「Endangered Landscapes & Seascapes Programme(ELSP)」は2026年2月13日、欧州全域における8つの新たな大規模自然再生(修復)プロジェクトに対し、総額3,200万米ドル(約48億円)の助成を行うと発表した。

ポルトガルの国土面積に匹敵する、970万ヘクタールの生態系を回復へ

ELSPは、自然環境の回復を支援する慈善団体アルカディア(Arcadia)の長期的な支援のもと運営されているプログラムだ。今回の新たな投資により、ELSPが支援する大規模プロジェクトは計29件となり、対象となる陸域・海域はポルトガルの国土面積にほぼ匹敵する970万ヘクタールに達する。

湿地、河川、森林、草原、そして海洋生態系の回復は、そこに生息する多様な生物を保護するだけでなく、地域社会にも多くの恩恵をもたらす。ELSPのディレクターであるデビッド・トーマス博士は、以下のように語る。

「アルカディアの寛大な支援により、これらのプロジェクトは『アイデア』から『行動』へと移ることができます。自然、気候、そしてその風景の中で暮らす人々に真の変化をもたらす規模で生態系を回復させる準備が整ったパートナーたちを、私たちは後押ししていくのです」

欧州各地で始動する、地域に根ざした8つの再生プロジェクト

今回新たに資金提供を受けた8つのプロジェクトは、森林、泥炭地、三角州、山脈、湿地、河川システムなど、極めて多様な景観を対象としている。それぞれのプロジェクトは、自然のプロセスを回復させ、分断された生息地のつながり(コネクティビティ)を再構築し、環境と密接に結びついた地域社会の生計を支援することを目指している。

以下は、今回採択されたプロジェクトの一部だ。

  • ビャウォヴィエジャの森(ポーランド): ヨーロッパ最後の低地原生林のひとつ。フランクフルト動物学協会が主導し、河川の直線化や人為的な排水によって劣化した水文環境を修復。干ばつへの耐性を高め、ヨーロッパバイソンやオオカミなどの生物多様性を保護する。

  • ドナウ川の中流域(スロバキア・ハンガリー): ダムや干拓によって劣化した動的な景観を修復。自然なプロセスを蘇らせ、鳥や魚の生息地を回復させるとともに、地元の農家やコミュニティに持続可能な利益をもたらす。

  • ゲディズ・デルタ(トルコ): 280種以上の鳥類が生息するエーゲ海の重要な湿地。放棄された塩田を開放して自然な潮汐プロセスを回復させ、極端な塩害や水質低下を防ぐとともに、地元の漁業を強化する。

  • 中央アペニン山脈(イタリア): マルシカヒグマなどの象徴的な野生動物が生息する山岳地帯。森林や草原、河川のつながりを回復させ、自然に基づく経済(ネイチャーベースド・エコノミー)を促進することで、地中海山岳地域の気候レジリエンスを高める。

その他にも、ベルギーのアントル=サンブル=エ=ムーズ国立公園での自然林と放牧ダイナミクスの回復、アルメニア・ヴァヨツゾルでの河川・森林生態系の修復、アイスランド・ミーラル湿地での渡り鳥や魚類のための泥炭地回復、ポーランド・ヨトヴィンギア湿地でのビーバー主導の貯水支援を含む泥炭地修復など、地域特性に合わせた多様なアプローチが展開される。

「リジェネレーション(再生)」を社会の基盤に

今回のELSPによる新たなプロジェクト群の始動は、欧州全体で大規模な自然再生に向けた機運が確実に高まっていることを示している。生態系の健康を取り戻し、未来に向けたレジリエンスを強化するというコミットメントは、単なる環境保護にとどまらず、持続可能な地域経済やコミュニティの再生という社会課題の解決とも深く結びついている。

気候危機と生物多様性の喪失という複合的な課題に直面する現代において、自然をただ「保護(Conservation)」するだけでなく、積極的に「再生(Restoration / Regeneration)」し、社会の基盤として再構築していく試みは、今後さらにその重要性を増していくはずだ。地域社会と自然が共生する新たな風景づくりへの挑戦に、引き続き注目したい。


Scaling up nature recovery in Europe: eight new large-scale restoration projects receive funding from the ELSP