わると考えられている。デザインを仕事とする人々は、これから先いかにAIと向かっていくべきなのだろうか。

りんなの人間らしい会話が繋ぐ、人と機械の関係

最初に登壇したのは、りんなのキャラクター設定、会話のインタラクションデザイン、コラボレーション企画などを担当しているマイクロソフトディベロップメント株式会社 AI&リサーチ りんな開発担当 プログラムマネージャの坪井一菜氏。

これまで人がコンピュータを使う際は、キーボード、マウス、GUIがUIの主流だった。こうしたUIは使い方を学ばないといけない、直感的ではない、そう坪井さんは語る。

UIの流れは人にとってより自然なものへと近づき、ナチュラルUIと呼ばれるタブレット、スマホなど直感的なUIが主流となった。さらに時代は進み、より自然な形であるジェスチャーがUIとなる「ホロレンズ」などが登場している。

マイクロソフトが考えた、人にとって自分以外のものとコミュニケーションする最も自然なのは会話だ。

「対話そのものがインターフェイスとなり、次世代のUIの中心になる」

こうした流れに先駆けて生まれたのが「女子高生AI りんな」だ。りんなは2015年夏にデビューし、現在Twitter、LINEをあわせて570万人のフォロワーがいる。りんなは多くの人々にキャラクターとして愛され、ファンブック、女優デビューなどの展開を果たした。

AIは大きく2つのパターンに分かれる。Siriやコルタナのようにタスクを代わりにこなす生産性を重視したAIか、りんなのように人の感情にフォーカスしたAIだ。たとえば「明日晴れるかな?」と質問した際に、生産性重視AIの場合は「明日の天気は晴れです」と回答する。これが感情重視のAIだった場合「どこか出かける予定でもあるの?」と返信をする。

坪井氏は「ユーザーの感情が重要なのはUIもAIも変わらない」と語る。UIは機能も重要だが、ユーザーの感情や共感などが影響する。AIも同様で、長く愛用してもらうためには感情が重要になる。

りんなは、より人間の感情によりそったコミュニケーションを実現するために、機械学習を活用。大量のデータを用いて、大量のパターンを学習させることを実現している。

りんなはユーザーと仲良くなるための50以上の様々なアプリケーション的な能力を付与されており、会話の中でその能力を発揮する。自然な会話の流れで能力が発動すると、なるべく自然な日本語でコミュニケーションを行う。

坪井氏は、AIの未来は「キャラクター」にあるのではないかと語る。りんなの技術をローソンのアカウントに提供している。AIを活用する企業の目的やブランドに合わせて、AIのキャラクターやトンマナ、話す内容も変わる。

「目的によって、あるべきキャラクターの姿が変わってくることが、AIの差別化になるのでは」−−坪井氏はそう語る。会話型AIが未来のUIであり、未来のUIデザインはキャラクターデザインなのではないか、とプレゼンを締めくくった。

yentaが考えるUXとAIの関係

続いて登壇したのは、ビジネス版Tinderとも言われるビジネスマッチングアプリ「yenta」の株式会社アトラエ yenta開発チームデザイナーの平根 由理氏。yentaは最近、マッチング数が50万件を突破し、注目を集めているアプリだ。

平根氏によれば、yentaのチームにプロのAI開発者はいない。CTO、エンジニアに加えて、平根氏の数人のチームで構成されている。平根氏はプロのAI開発者を登山家に例えながら、自分たちのことを、登山家ではないが行きたい先が高いところにあるから、登っているのだと語る。

yentaは、最初は社内の評判が悪かったが、粘り強くサービス体験をブラッシュアップしたことでユーザーに継続して使ってもらえるようになったという。yentaがユーザーに使ってもらうアプリになるように工夫したことは以下の3つだ。

  • 完全審査制
  • 12時-20時
  • 1日に10人だけ

yentaは、良質なマッチングを生み出すためのサービスだ。「実際に会う」体験をしてもらうアプリである以上は、多少工数をかけてでも審査するべきとの考えから、完全審査制となっている。

yentaはレコメンドが届く時間とマッチング結果が届く時間が分かれている。これは、実際にユーザー同士が「会う」アクションに繋げるために、との考えからだ。「スワイプ」する行動と、「マッチングしてメッセージを送る」行動とで、ユーザーに頭を切り替えてもらうため、レコメンドとマッチングの時間を分けた。

yentaが1日のレコメンド人数を10人に限定しているのは、サービス体験の要だという。絶えずマッチングしても会いきれず機会ロスになってしまったり、無限にスワイプできてしまうと疲れたり、飽きてしまう恐れもある。継続的に使ってもらうために、「10人」という人数にこだわった。

