昨年末アムステルダムに遊びにいったとき、現地の研究機関Waag Societyで働くデザインリサーチャーの木原共くんに「何か面白い展示ない?」となんとも雑なメッセージを送り、教えてもらったのが、「A WORLD WITHOUT US」という展示だった。

アムステルダムから電車で約40分、オランダ第4の都市ユトレヒトにあるIMPAKTまで足を運んだ。ユトレヒトはミッフィーの作者であるディック・ブルーナ生誕の地であり、ミッフィー博物館などは日本でも知られている。

IMPAKTは大型の美術館とは異なり、小規模なギャラリーのような展示空間。入口には鍵がかかっており、「あれ、今日は閉まってるのかな」と困っていると、ギャラリーの中にいたスタッフが扉を開け、出迎えてくれた。

このまま気候変動を放置すれば、人類は滅びる

IMPAKTは2018年の通年テーマとして「Post-truth」を掲げていた。そのテーマを締めくくるのが、今回の展示「A WORLD WITHOUT US」だった。「地球温暖化は進行していない」と言い切るどこかの国の大統領を放っておけば、いずれわたしたち人類は滅び、その後の世界がやってくる、というメッセージを掲げている。

ここ数年、「人新世(アントポロセン)」という言葉の注目度が高まっている。人類が産業革命を通じて地球の環境変化に大きな影響を与える時代をそう呼び、完新世という地質年代が終わりを迎えたと定義した言葉だ。

2000年にドイツ人化学者パウル・クルッツェンによって提唱されたこの言葉は、気候変動や地球温暖化と向き合わなければいけないと、わたしたちに気づきを与えてくれる。今回訪ねた展示は、人新世において、人類は滅び、われわれなき世界が立ち現れるのか、それとも…?という問いを投げかける。

「人類なき世界」を想像できるか?

でば、どんな作品が展示されているのだろう。

ベルギーのアーティストMaarten Vanden Eyndeが2008年に手がけた「HOMO STUPIDUS STUPIDUS」は、人体の解剖学的構造とは異なる形で、人間の骨格を表現した作品。遠い未来における想像上の観点から過去を振り返ることで、わたしたちの現在の姿や進化というものが、どのように変化していくのかを想像しようとしている。

Anna DumitriuとAlex Mayが手がけたAntisocial Swarm Robotsは、その名の通り“非社交的”なロボットだ。四角い箱のなかでお互いを避けるように動きながら、ときには壁やお互いに衝突してしまう。その“非社交性”に対して、人間が自身の感情的な反応をロボットに投影し、そのロボットのプログラムされた行動をどのように認識するかを探索するための作品だ。

「ARCHAEABOT: A POST SINGULARITY AND POST CLIMATE CHANGE LIFE-FORM」は、ポスト・シンギュラリティとポスト・気候変動の未来における生命とはなにか?を探索するための作品であり、水中ロボットによるインスタレーションの形をとっている。

このプロジェクトは、地球において最も古い生命体のひとつである「古細菌」と、AIや機械学習に関する最新の研究に基づき、それらを組み合わせることで、世界の終わりにおける“究極”の生物を表現しようとしている。

生きのびるためのデザイン

『FastCompany』誌が、MoMAにて建築とデザイン分野のシニアキュレーターを務めるPaola Antonelliへのインタビューを掲載している

そこでは今年のミラノ・トリエンナーレのテーマ「Broken Nature」が紹介されていた。サブタイトルとして掲げられたのは、「Design Takes on Human Survival」。人類が生きのびるために、デザインはどのような役割を果たせるか?そんな問いを突きつけるような内容だ。

まるで50年前にヴィクター・パパネックが『生きのびるためのデザイン(原著名『Design for the Real World: Human Ecology and Social Change』)という本を著したように。

「人は誰でもデザイナーである。ほとんどどんなときでも、われわれのすることはすべてデザインだ。デザインは人間の活動の基礎だからである」

パパネックがこう語るように「誰しもがデザイナー」であるならば、わたしたちは壊れていく自然、そして地球に向き合う必要があるだろう。「事実」や科学というもののが軽んじられる世界において、その反動として「世界はよりよくなっている」という『ファクトフルネス』は諸手を挙げて受け入れられたわけだけれど、まだまだ課題は山積みであることから目を背けてはない。

「A World With Us」の世界にたどり着くために、地球温暖化や気候変動といった問題を受け止め、解決に向けて取り組んでいく必要がある。今回の展示は、そんなことを考えさせられる内容であった。