描きたい世界に、必要な色は? ファイナンスのカラーバリエーションを理解する

「人や事業が多様なように、お金にもまた多様性が、言い換えれば“色”がある」

セッションの冒頭より、Zebras and Companyの共同創業者である田淵良敬氏は、まずこうした「お金の持つ“色”」に対する理解を持つことが、社会起業家にとっての健全なファイナンスの第一歩だと語った。

田淵良敬
日商岩井株式会社(現双日株式会社)を退職後、LGT Venture Philanthropy、ソーシャル・インベストメント・パートナーズ、SIIFなどで国内外のインパクト投資に従事。2021年3月にZebras and Companyを共同創業。同志社大学卒、IESE Business School MBA。Cartier Women’s Initiative東アジア地区コミュニティリード。Impact Collective審査員・メンター。大学院大学至善館准教授。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。

田淵氏「投資家にはさまざまな期待値があり、その思惑によってお金の“色”は変わってきます。細かいグラデーションはあるものの、企業のファイナンスに絡むお金には、リターンとリスクの高低によって大きく『エクイティ・デッド・シェア型・フィランソロピー』の4つにカテゴライズできます。

これらの資金の特性、その背景にある人の思いを事前に把握した上で、『どんな“色”のお金が、今の自分たちの事業に適しているのか』を、ファイナンスを実施する前にしっかり検討することが大事なんです。一度調達したら、もう後戻りはできないですからね」

「エクイティ」は新株の発行を通した資金調達で、目的に応じて普通株・買戻型優先株・従業員持株などの形態を選択できる。成功した際のリターンは大きいものの、相応のリスクを背負うことになる。一方で、融資や社債などの有利子負債である「デット」はリスクもリターンも比較すると低くなる。一定の売上や利益が見えていれば資金提供者がキャピタルゲインではなくインカムゲインを得ていく「シェア型」、社会的なインパクトが見えやすい事業であれば助成や寄付として受け取る「フィランソロピー」を活用することも可能だ。

本セッションのモデレーターを務めた株式会社talikiの中村多伽氏は、これまでに社会起業家の支援や育成に従事する中で、その多くが「成長を目指す≒エクイティを目指すべき」という固定観念に囚われがちだと実感してきたという。

中村多伽
大学在学中に国際協力団体の代表としてカンボジアに2校の学校建設を行う。その後、ニューヨークのビジネススクールへ留学。様々な経験を通して「社会課題を解決するプレイヤーの支援」の必要性を感じ、帰国後の大学4年時に株式会社talikiを設立。300以上の社会起業家のインキュベーションや上場企業の事業開発・オープンイノベーション推進を行いながら、2020年には国内最年少の女性代表として社会課題解決VCを設立し投資活動にも従事。

志のある若き起業家たちに寄り添うためにも「こうしたお金の“色”の違いを理解してもらった上で、どのような観点から使い分けを考えていくべきか」をこの場で言語化したいという中村氏。その問いかけに対して、田淵氏は「意思決定の仲間に入ってもらうかどうか」が大きな分かれ目だ、と答えた。

田淵氏「エクイティは相手に背負わせるリスクが高く、ゆえに意思決定にもコミットしてくる。それってつまりは、単純なお金のやり取りに留まらない『同じ船に乗る仲間選び』だということ。だからこそ、相手と対話して慎重に検討をすべきなんです」

これに加えて、田淵氏は事業フェーズによる調達方法の相性もあると指摘。おおむね、起業して間もないうちは事業のリスクが大きいのエクイティが最も現実的で、事業における社会的インパクトが見えやすければフィランソロピーも活用しやすい。

そこから実績を積み、収益性の軸が安定するとシェア型も可能になってくる。さらに事業の練度が上がり、損益分岐点を超える頃にはデッドでの調達も視野に入る――こうした諸々の背景を含めた上で、その時々で最も自分たちの事業に合った調達方法を選択することが肝要だという投げかけに、セッションの聴講者たちも大きく頷いていた。

「リターン」のパラダイムシフトが、社会起業の追い風に

社会性と経済性の間で葛藤しているのは、なにも起業家だけではない。九州の地場に根ざしたベンチャー投資に注力しているドーガン・ベータ取締役パートナーの渡辺麗斗は、VCとしてこれまでに30社以上のシード期の企業に投資を行なってきた立場から「どのような尺度で“リターン”を捉えるのか、日々悩みながら起業家さんたちと向き合っています」と胸のうちを話した。

渡辺麗斗
大学在学中の2012年より「金融の地産地消」を実践するドーガンに参画、後に入社。2017年にドーガン・ベータをスピンアウトさせパートナーに就任し、九州に根ざしたベンチャーキャピタルを運営している。コワーキングスペース「OnRAMP」の立ち上げや「福岡市スタートアップカフェ」の設立、社会起業家のためのソーシャルビジネススクール「ボーダレスアカデミー」などにも関与し、広く起業支援という風土を根付かせる活動を行っている。

渡辺氏「僕がこれまでVCとして投資してきた案件は社会起業寄りのものも多いんですが、それとは関係なく、実は投資回収した企業の半数以上は金銭的なリターンがマイナスなんです。ただ、ファンドとして全体で帳尻が合うようにリスクを分散しているから成り立っていて。

ただ、仮にその事業が金銭的に望ましい成長ができなかったとしても、地域に残したレガシーが大きかったり、10年後によりよい世界を切り開くための布石を作れていたりするケースもあるんですよね。

