モノやサービス、場所などを共有・交換するシェアリングサービスは、平成生まれの私にとって何ら珍しいものではない。メルカリやAirbnb、Uber、CAMPFIREなど、具体的なサービス名も挙げればキリがないし、それらを日常的に利用している。

物や場所の「所有」ではなく、「共有」や「交換」で成り立つ経済は、シェアリングエコノミーと呼ばれる。「所有」のために過剰な消費や生産を行う従来の経済にとって代わり、より効率的で持続可能な経済を実現すると期待が集まる。私にとって何ら違和感のない未来図だ。

しかし、PwCの調査によると、日本に住む「16歳~70代の男女」のなかで、「シェアリングエコノミー」という言葉を知っている人は20%に過ぎない。日本全体でみると、「違和感のない」と思っている方が少数派なのかもしれない。

ただし、昨年の調査と比較すると「シェアリングエコノミーのサービス」について「いずれかを知っている」と答えた人は10%も増加し、40%を超えた。日本においても着実にシェアリングエコノミーの波が訪れつつあるようだ。

着実に広がる“シェアリングエコノミー”の祭典

そんなシェアリングエコノミーについて、政府や企業、NPOなど、多様な視点から語り合う年に一度の祭典「シェアサミット2018」が、9月7日から8日にかけて開催された。

トークセッション「SHARE × LOCAL」では 「2020年以降の国と地域を考える」をテーマに、いかに日本においてシェアリングエコノミーを広げていくか、それによってどのような未来が描けるのかについて意見を交わした。

登壇者は、PwCコンサルティング合同会社の野口功一氏、産業経済新聞社の大坪玲央氏、そして内閣官房シェアリングエコノミー促進室の高田裕介氏。空間のシェアリングサービスを提供する株式会社スペースマーケットの小池ひろよ氏がモデレーターを務めた。


(トークの冒頭「シェアリングサービスを使ったことがある人?」という質問を投げかけると、会場の半分くらいの手が挙がった)

「何だか怖い」という不安をどう変えていけるか

まずは、冒頭で紹介した調査について、PwCの野口功一氏が紹介する。野口氏自身もシェアリングエコノミーサービスに大きな可能性を感じているという。

野口氏「意識調査からわかる通り、『シェアリングエコノミー』という言葉の認知度は低いけれど、『シェアリングエコノミーのサービス』を知っている人は増えている。概念より先に具体的なサービスやブランドが先行して広まっている状態です。この傾向が続けば、シェアリングエコノミーという概念の認知度も高まっていくでしょう。

一方、『トラブルが怖い』や『品質が担保されていない』といった不安もあります。調査結果を見ても、使わない理由として、安心、安全に対する懸念を挙げている人が多いんです」

野口氏の指摘通り、調査結果によるとシェアリングサービスを実際に利用してみた人の割合はわずか13%で、認知している人のうち3分の1以下しか利用していない。こうした認知と利用のギャップを埋めるためには何が必要なのだろうか。

そのヒントになるのが、シェアリングエコノミーに関わる多くの事業を取材してきた産経新聞の大坪玲央氏の言葉だ。大坪氏は、「シェア」という感覚自体が、決して新しいものではないと語る。

大坪氏「シェアリングサービスというと何だかよくわからない、新しいものという印象を受ける世代も多いかもしれません。ただ、昔から隣の人に醤油をおすそ分けするような、“シェア”は日本に当たり前のようにあった。だからこそ、肌感としてシェアリングサービスは広い世代に受け入れられる可能性を持っていると思っています。」

たしかに、「シェアリングエコノミー」や「シェアリングサービス」という言葉に身構えてしまう人は多いだろう。しかし、大坪氏の言う通り、「シェア」という行為そのものは、まったく新しい何かではない。サービスを提供する企業は、安全性を担保するだけでなく、「どのような体験ができるのか」についてわかりやすく伝えていく必要があるだろう。

政府が期待する“起業しやすい社会”

シェアリングサービスの信頼を担保するために政府も動き始めている。内閣官房シェアリングエコノミー促進室の高田裕介氏が同室の取り組みを紹介する。

高田氏「内閣官房シェアリングエコノミー促進室は、シェアリングサービスの事業者向けに情報提供・相談窓口機能のほか、自主的ルールの普及・促進を行っています。

相談に来る人や情報提供先で出会う人は年齢や立場も様々です。多くの人が、シェアリングエコノミーやシェアリングサービスに関心を持ち始めているのだと実感しています」

さらに、高田氏はシェアリングエコノミーの普及が、“起業しやすい社会”をつくると予想している。

高田氏「シェアリングサービスによって、個人がモノや場所、スキルなどを共有し、報酬を手にするのは珍しいことではなくなりました。また、起業に必要な資金や場所を得る手段も多様化しています。年齢や立場問わず、小さなビジネスを興すハードルはどんどん下がっていく。起業という形に限らず、個人がより自身の能力を発揮しやすい環境になってほしいと考えています」

最近ではクラウドファンディングサービスのように想いを持った人が支援を集める場もある。自らの夢や目標を、お金や時間、場所を理由に諦める人が、一人でも減ることを期待したい。

災害時に力を発揮する“シェア”の仕組み

セッションの後半では、9月に関西を襲った台風や北海道地震を受け、災害時にシェアリングサービスが担い得る役割について、モデレーターの小池氏を交えて議論した。

小池氏「今回のように大きな災害があったとき、シェアリングサービスを適切に利用することで、より素早く、支援を届けられるのではと考えています。

そのためには、民間と行政が手を取り合い、災害の際にすぐ必要な支援ができるような制度を整えていってほしい。例えば、災害時に個人が家を宿泊施設として提供しようとしても規制の関係でなかなか難しい。それらを緊急時に取り払えれば、場所を貸したいという人は多くいるはずです」

高田氏は小池氏の意見に頷き、一例として徳島県の「シームレス民泊」を挙げる。

高田氏「『シームレス民泊』は、行政の認可を受けた個人の家や施設を、災害時に避難所として活用するという取り組みです。すでに徳島県内の複数の自治体で始まっています。

シェアリングサービスは、単に経済性や利便性が高いだけでなく、有事の時に人々の力を集める手段としても機能する。地震や異常気象が増えているからこそ、緊急時も利用できるようなサービスが増えていくといいですよね」

野口氏は、行政のなかにシェアリングサービスの窓口となる組織を置くべきだと指摘する。

野口氏「停電して電気が使えなくなると、個人がシェアリングサービスを利用するのが難しいこともあると思います。だからこそ、自治体がシェアリングサービスの窓口となり、市民にサービスを提供するような、そんな制度が求められるのだと思います。

また、災害時には被災地に支援物資が届いても、余ってしまったり、特定の物が足りなくなったりするケースもあります。これらを適切に分配するようなシェアリングのシステムを行政内に構築していけるといいですよね」

人手や金銭、モノを滑らかに流通させ、災害時には避難場所や物資を届けるインフラにもなり得るシェアリングサービス。

日本には、少子高齢化や人材不足、災害など、向き合うべき課題が沢山ある。そんなとき、誰かと必要なものを、必要なときに分け合える仕組み、何よりその安心感が、未来への活路を拓くだろう。

だからこそ、私たちにできることは、よりよい未来への期待と、好奇心を胸に、新しいサービスを使ってみることなのではないだろうか?

未来を悲観するのは簡単だ。けれど、様々なものを誰かと分かち合い、社会を変えうる大きな挑戦をスマートフォン一台で始められる。これからもいちライターとして、そんなワクワクを伝えていきたいと思っている。