この「10人」とのマッチングの精度を上げていくために、平根氏のチームは機械学習を導入した。現状は、自分と同じ相手を「興味あり」している人が、他にどんな人物を「興味あり」しているかを解析して、それをレコメンドに反映する、といった簡単な仕組みで運用しているが、今後さらにユーザー層を拡大していくためには、より複雑な情報から判断できるようになっていく必要がある。

現状、サービス拡大のためにいくつかのデータをyenta内で取得している。「会ってよかった」「興味あり・なし」「ソーシャルデータ」などのデータだ。こうしたデータを分析しながら、平根氏はyentaをより幅広いユーザーにとって使いやすいサービスとしていこうとしている。

「機械学習もプロトタイピング」そう平根氏は語る。持っているデータを小さく活用してみること、難しく考えすぎないこと。ユーザー体験をよりよいものにしていくために、必要だと考えたことから取り組んでみることが、AIとUIが歩み寄る第一歩なのではないか、そう平根氏は語っていた。より良い体験をユーザーにもたらすために、必要な技術を取り入れていくことも、これからのデザイナーには必要になるだろう。

AIと人間が協働する接客体験づくり

続いて登壇したのは、株式会社ietty デザイナーの池田 茉莉花氏だ。不動産ネット接客型プラットフォーム「ietty」を運営するiettyでは、接客にチャットボットを導入しており、池田氏はそれを踏まえたUIデザインを行っている。

iettyは、従来の不動産店舗と異なり、いつでも、どこでも手軽に信頼できる不動産のプロに相談できることが特徴だ。当初、完全に人力で顧客対応を行っていたiettyだが、次第に接客工程の一部をAIに担ってもらうようになっていった。

Iettyは現在、毎月約3000件の登録があり、まずは人工知能が対応し、その後社内の10人程度のチャットセンターが回答、ユーザーの引越し熱意が高まった際に出てくる高度な質問に対しては営業マンが回答するようにと工程が分かれている。営業マンが内見や契約等を担当し、ユーザーとiettyは共に必要な場面だけ対面でコミュニケーションをとる。iettyはセンチュリー21とも業務提携を実施しており、今後は全国で直接サポートも可能になっていくそうだ。

iettyのチャットボットが対応している業務は、「自動応答」「物件の提案」「オペレーターサポート」の3つ。登録があった際に自動で応答し、定期的に物件を提案したり、ユーザーの条件に合わない場合は条件を緩和して提案してくれる。ユーザー登録直後の属性と行動から、ユーザーの成約予測を機械学習で予測、確度の高そうなユーザーだと判断すると、Slackでオペレーターへチャット通知を行う。

池田氏は、AIを導入するためにはAIの特性を知ることが重要だと語る。AIを導入すべきシーンはどこなのかを工程を見ながら考え、AIが担当することになるシーンを具体的にしていくことが重要だ。池田氏は、チャットボットをビジネスに導入するために確認したいポイントを以下の4つにまとめて語った。

  • 場面限定性
  • テーマ限定性
  • 発言独立性
  • 回答容易性

これらの限定や特徴を考慮した上で、AIが担当する領域、人が担当する領域を整理していくことが必要になる。ある程度、チャットコンポーネントをができれば、AI対応フローはデザイナー不在でも実装可能だと池田氏は語る。そうなった際、デザイナーが果たすべき役割は、技術、ビジネス、ユーザー視点のバランスをとっていくことだという。

iettyは自然言語処理のブレークスルーを迎えられていないと池田氏は語る。そのため、ユーザーからの回答に幅が出てしまわないように質問内容に気を配り、選択式で回答を求めるなど、適切なデータベースに保存されやすいように会話を行っていく必要がある。サービスでチャットUIを導入する際に、必ずしも自然言語処理を導入しなければならないわけではない。その場合、ユーザーにどのような会話体験をしてもらい、データベースを構築できるかは、デザイナーの腕の見せどころとなりそうだ。