VCとしては、これから従来的な金銭一辺倒のリターンの概念を刷新し、多様なリターンの在り様をうまく言葉に落として、機関投資家や社会に向けてプレゼンできるようにしていきたいです」

ファイナンスにおける「リターン」の在り方のアップデートが必要――そんな思いを強めたきっかけのひとつとして、渡辺氏は「歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)」を運営する株式会社COTENへの出資について触れた。

渡辺「昨年末に2度目となる追加投資を実施する前に、深井さん(COTENのCEO深井龍之介氏)といろいろ話したんですけど、その時に彼が『起業家はみんなやりたいことがあるのに、それ自体が収益にならないと、稼いでからやろうとする。やりたい時にすぐにやれないのは、社会的にリソースの配分が間違ってるんだ!』と言ってて、たしかにそうだよなって納得しちゃって。

COTENの取り組みは短期的に大きな成長を志向するようなものではありません。ただ、彼らは『金銭的なリターンを無視する』とは言ってないし、まだどういった事業が花開くかは分からないけど、長期で見れば十分な可能性があると僕も感じています。それに、たとえ望ましいリターンが伴わなかったとしても『10年後にどんな景色を見たいのか』がお互いにそろっていれば、きっと悪いようにはならないんじゃないかと思っています」

渡辺氏の話を「これからリターンの定義が変わっていく、変えていく必要があることには大きく共感する」と受けたのは、名古屋を拠点にシングルマザーの住まい支援を行なうLivEQuality事業を立ち上げた宮崎真理子氏だ。これまでにインパクトボンド(私募社債)の発行、銀行からの融資、エクイティ(普通株式)の発行を合わせ、総額3.2億円の資金調達を実施してきた同氏は、ハッとした投資家からの言葉を紹介した。

宮崎真理子
2008年、自身の原体験からソーシャルセクターに飛び込み、創業期のNPO法人に参画。事務局長、副代表理事として、社会性と経済性の両立を目指し経営の舵取りを行う。2020年に独立した後、名古屋を拠点に千年建設株式会社、株式会社LivEQuality 大家さん、NPO 法人LivEQuality HUB の3 つの法人からなるLivEQuality事業を開始。シングルマザーに住まいと繋がりを届けるとともに、日本におけるアフォーダブルハウジング市場開拓に挑戦している。

宮崎「最近、出資してもらっている方から『もうリターンをもらっている』と言われたんです。自分は今回の社債が償還される時に『昔はシングルマザーが住まいを借りることができず、困っていたんだよ』と、今ある課題を過去のものとして語りたいと願っている。だからこそ資金を提供したと。

出資をしてから、そう語れる世の中にしていくために、個人でできることをもっと積極的にやっていこう。お金を出したことで、課題との関わりが生まれて、自分も変わった……そんなふうに言ってもらえて、とても嬉しかったんですよね。『同じ船に乗る』とは、まさにこういうことなんだなと感じました」

エクイティのグッドシナリオに必要なのは、解像度の高い“現実的な理想”

前述の宮崎氏と出資者との関係は、社会起業のファイナンスとして理想的な帰着点のひとつと言えるだろう。モデレーターの中村氏も「どエモいエピソードですね……」と余韻に浸りつつも、「世の中、そんな投資家ばかりではないのも事実。特に機関投資家には、金銭的メリットしか見ない人も少なくない」と言及した。

市場の主役をユニコーンからゼブラへとシフトさせるには、彼らのような数字至上主義者たちからも気持ちよく出資してもらう必要がある。そのためには、どのようなロジック、あるいはシナリオをプレゼンすれば効果的なのだろうか――中村氏がそんな問いを場に投げると、渡辺氏は「ロジックやシナリオの手間にある心構え、熟考した先の“覚悟”こそポイントだ」だと発言した。

渡辺「現実的なイメージとして確固たる理想を持っていること。理想を実現する手段として事業があり、そこにお金を入れることで、確実に加速するイメージが持てること。そして、“加速すること”が正しいと絶対の自信を持てること。

こうした要素が揃えば、自ずとエクイティ調達の覚悟は固まるでしょう。そこに至るまで考えきれていない段階なら、投資は受けないほうがいい。逆に言えば、この熟考の末の覚悟さえあれば、周りの投資家を説得するシナリオはいくらでも作れますよ」

自らの事業への確信、覚悟。言葉としては理解できつつも、起業家自身でそれが足るものか、熟考と言えるプロセスをたどれているのかを判断するのは困難だろう。「プレゼン資料はうまくできていても、理想の世界について考えきれていない人はけっこう多いですね」という田淵氏は、思考の精度のポイントとして「10年後に目指す世界の解像度の高さ」を挙げた。

田淵「10年後にどれくらいの規模で、どういう属性の人たちに、どのくらいのインパクトを与えていくのか。その変容を起こすためには、これからどんな人たちを巻き込んで、どういった手段を用いていくべきなのかを具体的に語れるといいですね」

経済性と社会性、本音と建前、理想と現実――「白か黒か」の二元論を超えて、両色を無理なく折り合いをつけながら同居させること。決して簡単なことではないが、それが実現不可能ではないことを、本セッションのパネリストたちは経験則として語ってくれた。彼らの言葉、信念が広がった先には、どんな未来が待っているのだろうか。ゼブラがのびのびと駆け回る世界が、今よりも少しでも明るいことを願う。