先日、米国の大手辞書サイト「Dictionary.com」が2018年の単語を発表した。選ばれた単語は、「misinformation(虚報)」。「誤解を生み出そうとしているかどうかに関わらず、広がってしまう誤った情報」を指すという。

背景にあるのは、SNSを介して誤った情報が広がっている現状だ。同社は、政治や経済、アイデンティティや環境問題など、幅広い分野で“分断”が起きているなかで、誤った情報がもたらし得る影響を危惧している。

「虚報」の時代、人々が社会について思考するための材料となる、情報や視点を届けるジャーナリストの役割は計り知れない。TIME誌の「今年の人」にサウジアラビアで殺害されたジャマル・カショギ氏ら、複数のジャーナリストが「guardian(守護者、監視者)」として選ばれたことにも象徴されている。

しかし、彼らを取り巻く状況は年々厳しくなっている。雑誌や新聞の発行部数は右肩下がりをつづけ、特に米国やイギリスでは地方メディア減少が止まらない。

ウェブを軸に展開するメディアも多いが、感情を煽り、一時的なPVやシェアを得ることに特化したフェイクニュースと正攻法で戦うのは容易ではない。勢いよく登場した新興メディアが、編集者やライターを大量に解雇したニュースも聞こえてくる。購読型のモデルを採るメディアが増えているのも当然の流れだろう。

どうすれば「虚報」に負けない、良質なジャーナリズムを守っていけるのだろうか。

Googleが“デジタル時代のジャーナリズム”を育む

そんな答えのない問いに挑むメディアに対し、GoogleやFacebookといった巨大プラットフォームが支援を強化している。

Googleは、2017年“デジタル時代の優れたジャーナリズムの育成”を掲げ、「Google Initiative」を始動した。同イニシアチブは、メディア向けのプロダクト開発や、メディア事業者との共同研究、優れたプロジェクトを対象とした助成金プログラムからなる。昨年だけで、パートナーとなるメディアに126億ドルを支援してきた。

先日には、アジア太平洋地域でも「GNI Innovation Challenge」を開催すると発表。革新的なニュースプロジェクトに対し、最大30万ドルの助成金を用意する。

対象となるのは「革新的でユニークで、信頼に足るジャーナリズムによって、人々に学びや気づきを与えると同時に、より持続的なニュースのエコシステムを推進しているプロジェクト」だ。

すでに、米国やヨーロッパでは助成金プログラムが始まっている。選出されたプロジェクトには、4億以上のデータソースから関心に近い情報を収集できるプラットフォーム「The Listening Center」や、異なる地域に住む700人以上のジャーナリストが調査報道に必要な情報や手法を共有するネットワーク「Bureau Local」が並ぶ。

Facebookは地方メディアの衰退を救えるか?

今年11月には、Facebookが英国のジャーナリスト育成期間「National Council for the Training of Journalists」に570万ドルを寄付。80人の“コミュニティジャーナリスト”を、2年間にわたり地方の報道機関に派遣し、同機関によるトレーニングを提供する。

広告収益の減少により、英国の地方メディアは、閉鎖や人員削減が相次いでいる。彼らを応援する取り組みに対し、参画するメディアの担当者は「私たちは素晴らしいコンテンツを通じて人が集い、つながる場をつくりたい」と語る

しかし、「そもそも地方メディアが収益を失い、衰退する原因はFacebookがつくったのではないか」あるいは「“素晴らしいコンテンツ”も結局はFacebookのアルゴリズムに左右されるではないか」といった意見も挙がっている

たしかに、フェイクニュースの温床となってしまったプラットフォームによるメディア支援には、こうした批判がつきものだろう。しかし、彼らがメディアやジャーナリズムに与えた功罪と責任を自覚し、支援に乗り出していることは、歓迎すべきではないかと思う。

ニュースの有料購読を推進。カナダ政府によるメディア支援

企業だけではなく、政府がメディアやジャーナリストを支えようとする事例もある。先日には、カナダ政府が5年間で6億ドルを費やし、メディア業界を支援する税制政策を行うと発表

ニュースメディアが独自コンテンツに必要な制作費や、政府が認めたニュースメディアの有料購読料、ジャーナリズム関連の非営利団体への寄付金が、税金控除の対象になる。

カナダでは2010年から3分の1のジャーナリストが職を失った。オンライン広告の収益は、ほとんどがGoogleやFacebookが占め、国内のメディア市場は縮小を続けている。

購読型の新興ニュースメディア「the Discourse」のファウンダーErin Millarさんは、政府の動きについて「米国のように、読者からの購読料や寄付で運営するメディアが増え、業界を刷新する動きが加速するだろう」と期待を寄せる。一方、控除対象となるニュースメディアを政府機関がどのように選出するのか、その基準やプロセスは、いちジャーナリストとして注視していきたいと述べた。

購読型の新興ニュースメディア「the Discourse」

人々がよりよい社会について思考するために良質なジャーナリズムは欠かせない。そして、そのジャーナリズムに関わる人間を支えるには、持続的なビジネスモデルがなくてはならない。

メディアやジャーナリスト、巨大プラットフォーム、政府が手を取り合い、新たなエコシステムを構築する動きが、「虚報」の時代を打破する一歩になることを願っている。