「あなたが一冊の本も窓もなく、誰とも会えない部屋にいるとする。外の世界を知る手がかりは「ニュース」のみ。24時間ニュースを放映するテレビとニュースサイトしか閲覧できないパソコン、扉の隙間から毎日届く新聞だけが、社会で何が起きているかを教えてくれる。その部屋で10年間を過ごした後、外の世界に出たいと思えるだろうか?」

あなたならどう答えるだろう。質問の主は、6万人の有料購読者を抱えるオランダの新興メディア「De Correspondent」の編集長、Rob Wijnberg氏。彼は「恐らく誰も外に出たいと思わないだろう」と言う。その理由は明確だ。

「なぜならニュースは、人をストレスと心配と偏見で満たし、皮肉屋で疑い深く、何より無知に変えてしまうからだ」

テレビやラジオ、SNSを介し、人々はこれまでにないほど、膨大な量のニュースに触れている。そのなかで、メディアが人々の“関心”を獲得し、収益を上げるには、センセーショナルで対立を煽る情報がもっとも効果的だった。その結果、米国だけでなく、世界中で社会の分断が広がっている

参考記事:“フェイク”ではないニュースに隠れた大きな課題。オランダの新興メディア編集長のジャーナリズムへの眼差し

速報は出さない。オランダ発の寄付型メディア「De Correspondent」

ニュースの切り取る社会の姿が偏っていること、それが人々が持つ社会への眼差しを少しずつ歪めてしまったこと。Wijnberg氏は、これらの課題を踏まえた上で、オランダの外にいる、世界中の人々にこう呼びかける。

「私たちと一緒に、“速報ではない”ニュースムーブメントを始めませんか?」

Wijnberg氏の率いる「De Correspondent」は、現在、英語版「The Correspondent.」のローンチに向けて、寄付購読者を募っている

「De Correspondent」は2013年に誕生したオランダの新興メディア。立ち上げ時のクラウドファンディングで、30日間でおよそ1,700万ドルを集め、メディア界隈を驚かせた。現在はおよそ6万人の有料購読者を抱えている。

“速報ではないニュース”を掲げる通り、「De Correspondent」では、特派員の課題意識にもとづいて、一つのテーマに深く掘り下げる。2016年にブリュッセルで爆破テロ事件が起きた際も、他のオランダのメディアが一斉に事件を報じるなか、あえて別の出来事を伝えた。

また、彼らは「届け手」と「受け手」という枠にとらわれず、ジャーナリストと読者の間にフラットな関係を紡いできた。コメント欄では、読者が積極的にコメントし、ジャーナリストはそこで得たアイディアを次の記事に反映させる。決まった答えを提示する代わりに、一つ一つの記事を通して、読者とともに社会を探求してきたのだ。

こうしたジャーナリズムのあり方を一つの国を超えて世界中に広げていく試み。すでに多くの寄付が寄せられている。開始5日間で87ヶ国、11378人が寄付購読者(彼らは創設メンバーと呼ぶ)となった。

寄付購読者であり、英語版のアンバサダーでもある、米国のコメディアン・作家のBaratunde Thurston氏は、風刺サイトの「The Onion」や政治風刺コメディー番組「Daily Show」で活躍した人物。彼は自身のブログでニュースに対する課題意識を次のように綴った。

「私たちが日々触れているニュースは、私たちがどうして今の状態にいたったのか、よりよい状態を目指すために何ができるのかといった、文脈を一切届けてくれない。整理されていない情報の固まりが必要な時に届けられるだけだ。」

あなたのタイムラインに並ぶニュースはどうだろうか。起きている現象の背景や、それを乗り越え、よりよい社会をつくるための手がかりが見つかるだろうか。もし、私と同じようにThurston氏の言葉に共感したなら、「De Correspondent」の掲げる原則に希望を感じられるはずだ。

「私たちはステレオタイプと偏見、恐怖による煽動と戦っていく」
「私たちは課題を報じるだけでなく、それに対して何ができるのか伝える」
「私たちはあなたたちのような知識溢れるメンバーたちと共に創っていく」

メディアに携わる者として、時に情報の波に疲弊してしまう読者として、彼らの挑戦を心から応援したいと思う。