船場×博展がプロデュースした「共創」の仕掛けに富んだ3日間
イベントはWITH HARAJUKUの3階を貸し切って行われ、展示やカンファレンス、ネットワーキング、ワークショップなど、会場はさまざまな催しで賑わった。企業間の交流を促す場も多く、ここからプロジェクトのアイデアが生まれることも珍しくないという。立場の違うもの同士がそれぞれの答えを持ち寄って、エシカルな未来をデザインする「共創」を生むことが、このイベントの大きな狙いだ。
当イベントの主催は、空間のプロデュースで知られる株式会社船場。1947年の創業から主に店舗やオフィスのデザインを手掛けてきた当社は、2021年に「エシカルデザイン本部」を設立し、廃棄物を大量に排出する内装業界でいち早く、循環型の空間づくりを推進してきた。「ETHICAL DESIGN WEEK」は、エシカルなサービスやプロダクトを業種の枠を超えて共有するために同年からスタートした取り組みだ。
5回目を迎える今回は、イベントの企画や制作を専門にする株式会社博展を共催に迎え、共創パートナー78社とともに、過去最大規模での開催となった。
人、社会、環境に配慮した「エシカルデザイン」の展示コーナー
広い会場内で初めに目を引くのは、船場や博展、共創パートナーによるエシカルデザインの展示コーナーだ。船場はエシカルデザインを「サプライチェーン全体で未来にやさしい空間の共創を目指すこと」と定義している。会場には社会課題に向き合ったプロダクトやサービス、プロジェクト事例などが所狭しと集まり、担当者が力を込めてプレゼンを行っていた。
まず注目したいのは、船場が顧客やパートナー企業と連携して実現した分別・リサイクルの仕組み「ゼロウエイスト」の展示だ。同社は内装業界では初めて、解体現場での廃棄物の分別を徹底し、リサイクルを推進してきた実績を持つ。実証を繰り返し、現在は廃棄物を8種類に分別することで1次リサイクル率94%を達成しているという※。
※船場では、現場で出た全廃棄物量のうち、産業廃棄物管理票(マニフェスト)の排出品目ごとに分別した割合を「1次リサイクル率」と定義。
また、船場は独自の視点で研究・収集した素材を「エシカルマテリアル」と呼び、その活用と発信にも力を入れている。開発ストーリーはどれもおもしろく、実際に触れて質感を知ることができるのも嬉しい。
このような素材は開発や製造にコストがかかるうえ、材料の回収や市場への導入がスムーズに進まないことも多い。流通の仕組みを作るにはサプライチェーン全体の協力が求められるため、船場のような生産者やメーカー、リサイクル業者などの間に立って、つながりをつくる企業が果たす役割は大きい。
さらに船場は産業廃棄物や広葉樹の曲がり木など、社会で価値化されていないものを「未活用資源」と称し、アップサイクル製品の開発・販売も行っている。今回は、未活用資源を使用したプロジェクトの最新事例が紹介されていた。
おもしろいのは、廃棄物や自然素材を巧みに取り入れることがコミュニティの強化につながるなど、付加価値を創出している点である。船場はコクヨ株式会社とともに、ワーカーが社会課題に気づき、主体的な行動を得られるワークプレイスづくりについて具体的なレポート「SXWP(Sustainability Transformation Workplace) Vol.1」も公開している。
カジュアルな交流から、新しいプロジェクトの芽が生まれる空間
12月5日と6日には、エシカルデザインに関連した7つのテーマでカンファレンスが実施された。「地場産業×コミュニティ」「スタートアップ支援」「空間と体験の創造」など、テーマはさまざま。各企業が取り組んできた経験知をもとに、エシカルな未来へのアイデアが自由に交換される場となった。
セッション後に登壇者と気軽に挨拶できるやわらかな雰囲気も、当イベントの魅力。会場には内装業界の関係者だけでなく、物流、行政、IT、出版など、多くの業種が出会いを求めて訪れていた。
同時に、別室では「ブレイクスルースタジオ」と題して、共創パートナーによるピッチイベントも行われている。気になる企業があれば、その場で情報交換ができる仕掛けだ。
さらにイベントの最後には、フードやドリンクを片手にカジュアルに交流できるネットワーキングの場も用意されていた。「ここに来れば、おもしろい出会いがあると聞いて」と訪れた人の姿も。会場のいたるところで企業間、また個人間での交流が生まれつづけている印象だった。
エシカルデザインを身近に感じるマーケット、ワークショップ、ゲームなどの催しも
会場では「エシカルクリスマスマーケット」と題したマーケットも同時に展開され、エシカルな商品を扱うショップがずらりと並んだ。原宿駅から好アクセスな立地もあり、ふらりと訪れる人の姿も多い。たまたま気に入ったアイテムから、背景にある社会課題を知ることもできる。
当イベントが一般来場者を迎えたのは2回目。前回に比べると、資源循環を学べるカードゲームやアップサイクルを取り入れたワークショップなど、楽しみながらエシカルデザインを学べるコンテンツが増えた。
建築・内装業界に限らず、分業制が進む現代で持続可能なビジネスモデルを確立するには、立場を超えた共創が求められる。プロダクトやサービスの普及には、一般消費者の理解も欠かせないだろう。
「ETHICAL DESIGN WEEK TOKYO 2024」のように間口を広げ、エシカルな取り組みを共有する場は貴重だ。今回生まれた出会いから、新たなチャレンジが始まることに期待したい。