東京を離れ、地方へ行くと、あまりにも環境が違って驚く。ビルに囲まれた景色は山に代わり、普段は行く手を阻む通行人は、どこにもいない。いつも聞こえる車の音はどこかへ消え、おそろしいくらいに静かな夜が待ち受ける。

関東圏、特に東京・神奈川・埼玉・千葉の人口は日本の全人口の約3割を占める。さらに多数の企業が集結している東京では、オフィスや商業施設が立ち並ぶ道を、街行く人の間をすり抜けて移動しなくてはいけない。

もちろん、都内にも自然豊かで落ち着いた場所はある。けれども、そんなオアシスは自然を楽しもうと訪れた人たちでごった返し、あまりリラックスできずに終わってしまうことがある。

自然のなかで過ごすことが少なくなっているなか、わたしたちに必要なのは「リトリート=都市からの脱出」なのかもしれない。

「ウェルネス」のための旅

近年では、健康によいアクティビティやリラックスを重視した旅のスタイル「ウェルネスツーリズム」が注目され始め、世界的にも市場規模は4,890億ドル(約52兆円、2016年時点)に上った。過去に執筆した「心の休養が旅の目的に。世界に広がる『ウェルネスツーリズム』のトレンド」でも言及したように、ウェルネスツーリズムの内容は主に2種類。ヨガなどの身体を動かすことを通じて行う身体的なものと、森林浴などリラックスした環境の中で心を落ち着かせる精神的なものだ。

ウェルネスとは、「充実した日常生活を、明るく前向きに送ること」と言われている。身体的な健康だけではなく、精神的な健康も含まれる言葉だ。この考え方は、ウェルビーイングとも近しい。

ウェルネスの具体的な実践として、電子機器からはなれ自然の中でゆっくり過ごす「デジタル・デトックス」や、1日の活動量を減らし、効率性よりコミュニケーションを重視する「スローダウン」などがあげられる。テクノロジーの力で日々効率的に、最短距離で物事をはやく進められる社会になったからこそ、そのスピードを時にはゆるめ、自分のペースを取り戻したいという欲求が生まれているのだろう。

これらの取り組みは、自然と向き合い、心をおだやかにする時間が少なくなっていたり、都会のあわただしさに疲れ、心の健康に影響が出ている人たちが増えてきたことだったりから、注目され始めたように思う。都会を抜け出し旅をすることで、自然の豊かな場所で気持ちよく身体を動かす。都会の生活に疲れた人が、それを脱出するための手段としてウェルネスツーリズムに注目しているのではないだろうか。

都市での健康的な生活だけではなく、「都市からの脱出」をサポートする


ウェルネスツーリズムの領域には、2013年に立ち上がったサブスクリプション型フィットネスサービス「ClassPass」も参入している。フィットネスにはボクシングや格闘技、ヨガやピラティスなど様々な種類が存在し、大手・個人経営に関わらず14,000の施設が登録されている。

都会で暮らす人々の健康を支援してきたClassPassは、この度「Getaways」というプログラムを立ち上げ、都会からの脱出であるウェルネスツーリズムに誘おうとしている。

Getawaysは、ClassPass登録者が、週末の1日を使って豪華なフィットネストリップに参加できるプログラムだ。日々の生活圏とは異なった場所で、ヨガなどの健康を重視したフィットネスを体験。さらに美容や健康によい食事も楽しめる。

ClassPassの利用者であれば、通常サービスのクラスを予約するような感覚で、Getawaysの予約ができる。個人で手配する場合に必要な、移動手段の確保やスケジュール調整はもちろん不要だ。しかも、ClassPassに支払っている定額料金内で日々をリフレッシュできるイベントへ参加できる。

ClassPassはこのプログラムにより既存のユーザーに対して、サービスとの接点を増やすことに成功した。また、旅好きやウェルネスに関心のある潜在層に対しても、新たな魅力を打ち出すことができているだろう。

フィットネスから、「都市生活者のウェルネス」のためのサービスへ


ClassPassは複数のクラブと提携し、それらをサービスに集約させることで、各々のクラブがバラバラに集客していた労力が軽減したことでユーザーに支持された。利用者は、同じクラブに通い続けるマンネリ解消のために、さまざまなクラブの複数プログラムが体験できるという利点があった。

ただし、画期的に思われたサービスにも運営の過程で問題点は発生してくる。提携クラブの数はいつか限界に届き、“バラエティ豊かなプログラム”を魅力に感じて入会した利用者に、新しい価値の提供が難しくなりつつあったのだ。

ClassPassは、過去にオンラインスポーツコンテンツ事業にも進出するなどして、オフライン以外のコンテンツにも幅を広げてきた。今回はさらに“フィットネス”を超えた領域へと進出した。単なるフィットネスサービスに留まらず、「都市生活者のウェルネス」を考える企業へと進化しようとしているわけだ。

24時間いつでも情報が飛び交い、また移動手段、働き方の効率化が加速されていく社会の中で、身体を動かすフィットネスだけでのリフレッシュでは間に合わなくなってきている。社会がより便利で快適になるのと比例して、五感すべてから癒しをもたらすウェルネスツーリズムの必要性は今後も増えてくるだろう。

img: ClassPass,The Warmup,Unsplash,