自分の子どもはかわいい。出産してから子どもの投稿しかしなくなった同級生は多く、SNSは子どもの写真で溢れている。かくいうわたしも、わが子は世界一かわいいと思う親バカのひとりだ。

多くの親は、子どもの顔をSNSに晒すことの危険性をなんとなくわかっている。子どもの顔をスタンプで隠したり、鍵付きアカウントに切り替えたりするのはそのためだ。マンションの外観や背景画像から住所を特定することが可能な時代、予防線を張っておくに越したことはない。

一方、子どもをタレントやモデルにしたいという願望を持つ親もいる。手軽に活用できるメディアが『YouTube』だ。

親が子どもを利用して、洋服やおもちゃを紹介させたり、開封動画を投稿する事例が目立つ。YouTubeの視聴回数ランキング(日本市場)では、第2位に約660万登録者を抱え、累計55億回の視聴回数に上る、子どもユーチューバーチャンネルがランクインしているというデータもある。

キッズ動画配信スタートアップ、Pocket.watchが資金調達

米国では、子どもユーチューバー向けプロダクション企業「Pocket.watch」が1,500万ドル(約16億円)もの資金調達を果たした。子どもがゲームやおもちゃを紹介する動画の制作・配信をするスタートアップである。

子どもを主役にした動画が人気なのは米国も同じだ。YouTubeの人気チャンネル上位10個のうち、5つがキッズコンテンツであり、全体の視聴率の53%を占めているとのデータもある。こうした背景から子どもユーチューバー動画市場が注目されることに納得がいく。

近年、子どもに人気のキャラクターを起用して、ショッキングな動画内容を配信する「エルサゲート」と呼ばれる問題が発生している。この点、Pocket.watchのようにきちんとプロダクション側が監修した動画が配信される傾向は親としてもうれしい。

子どもの情報をばら撒いた、その先にあるもの

プロダクション企業の登場により、動画の質が担保されるようになってきた。しかし、コンテンツとして消費される子どもたちは、自分の置かれた状況をわかっているのだろうか。

動画の中の子どもたちは、みな楽しそうにおもちゃやゲームを紹介している。だが、この無邪気さが踏みにじられる危険性があることは肝に銘じなければならない。

顔をさらし、リスクを取っているのは子どもなのに、動画で儲けているのは大人たちだ。炎上した場合、出演している子どもに対して罵倒コメントがつく。

実際に「ブス」「バカ」「キモい」などのコメントがついている動画もある。通っている学校名や住所をさらされることもある。このようなコメントを、成長して思春期が訪れた子どもたちが目にすれば傷付くに違いない。

子どもを有名にさせたい。その気持ちは責められることではない。しかし、芸能事務所に所属して活動する子役タレントに比べ、プロダクションに所属しない子どもユーチューバーの親は大きな責任を背負う。皮肉にもPocket.watchに代表される、プロダクション企業に所属せずとも多額のお金を稼ぐことのできる仕組みが仇となる。

事務所は守ってくれず、誹謗中傷コメントに対処するためのマニュアルがあるわけでもない。親の情報社会に対しての無知が、子どもを大きく傷つけるリスクを生んでしまうのだ。

子どもがいじめにあったら?犯罪に巻き込まれたら?

一度コトが起こってしまえば、後戻りはできない。投稿を消したとしても、別のユーザーによってすぐさまアップされ、世の中から完全に消すことはほぼ不可能だ。たとえば子どもを虐待しているとも捉えかねない動画を配信したチャンネルが凍結された事例が挙げられる。

子どもの情報をネットに出したのは親なのに、その責任を取らされるのは子ども。その意味の重大さを考えるべきだろう。

ネットに流れた情報はどこへ行くのか

ネットに情報を流すこと。これは子どもたちに限らず、わたしたち大人にも注意が必要だ。

その場のノリで投稿した文章、流行りのアプリに残したカップル動画、酔っ払った勢いで載せた写真…一つひとつの投稿が、どのような形で未来の自分に跳ね返ってくるのか、現時点ではわからないリスクが潜む。

現代のネット社会において、完全に個人情報を隠すことはできない。自分が徹底して個人情報を隠しても、友人が自分と一緒に写っている写真を投稿することもあり、芋づる式に個人情報はバレるだろう。だからこそ、自分の情報だけでなく、他人の情報を不用意に流さないことも大切になるはずだ。

友達しか見られない設定にしているから大丈夫。鍵をかけているから大丈夫。本当にそうだろうか。どこかで情報が漏れるかもしれない。知らないうちにプライバシーポリシーが変更されるかもしれない。自分の投稿を負の遺産にしないために、わたしたちはなにができるだろう。なにをするべきでないのだろう。未来の自分のために考えたい。

Img : reynermedia