パステルカラーの布にレースやリボンの装飾、そして少し窮屈そうなワイヤー。毎日動き回る仕事をしている私にとって下着選びは少し億劫なイベントだ。
朝から晩まで身につけていて楽なものがいい。けれど、毎日身につけるものだからこそ、適度にスタイリッシュで、背筋が伸びるデザインがいい。その両方を満たしているブランドは意外と少ない。
女性のリアルな声を反映した下着ブランド「Harper Wilde」
そんな悩みを持っている女性はどうやら日本の外にも沢山いるようだ。米国では「質が良くリーズナブルな値段でつけ心地のよいブラ」を手がける下着ブランド「Harper Wilde」が順調に業績を伸ばしている。
「HarperWilde」のブラは、柔らかい素材のカップやワイヤー、着用したまま調整できるストラップなど、つけ心地の良さを追求して作られている。その快適さと、シンプルで洗練されたデザイン。にもかかわらず、どの商品も40ドルと、手に取りやすい価格に抑えられている。
プロダクトだけではなく、その販売方法もユニークだ。1年に3着まではブラを1週間にわたりレンタルでき、気に入ったらそのまま購入、気に入らない場合は返品できる。実店舗に足を運ばなくても、自分の身体に合うかを確かめられる仕組みだ。
「ブラはなぜこんなにも高いのか?」という疑問が始まり
「HarperWilde」は、ビジネススクールで出会ったJenna Kerner氏とJane Fisher氏が、2017年に創業した。きっかけは二人が「ブラはなぜこんなにも高いのか?」という疑問を抱いたことだった。
「なぜ下着業界はこんなにセクシャルなイメージを押し出すのか」
「なぜ下着にこんなに装飾が必要なのだろうか」
次々と疑問が浮かんできたという。
そこで、彼女らが、下着業界について調査を進めると、業界内で影響力をもつ人間のほとんどが、男性であることが明らかになった。リアルな女性のニーズを反映したブランドが足りないのではないか。そう考えた二人は、数百人の女性にヒアリングを重ね、「わざわざ買いに出かけるのが面倒」「店員さんに話しかけられたくない」といったリアルな声を掬い上げ、下着のデザインや販売の仕組みに反映していった。
「ブラの買い物の“クソ”な部分を取り除きます」
そんな彼女たちは、本格的にビジネスを展開するにあたり、投資家へのピッチという「壁」を乗り越える必要があった。米国では投資家の93%が男性だ。彼らに「ブラの買い物がいかに面倒か」を理解し、二人のビジネスに可能性を感じてもらうには、工夫を凝らさなければいけなかった。
「ブラの買い物の“クソ”な部分を取り除きます(take the B.S out of bra shopping)」
あえて攻撃的な言葉を用いたパンチラインと共に、彼女たちは次のような動画を観せた。女性が下着を購入する体験を、男性がボクサーパンツを購入する場面に置き換え、いかに面倒な思いをしているのか、ユーモアたっぷりに伝える内容だ。
https://www.youtube.com/watch?v=7wlROi59ZUA&feature=youtu.be
こうした巧みなピッチ戦術によって投資を勝ち取った二人。設立後も毎月20%の成長を達成し、昨年には2億円の調達にも成功した。彼女たちの違和感から出発したプロダクトは、確かに女性たちの心を打ったのだ。
彼女らが「#LiftUpTheLadies」と呼びかける理由
しかし、これは数少ない成功例と言わざるを得ない。米国では女性を含む、マイノリティーが投資を受けるのが難しい現状がある。
2018年、ベンチャーキャピタルの資金のうち、女性の投資されたのはたった2.2%だった。また、コロンビアビジネススクールの研究によると、投資家たちは男性に対しては「利益が出る可能性」を、女性に対しては「損失が出る可能性」を頻繁にたずねる傾向にあったという。
こうした背景から、『Backstage Capital』など、マイノリティーの率いるスタートアップを積極的に支援するベンチャーキャピタルも注目を集めている。2015年に同社を創業したArlan Hamilton氏は、先日のインタビューで「(VCの多様性について)やっとオープンに話せる土壌が育ってきた」と、ここ数年の成果を振り返る。米国でもやっと議論のスタートラインに立ったところなのだ。
参考記事:シリコンバレーは「白人男性優位」でいいのか?マイノリティ支援に挑戦するベンチャーキャピタル
「Harper Wilde」は「#LiftUpTheLadies(女性たちを奮い立たせよう)」を企業理念として掲げる。同社がブラを通じて目指すのは、女性たちが自信を持ち、人生を切り拓いていける社会。プロダクトだけではなく、彼女らの歩み自体が、その理念を鮮やかに体現している。
HarperWildeは、先ほどのピッチの様子を紹介した記事に、こんな文章を添えてツイートしていた。
「私たちがどのようにブラ業界を変え、男性中心の投資家業界における壁を壊そうとしているのか、報じてくれた記事をありがとう。この統計を覆し、女性たちを奮い立たせるために、乾杯」
日本では、投資の偏りについて話題上ること自体がまだまだ少ないように思う。けれど、「HarperWilde」の巻き起こす波が日本にも届き、変化をもたらすことを期待してしまう。だって、彼女たちのつくるプロダクトや発信するメッセージは、日本人である私の心をも掴んで離さないのだから。