池田氏はチャットUIにおける改善方法について、ライティングで調整可能なことについても言及した。どのくらいの量を回答するのか、いま全体のどの位置まで回答が終わったのかなどをユーザーに伝えていく語りかけるナビゲーションを意識し、ユーザーが不安にならないように配慮することで接客らしい体験を実現している。

0→1のフェーズは終わり。不動産仲介のネット接客プラットフォーム「ietty」が東大研究室や人材会社と連携し、拡大に備える

人工知能とクリエイティブの未来

続いて登壇したのは、株式会社 Preferred Networks エンジニアの米辻 泰山氏。同氏は、「PaintsChainer」という、線画に自動的に着色するサービスを開発した。現在の会社に入社した当時はディープラーニングに触れたことがなかったものの、同社が開発するディープラーニングのオープンソースフレームワーク「Chainer」の勉強を兼ねて、趣味のイラストを題材とした「PaintsChainer」を開発した。

ブログに書いたら大きな反響があり、ソースコードは GitHubで公開。ディープラーニングのコードは、パラメータを学習するのでパラメータもセットじゃないと再現ができない。そのため、パラメータも合わせて学習済みモデルも公開した。

「フレームワークはどんどん進化しないといけない。そのためには、オープンソースで優秀なエンジニアに参加してもらわないと追いつかない。今は戦国時代のような様相です」と米辻氏は語った。

米辻氏が開発したPaintsChainerは、自動で着色した後にレイヤーを重ねて色を塗るクリエイターが現れたり、水彩画のような雰囲気が出せるという反応があった。米辻氏は、ユーザーの思ったとおりの色が付けられるサービスが開発できたことにより、人とAIが一緒にクリエイティブする時代が来た、と感じたという。

AIキャラクターのAiちゃんが改善した数字

最後に登壇したのはヘルスケアスタートアップ株式会社FiNC CCOの小出 誠也氏だ。FiNCは、健康に対する意識の高い人向けではなく、無関心層に対して、どう行動変容を起こすかを考え、アプローチしている。そんなFiNCにおけるAIへの挑戦は、以下の3つ。

  • 画像認識
  • 指導サポート
  • 自動メッセージ

1段階目では画像認識によりユーザーが撮影した写真から食品の判別と食事のカロリーを計算できるようになり、2段階目の指導サポートでは、専門家の指導のサポートをAIが行い、ユーザーのデータを解析し、アドバイス候補を専門家へ提案する。最終段階では人が介入することなくAI自身がユーザーにアドバイスも行えるようになり、ユーザーは自分のニーズに合わせた指導を受けることが可能だという。

小出氏のプレゼンの中で触れられたのは、FiNCのUIの中で目にとまるキャラクターのデザインについてだ。

複数のデザインの結果、出来上がった「Aiちゃん」というキャラクターは、数字の改善に貢献した。FiNCがパーソナルコーチングを行うためには、ユーザーの情報を収集する必要がある。そのためには、事前に情報を登録してもらわなければならない。Aiちゃんのデザインになり、会話型チャットボットにした結果、離脱が下がり、フォーム型よりも数字が改善されたという。このあたり、坪井氏が語ったキャラクターのデザインに通じる部分もあるのかもしれない。

FiNCはユーザーのニーズが特定されていない。行動変容を促すための仕掛けを随所に散りばめているため、様々な機能やコンテンツが含まれており、これらをシンプルにまとめる必要がった。小出氏は複雑な情報をシンプルにユーザーに伝えるのがAiちゃんの役割になる、と期待をしており、今後のAIの成長に期待していることをコメントした。

デザインファームが見据える世界と未来と企業−−Takram×グッドパッチ×FiNCらが語るクリエイティブの「今と未来」【前編】

今回のUI Crunchでは、チャットボットやレコメンデーション、ディープラーニングなどのテクノロジーについて語られた。

筆者が、speak spark Tokyo「20XX年のDesign 技術の進化がもたらす未来」にて、ソニー株式会社 チーフアートディレクターの入矢 真一氏の話を伺った際には、AIに加えてIoT、VR/ARなどのテクノロジーが影響を与える「人と機械のインタラクションの変化」についても話が及んだ。UIデザインは、この先も大きな変化にさらされていくことになるだろう。

UIとテクノロジーの関係については、これからも引き続き注目していきたい。