ホテルの常識を塗り替えた「Ace Hotel」

上品さとストリート感の共存した空間、隅々まで行き届いたサービス、比較的安価な料金。1999年、シアトルで創業した「Ace Hotel」は、それまで手の届きづらいイメージのあったブティックホテルのあり方を刷新した。

ホテル内では、毎晩のようにライブやアートパフォーマンス、展示会が開かれた。地域性を重んじる彼らは、ポートランドの拠点では、地元のアーティストTrish GranthamやAmy Ruppel、Ryan Jacob Smithのペイントを室内に施し、ニューヨークやシカゴの拠点ではアーティストインレジデンスを定期的に実施する。

「ホテル」ではなく、「アートプロジェクト」

Ace Hotelの創業者のアレックス・カルダーウッドは自らのホテルをそう呼んだ。

アートを愛した偉大なホテリエの想いを次世代へ

そんな彼が47歳の若さでこの世を去ってから5年近くが経った今、彼の遺志を継ぐチャリティファンド「ALEX CALDERWOOD FUND」が誕生した。

同団体は、地元のコミュニティ財団「Seattle Foundation」とパートナーシップを組み、アーティストやクリエイティブ起業家を支援していく。

同ファンドの支援先には、地元のアーティストと若者が公共スペースにアート作品を制作する「Urban ArtWorks」プロジェクトや、ホームレスにインターンシップやアートプログラムを紹介する「Sanctuary Art Center」、人種や経済状況に関わらずアート教育の機会を提供する「Arts Corps」など、シアトルに拠点を置くNPOが挙げられている。

ファンドを立ち上げるきっかけはカルダーウッド氏の追悼式。友人たちが「彼のレガシーを遺したものを継ぐために何ができるか」を話し合った。古くからの友人であり、Ace Hotelのチーフ・ブランド・オフィサーを勤めたKelly Sawdon氏は、こう話す。

彼の与えた影響は計り知れないものでした。私たちはそれを引き継がなければいけない。そう思いました。

アレックスは僕たちにとって灯台のような存在。その光をどうすれば絶やさずにいられるだろう、と考えました。彼は常に弱者の側に立とうとしました。弱くて、少し変わり者で、周りに理解されず、無視されてきた人を支えようとする人でした。

偉大なホテリエは、才能ある若きアーティストを積極的に支えようとした。彼はそれを「ごく自然で当たり前」のように行なっていたと、Sawdon氏は振り返る。

ウェブサイトの「GALLERY」には友人たちからのカルダーウッド氏へのメッセージが並ぶ。アーティストのChris Tucciも「Alexは弱者を支えた」と綴っている

人と人が力を合わせたとき、これまでにない“something”が生まれる

彼は人と人のつながりから生まれるクリエイティビティを信じ、体現した人だった。Ace Hotelを立ち上げる前、古着屋や床屋の経営に携わっている頃から、「グラフィティアーティストやDJ、服飾デザイナーなど、幅広い人をつなぎ、街にクールな出来事」を仕掛けていった。

生前のインタビューで本人は次のように語っている

若い頃、幅広い媒体に携わるデザイナーの数人と一緒に働いていました。彼らはグラフィックも、服も、インテリアもデザインしてしまう。彼らの手にかかれば「何ができるか、できないか」の線引きはなくなってしまう。

明確なビジョンや視点さえあれば、協力してくれる人を集められたなら、きっと何か(something)を生み出せるのだと、彼らは信じさせてくれました。

きっと「ALEX CALDERWOOD FUND」の支援の下、彼の遺志を継いだ若きアーティストやクリエイターたちが、次の“something”を生み出していくはずだ。