「海外で暮らしたい」

これまでの人生でそう思ったことは一度や二度じゃない。映画の影響を受けたから考えたこともあれば、世界の都市を見たいという単純な好奇心からそう考えたこともあるし、もうこの国にいたくないと愛想をつかした気持ちになってそう考えたこともある。

冷静になって考えると「いつでもここではないどこかで生きていける」「自分の人生は昨日までと変わらない今日、今日と変わらない明日が続くわけじゃないんだ」という実感がほしかっただけなのかもしれない。

きっと、自分は自由なんだという確認がしたかったのだろう。

実際に、暮らす場所は格段に選びやすくなっていると思う。インターネットによってあちこちの情報が入ってきやすくなったこともあるし、現地の人とソーシャルメディアでつながれるようになったからというのもあるだろう。LCCなどの登場によって、移動のコストも下がった。

移住のハードルも下がってきているし、国境を越えようとする人たちが出てもなんら不思議はない。ただ、国内での移住と比較すると、国外への移住は少しばかりハードルが高い。これは島国である日本ならではの感覚なのだろう。ヨーロッパのように他国が地続きであれば、もう少し感覚も違ったはずだ。

もちろん、それは傾向というだけの話だ。何事にも例外はあり、最近、出会った人はケニアのナイロビに移住して起業していた。人は、自らが暮らす場所を生まれた国に限定する必要はない。もっと自由に選んだっていい。日本に生まれ育った人でも、それは変わらない。

海外移住希望者向けのサービスの登場

「Living Anywhere」と呼ばれる時代にあっては、人が世界中のどこでも暮らせるように様々なサービスが登場している。海外への移住に関しても、支援するサービスが出てくるのは自然の流れだ。

株式会社カヤックLivingが運営する移住スカウトサービス『SMOUT』は、新たに海外移住を希望する生活者向けのサービスを開始した。

サービス上で、移住にまつわる情報を掲載して、スカウトをおこなう地域は、エストニアのタリン、ドイツのベルリン、北米のポートランド、インドネシアのバリ島の4都市。どの都市も一度は暮らしてみたい。SMOUTは、今後順次、掲載都市を増やしていく予定だという。

十分に可視化されていないだけで、海外に住む日本人は多い。海外在留邦人数調査統計(2017年10月1日集計)によると、在留する日本人の総数は135万1970人だそうだ。リモートで日本の仕事にも関わることができるようになってきているし、今後もさらに増えるだろう。

現地の人による発信

移住先を検討する上で、現地の人の声が可視化されていたり、足を運ぶきっかけがあるというのは貴重だ。日本のローカルが関係人口を増やすように、海外の都市も関係人口が増えていけば、移住の選択肢としてより有力になっていく。きっと、この先海外移住者は増えるのだ。

どこでも暮らせる時代に、アイデンティティはどこに帰属するのか

暮らしたい都市で暮らす。仕事も、暮らす場所も自分で決められる。なんともいい時代だ、と僕は思う。海外で暮らしたいという気持ちは以前ほど強くはなくなったが、今でもどこかで暮らしてみたいとは思う。

海外で暮らすということ以上に、今の僕が考えたいのはアイデンティティのゆくえだ。すべてが自分で自由に決められるようになったとき、人のアイデンティティはどこに帰属するのだろう。また、多くの人が海外も含めてフラットに暮らす場所を選べるようになったとき、「国」はどのような形になっていくのだろうか。

個としてはこんなに面白い時代はない。それを噛み締めながら、仕組みや土台、帰るべき場所について思いを馳せていきたい。